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僕がTwitterをやめた理由

作者: ちょこ

 やはりスマートフォンなんて買うべきではなかったのだ。僕は機械音痴な上に引きこもりがちで人との交流もないわけで。

 そんな僕が初めて人を好きになったのに、こんな終わり方をするなんて。


 「まぁ、ほら、そういうこともあるさ」


 直人が慰めになっていない言葉を言う。


 「俺はそのまま好きでもいいと思うけどな。ずっと好きでもいいじゃないか。なんら問題はない。俺にだってそういう子いるぜ?」


 隆が僕の肩に手を置きながら真剣な眼差しで言った。


 絶望と怒りと羞恥心と、わずかな恋心。

 僕の初恋と呼ぶのか難しい恋は、夏休みに始まり夏休みで終わった。




 事の起こりは一ヶ月ほど前のこと―――。




*******************




 「よう弘樹! お前やっとスマホにしたんだって?」


 心底嫌そうな顔をして振り返ると、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた直人が立っていた。


 ゆるくパーマのかかった明るい茶色の髪に、整った顔立ち。運動神経もよく、サッカー部のキャプテンをしている直人は女子の人気が高い。その人気は校内に収まらず、他校生も校門で出待ちをするほどだ。別に嫉妬なんてしていない。断じてしていない。


 「今の時代スマホが無きゃなんもできないぞ」


 隣の席から隆の呆れた声が聞こえてきた。その両手にはスマートフォンが一台ずつ握られており、机にも一台置いてある。三台の携帯はすべて同じゲームの画面を映しており、隆は太い指を器用に使ってそれらを見事に操っていた。細身の直人や僕と違い、隆の脂肪は増加の一途をたどっており、長年の蓄積が重厚感ではなく重量感を醸し出していた。


 「携帯なんて電話とメールできれば十分じゃないか」


 親友二人から馬鹿にされていると分かっていた僕は、ため息をついてそう言った。




 小学校から一緒だった二人と同じ高校への入学が決まり、連絡を取りやすいからという理由でずっとスマートフォンを勧められていた。機械音痴な上に一から覚えるのが面倒で、三年使っている二つ折の携帯にも愛着があったので頑なに断っていたのだが……。


 高校に入学して最初の夏休みを迎える前に、強制的に替えさせられてしまった。


 「直人君と隆君がスマホの使い方を教えてくれたのよ。いろいろできるし、スマホ同士の方が連絡取りやすいから」


 と、満面の笑みでスマートフォンを渡してきた母親を無下にすることが、僕にはできなかった。


 「ずるいんだよ母さんを懐柔するなんて。逆らえないじゃないか」


 抗議の声を上げながら二人を睨む。


 「財布握っている人を攻めるのは常套手段だろ!」


 直人のニヤニヤ顔を殴ってやりたい衝動に駆られた。

 すーっと目を閉じる。胸倉を掴み、横から顔面を殴る。膝で腹を蹴り上げて床に倒して馬乗りにして殴り続ける。――脳内で。勝ち目がないからリアルでは実行はしないが。


 「そもそも弘樹の文明を数年引き上げてやったんだからお礼を言われてもいいレベルだぞ」


 脳内戦闘を中断して目を開けると、隆が僕の胸に人差し指を当てながらぐいっと寄ってきた。


 「文明って……。まぁもういいんだけどさ、替えさせられちゃったし。納得してないし、やるせない気持ちだし、これから操作方法覚えないといけないと思うとすんごくしんどいけど、もういいさ」


 隆との脳内戦闘では脂肪の量によりダメージを与えられず、隆に軍配が上がっていた。


 「全然よくないじゃねーかそれ……」


 脳内でタコ殴りされているなんて思ってないであろう直人がぼそっと呟いた。




 夏休みに入った翌日、二人が家に遊びに来たのでスマートフォンの基本的な操作方法を教わった。


 「このゲーム、今すごい人気だから入れておいてやるよ」


 と、大量のゲームを隆が入れ、


 「引きこもりなお前にはこういうアプリが必要なんだよ」


 と、直樹が大量のソーシャルアプリを入れた。


 「なにこのアプリ量……誰のスマホだよコレ」


 気づいた時には知らないアプリだらけになってしまっていた。


 「とりあえず適当に使ってみろよ、面白いものがあるかもしれねーじゃん? 俺的にはTwitterとかインスタとかおすすめ。上手くいけば彼女できるかもしれないぞ」


 「俺は王道なパズドラとかモンスト、アイドル系もいいぞーデレステとか」


 隆はアイドル育成ゲームについて熱く語っていたが軽くスルーする。こうなった隆は放置する他ない。


 「まぁ、とりあえずやってみるわ適当に」





 その日の夜、時間を持て余していた僕は、ゲームをやってみることにした。クルクルしたり引っ張ったり、曲に合わせてタッチしたりキノコを回収したり。暇つぶしにはなりそうだ。


 次にTwitterを起動した。アカウントの登録終了後、他人の書き込みを眺める。


 ≪今日はライブに行ってきましたー!≫

  →≪Re:楽しかったね!おつでした^^≫

 ≪マジでぱねぇこの天丼(画像)≫

  →≪Re:ナニソレ食べ物?≫

 ≪うちの猫がかわいすぎて(画像)≫

  →≪Re:ちょーかわいいね!≫

  →≪Re:オヤジの眉毛と猫じゃらし間違えてるみたいなんだよねw≫

 ≪終電逃したーーーーーーーーー≫

  →≪Re:歩いて帰れ≫

 ≪おなかすいた≫


 「うわぁ……」


 瞬間に感じたことを発信するアプリのようだ。見ていて面白いが、さすがに書き込む勇気はなかったので、少し眺めてから寝た。




 ある日の買い物帰り。散歩がてら河原へ寄った。


 「よく橋から飛び込んだな」


 小学生だった頃、三人で度胸試しと称して川に飛び込んでいた。直人が一番に飛び込み下から手を振って、次に隆が飛び込む。隆が浮いてきたところで僕は橋の淵に立つ。何度やっても足が竦んでしまってなかなか飛び込めなかったが、二人はいつもずっと応援をしてくれていた。僕にとって二人はヒーローであり、憧れであり、親友だ。


 「そういえば、よくこの辺で四葉のクローバー探したな」


 足元を見ると三つ葉のクローバーがたくさん生えていた。


 「四葉あるかな…」


 昔のことを思い出したからだろうか。ついその場にしゃがみ込んで四葉を探しだしてしまった。


 ―

 ――

 ―――


 「あ、あったーーー!」


 もはや昔の淡い思い出は消え去りただの意地になった頃、ついに四葉を見つけた。最後の方は地べたに這いつくばって必死に探してしまった。


 「なんかいいことありそうだな。きっとある。むしろあってくれ」


 スマートフォンで撮る写真一号はこいつに決めた。何回か撮影を繰り替えし、赤と紺のグラデーションになっている夕焼けを背景にぐいっと力強く伸びた四葉の写真を撮ることができた。我ながら良い出来だと思う。


 せっかくだしTwitterにアップしてみるか、と手こずりながらもその場でアップした。


 ≪四葉のクローバー見つけた。なんかいいことあるかな?(画像)≫


 アップと同時にメールの着信音が鳴り響いた。ちなみに着信音は【もきゅっとらぶりん☆】というアニメの主題歌にされてしまっており、変更の仕方がわからないからそのままだ。隆め……!


≪早く帰ってこないと大変なことになるぞ(画像)≫


 そう書かれたメールは直人からで、画像を見て言葉を失った。壁一面にグラビアやらアニメキャラやらお子様が見てはいけないようなポスターがたくさん貼られている部屋で、にんまりとした直人と隆が写っている。注目すべき点は場所。……家具が僕の部屋だということを示している。


 「何やってんだあいつら!」


 前言撤回。親友? いえいえ、あいつらは害虫です。脳内で二人を東京湾に沈めながら家路を急いだ。




 翌朝。昼に置きだし、朝食兼昼食を食べていた時のこと。


 なんともなしにTwitterを除くと、昨日の投稿に返信がきていた。


 ≪四葉のクローバー見つけた。なんかいいことあるかな?(画像)≫

  →≪Re: 素敵な投稿ですね。私、四葉って言います。よろしければお友達になっていただけませんか?≫


 紺のセーラー服に黒い長髪、こちらに背を向けて桜の前に立っている女の子のアイコンからの返信だった。


 箸でつまんでいた卵焼きがポロリと落ちた。


 「お、女の子……だと……!?」


 年齢イコール彼女いない歴、女子耐性ゼロの僕は震えながらスマホの画面を凝視した。


 「どどどどうしよう、と、とりあえず返信か……なんて返す?こちらこそよろしく?……馴れ馴れしいか。まずはお礼からか……」


 ブツブツ言いながら一時間かけて返信を打った。


 →≪Re: ありがとうございます! 素敵な名前ですね、四葉さん。こちらこそ仲良くしてください!!≫


 「ふうーーーーーーーーーーーー」


 想像以上に緊張をしていたようで、肺に入っていた空気を一気に吐き出した。テーブルの上の朝食兼昼食は、既に冷め切っていた。


 →≪Re: 嬉しいです^^ あなたのお名前を教えていただけますか?≫


「おおお……」


 すぐに返信がきた。休む間もなく、また返信を考える。食事は諦めよう、それどころではない。


 →≪Re: 名乗ってなくてすみません!弘樹といいます。慣れてなくて返信遅くてすみません。≫

 →≪Re: 弘樹さん。いい名前ですね≫




 それからというもの、時間があれば四葉と会話した。親友に呼び出しをくらう以外、自室でほとんどの時間を過ごしていることもあり、必然的に膨大な時間を四葉に費やすことになった。さすがに顔は写っていなかったが時々画像も送られてきたため、僕も話題になりそうなものを撮る習慣ができた。




 ≪四葉さんって何歳なんですか?≫

  →≪Re: 女の子に年齢の話はご法度なのです! ……でも弘樹さんには教えてあげますね。高校一年生です≫


 ≪弘樹さんはどこに住んでいるんですか?≫

  →≪Re: 僕は長野県です≫

  →≪Re: ほんとですか? 同じですね^^≫

  →≪Re: 四葉さんも長野なんですか?≫

  →≪Re: はい≫


 ≪夏休みなにして過ごしてます?≫

  →≪Re: 最近まで茶道の教室があったんですが、それも終わって毎日ごろごろしちゃってます(画像)≫

  →≪Re: 猫かわいいですね! 飼ってるんですか?≫

  →≪Re: 三毛猫さんです≫


 ≪四葉さんは部活なにか入ってますか?≫

  →≪Re: 茶道部です≫

  →≪Re: すごいですね!作法とか完璧なんですか?≫

  →≪Re: まだまだ未熟者なので、ご指導ください。いろいろなご指導を……お願いしますね≫


 ≪僕の家の周り結構木が多くて、蝉が煩いんですよね≫

  →≪Re: 蝉の寿命って一週間って言われてますけど、本当は一ヶ月くらいあるんですよね≫

  →≪Re: えっ!知らなかった≫

  →≪Re: 私、ちょっと蝉は苦手なんですが、弘樹さんと一緒なら怖くないです≫


 ≪四葉さんってバイトとかしてるんですか?≫

  →≪Re: 実は、メイド喫茶でちょっと働いたことがあるんです。ちょっとですけど……(画像)≫

  →≪Re: おぉ~かわいらしいですね≫

  →≪Re: お恥ずかしいです……≫


 ≪弘樹さん、趣味はありますか?≫

  →≪Re: 僕は読書が結構好きなんですよね≫

  →≪Re: いいですよね。とても落ち着きます。弘樹さんはどんなジャンルを読むんですか?≫

  →≪Re: ミステリーが多いですね(画像)≫

  →≪Re: ミステリアスな人って良いですよね^^≫

  →≪Re: 僕がミステリアスなわけじゃないですよ?笑≫

  →≪Re: 笑う門には福来るって言いますよね!≫


 ≪あの、四葉さんって天然ですか?≫

  →≪Re: 天然ってよく言われるんですが、そんなことないと思うのです≫

  →≪Re: よく言われるんですね、時々噛み合ってない気がしてました≫

  →≪Re: 噛み合ってますよ!!≫




 8月に入ってすぐのこと、直人から集合の連絡が入り、隆の家に集まった。


 「おぉ……相変わらずすごい部屋だな」


 壁一面にアニメや漫画のポスターが貼ってあり、棚にはフィギュアが飾られている。もちろんすべて女の子だ。この中に僕の着信音【もきゅっとらぶりん☆】関連グッズもあるのだろうか。もちろん、恐ろしいほどに語られそうなので聞かないが。


 「さて、集まってもらったのは他でもない。そろそろ例の花火大会があるので作戦会議を……」


 「ちょっといい?」


 直人を遮り、小さく手を挙げる。


 「これからって時になんだよーーー」


 不貞腐れながらジト目で直人が僕を見た。


 「実は……」


 喉をゴクリと鳴らし、乾いた唇を舐めて続ける。


 「実は、女の子と花火大会に行くことになったんだ」


 僕の言葉を聞いた二人はぽかんと口を開けて目を丸くしていた。




 数日前。もはや習慣となっていた四葉と会話を楽しんでいた時、ふと花火大会のチラシが目に入った。


 ≪そろそろ琵琶湖の花火大会ですね(画像)≫

  →≪Re: あれ人多いですよね≫

  →≪Re: 花火大会嫌いですか?≫

  →≪Re: 嫌いじゃないです、むしろ見たかったです……≫


  →≪Re: 花火きれいですも――≫


 ふと、返信を打っていた手を止めた。このタイミングではないだろうか。


 この一ヶ月、ずっとやり取りをしていた四葉に好意を抱いていた。返事を待つ時間も、打つ内容を考える時間も、送った後の反応を考える時間も、とても楽しいものだった。会ったことはないが、むしろ中身から好きになれるというのは素晴らしいことではないろうか。


 花火大会を口実に誘えば、会ってくれる可能性もある。だが、花火大会だからこそ、引かれる可能性も……。


 →≪Re: あの、一緒に花火大会行きませんか?≫


 少し悩んだが、これまで重ねた時間を信じて送る。クーラーで快適な部屋のはずだが、じっとりと変な汗をかいていた。


 →≪Re: いいですよ≫


 想像以上にあっさりと返信はきたのだった。




 「――と、いうわけでして……」


 「………」


 「………」


 居心地の悪い沈黙。


 「なんか経緯が若干怪しいけどおめでとう」


 納得しきっていないようだが、直人が僕の背中をバンバン叩きながら言った。


 「あ、ありがとう。というわけで今年の花火大会は別で行くよ」


 「いいか、最低ライン手は繋げよ! なんなら押し倒せ」


 「ば! なに言ってんだよ、それ嫌われコースまっしぐらじゃないか!!」


 場数を踏んでいる直人の言うことは次元が違う。睨みつけながら怒鳴るが、若干の尊敬が混じってしまうのは男として仕方のないことだろう。


 「でも……上手くいったら告白しようと思ってるんだ。文字だけの繋がりだけじゃなくて、一緒にいたいと思ったんだ」


 「おぉーマジか、頑張れよ! マジで応援してる。マジで! 弘樹がついに初恋かぁ」


 「じゃ、じゃあもう帰るから!」


 照れ隠しに乱暴に鞄を掴んで玄関へ向かった。


 「そうか……ついに弘樹にも彼女フラグか……俺は一体どうしたらいいんだ……」


 やっと再起した隆がぼつりと呟いくのを背に帰ったのだった。




*******************




 そして花火大会翌日の今日、僕は隆の部屋で机に突っ伏している。結果から言うと、彼女は花火大会に来なかったのだ。直前まで浴衣の話をしていたにも関わらず、だ。


 「女なんて星の数ほどいるぜ!元気出せよ」


 「星……遠いな……」


 「おい直人、なに王道な凹ませセリフ言ってんだよ! 弘樹、大丈夫だ、二次元は裏切らないぜ」


 「三次元がいいよ……」


 「隆こそ二次元に引き込もうとしてんじゃねーよ!」


 二人が取っ組み合いをしながらジャレている。普段だったらつっこんだであろう即死しそうな技のネーミングも、今は何の興味もそそらない。


 窓の外を見ると、ちょうどそのタイミングで蝉が木から落ちた。


 「はぁ……なんで来なかったんだろう」


 ため息をつきながら言ったそのセリフに、二人の動きがピタリと止まった。


 「まさか理由は聞いてないのか?」


 「おいおい、ウソだろ?」


 技を掛け合ったまま僕を見る。


 「だって……聞けるわけないじゃないかーーーーーーー」


 「よし俺に任せろ! スマホ貸せよ。そしてお前はいい加減離れろ圧死する」


 直人が隆の下から這い出て蹴りを一発お見舞いし、僕に近づく。


 「いいよもう……」


 「ダメだ。とりあえずスマホ出せ」


 言い出したら聞かない直人の性格を悲しいほど分かってしまっている僕は、ため息をつきながらスマートフォンを渡した。今日は何度幸せを吐き出しただろうか。


 怒りに満ちた顔でスマートフォンを受け取った直人だったが、次第に眉が下がり情けない表情になっていく。それを見た隆も画面を覗き込むも、直人と同じ表情を浮かべた。


 「なに? どうしたの?」


 怪訝な顔で僕が聞くと、直人が頬を指でかきながら明後日の方向を向き、隆は眉間に皺を寄せてなんとも言えない複雑な表情をしていた。


 「あー……とても言いづらいんだが」


 直人が意を決したように言った。が、目が泳いでいる。


 「……なに?」


 激しく落ち込む僕に追い打ちをかける気だろうか。目だけで直人を見る。


 「そのアカウント……」


 「待て待て、それは言うべきことなのか? 着ぐるみ着てるおっさんが子供の前で頭取るような所業だぞ」


 慌てて隆が直人に言った。


 「でも現状、俺らは着ぐるみのおっさんが陰で頭取てるのを目撃しちゃってるような状態だぜ?」


 「この年になったらおっさんが入ってることくらい分かってるんだから誰にも言わないだろ」


「いやでもほら、こいつ分かってないし」


 親指を立てた拳でくいっと僕を指す。


 「う、まぁそうだが…」


 「黙ってる方が可哀想に決まってるじゃねーか」


 「そもそも直人が紹介するだけで何もフォローしないから…」


 「もうなんでもいいから! なんなんだよ気になるじゃないか!」


 完全に置いていかれていた僕が叫んだことで、二人がこちらを向いた。


 「うん、つまり、あれだ、それ、四葉ってbotだぞ」


 そう言った直人の横で、隆があちゃーと額に手を当てていた。


 「? bot?」


 「まーもういいか、調べりゃ分かることだしね。botと言うのは、つまり機械だよ。勝手に返信してくるやつ」


 言いながら隆はスマホ画面を見せてきた。


「見てみろ、この四つ葉のプロフィール」


 ――四葉はとても頭の良い彼女botです。四葉の由来は四つの機能を表しています。一つ目の葉【葉はやり取りの内容を蓄積して学習するメイン機能】二つ目の葉【単語に合わせ時間帯も調整する返信機能】三つ目の葉【定期的な投稿】四つ目の葉【あなたに合わせたカスタマイズを自動で行う機能】


 改めて考えると。会話が噛み合わないことがあった。ただ天然だと思っていたが……。そして、写真は絶対に顔が写っていなかった。


 「なんじゃそりゃーーーーーーー! 僕の初恋返せーーーーーーーー!!」




 やはりスマートフォンなんて買うべきではなかったのだ。僕は機械音痴な上に引きこもりがちで人との交流もないわけで。


 そんな僕が初めて人を好きになったのに、こんな終わり方をするなんて。


 「まぁ、ほら、そういうこともあるさ」


 直人が慰めになっていない言葉を言う。


 「俺はそのまま好きでもいいと思うけどな。ずっと好きでもいいじゃないか。なんら問題はない。俺にだってそういう子いるぜ?」


 隆が僕の肩に手を置きながら真剣な眼差しで言った。


 絶望と悲しみと羞恥心と、わずかな恋心。

 僕の初恋と呼ぶのか難しい恋は、夏休みに始まり夏休みに終わったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ツイッター関連のことは僕もよく小説で書くので参考になりました、
[良い点] おちが面白かったです! [一言] 最初は、最近よくある男性が女性のように振舞っているということなのかな?と思ってました。 一人で肩を震わせながら笑ってました。
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