幼馴染様!
「俺、フランスに出張することになった」
「えっ…?」
つい今しがたまで、鼻歌交じりにご機嫌で、俺の隣を歩いていた、人形のような美しい顔立ちをした幼馴染が、絶望の表情を見せた。
もちろん、先程までの、ご機嫌な様子は一切ない。
「たっくん、それ、いつの話?」
「んー、多分来年に行くことになるんじゃないか?」
「どれ位向こうにいるの?」
「仕事の進み具合にもよるけど、1、2年って言われた」
俺がケロッとそう言うと、雫は等々足を止めてしまった。
「ちょっ…流石に、道の真ん中は邪魔だって」
今は、人通りの多い時間帯。流石に、ど真ん中で突っ立っていたら邪魔にしかならない。
俺は雫の手を引っ張って、赤い看板が特徴的な店の入口脇に避難した。
その間、雫はなされるがままで、焦点が定まっていない目をしている。
「おーい、大丈夫か?」
俺が、ヒラヒラと目の前で手を振ると雫は、ハッと我に返って、ジワリとその大きな瞳に涙をためた。
これには、俺が焦った。
こいつの容姿は、ひどく目立つ。
それこそ、さっきから視線が突き刺さっていたい。
特に嫉妬の視線が。ハイハイ、俺みたいな地味な男がなんでこんな美女と一緒にいるんだって思ってるんだろ。
だから、雫を泣かせると、俺がもれなく悪役になるっ…!
「雫、落ち着け。別に、その間会えないわけじゃない」
「でも、たっくんと毎日会えないなんて…」
あーーーっ!!そうだった、コイツは、重度の幼馴染依存症だった。
小さい頃から、可愛かったこいつを、俺が甘やかしまくった結果、俺にベッタリになってしまった、雫。
流石に、高校生位で、アレおかしいなとなってから、なるべく距離を置こうとしているのだが、職場こそ違うものの、俺の会社の目と鼻の先の所に就職。結果、変わらず毎日のように、一緒に通勤している。
俺は、フゥとため息をついた。
相変わらず、幼馴染一筋のコイツは、浮ついた話もなく、友人関係もほぼ、俺と一緒。
だから、この俺のフランス出張を機会に直して欲しい。
「雫、よく聞け」
「うん」
「俺とお前は、幼馴染だ。…はい、ショックそうな顔をしない。ただの幼馴染じゃないだろ?俺らは、兄弟同然だろ?そんな絆が、たかだか1、2年の出張で、消えてしまうのか?」
要するに、雫は、俺との繋がりを切らしたくない。
ならば、俺との絆は不滅のものだと、思わせる。
そうじゃないと、今までみたいに、俺の彼女を追い返すなんてことをして、俺が取られるのを防ぐということをしそうだ。
ちなみに、雫のそのせいで、俺は女と手を繋いだことも無い。
だって、体育のペアだって、いっつも一緒だったし…。
それは置いておいて、まずは雫に安心してもらうのが、先だ。
そしたら、俺の意思を無下に出来ない雫は、しぶしぶ要求を飲んでくれるだろう。
未だに、不満そうな、雫だが、先ほどのような涙は見当たらない。
よし、あと少しだ。
「それに、フランスに行っても、お前は俺に会いに来てくれるだろ?なら、寂しいことは無いじゃないか」
ダメ押しとばかりに、ニッコリと微笑んでやれば、雫はパアッと表情を明るくした。
ふっ、どうにかなったな。
「そうか、会いに行っていいんだね?」
「もちろん、いいぞ」
んー、なんか嫌な予感はするが、まあ、ずっと入り浸ることはしないだろ!…多分。
「分かった!じゃあ、毎日会えないのも、我慢する」
雫は健気にそう言って、俺の首にしがみついてきた。
そう言えばコイツ、俺と同じくらい身長あるんだよな…。
俺がチビという訳では無いぞ!?
そして、そこの羨ましそうに、こっちに嫉妬の目を向けて、隣の女子(多分恋人)に足をふまれている男子達よ。
コイツに、抱きつかれるのが、そんなに羨ましいか?
コイツは、
男
だぞ?
きっと、フランス出張行っても、たっくんは休日の度にフランスに来ようとする雫に、頭を悩ませるはず。
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