high-five29ex.《ステーキ・ガッツ》
《high-five03関連》
媛貴は1ポンドステーキを切り刻む。
「ちゃんとフォークで押さえて切りなさい。
まず半分に切って、
横じゃなくて縦に。
切れたら断面をプレートに押し付けて、
熱を入れて……。
それは焼き石、
熱いから気をつけて!」
晴貴が付きっきりになる。
妹は自由奔放、
手当たり次第にカット。
兄はプレートからこぼれ落ちそうな、
ポテトを小皿に取り分け、
敷かれたオニオンスライスを脇によける。
しまいには晴貴が塊肉の押さえ役に。
「好きにさせればいいじゃない」
遥香が無責任に笑う。
『結局は俺が食べる事になるんだぞ』
小声で長女に文句を言う。
いびつに切り裂かれた肉片を、
焼き石に乗せてやる。
「もう食べごろだから、
良く噛んで食べるんだよ。
……それは大き過ぎる!」
媛貴は構わず口いっぱいに頬張る。
もぐもぐもぐ。
予め時間差で出すように頼んでおいた、
チーズINハンバーグと海老フライのセットが届いた。
晴貴が敢えて注文した品だ。
「うわ~、美味そうだ」
もぐもぐもぐ。
長兄は海老フライの断面を、
末っ子に見せつける。
妹は少し気になる。
もぐもぐもぐ。
「海老フライ~、海老フライ~」
長男は自慢するように唄いながら、
タルタルソースをたっぷり乗せる。
遥香にフォークを掴まれ、
奪い合いになるが辛うじて制する。
媛貴も興味津津。
もぐもぐもぐ。
「チーズ、ト~ロ、トロ」
今度はハンバーグを真っ二つ。
妹は羨ましそう。
もぐもぐもぐ。
晴貴はカットしたハンバーグを、
デミグラスソースに浸し、
ふーふー言いながら、
見せつけるように口に運ぶ。
なかなか肉を呑み込めない少女は、
遂に涙目。
もぐ、もぐ、もぐ……。
二男の結貴が素知らぬ顔をしながら、
差し出したジュースを、
末っ子の媛貴は両手で受け取る。
ごくごくごく。
ようやく一息つけた。
「おお兄ちゃん、
かみ切れない、あごが痛い。
やっぱりハンバーグが良い……」
いじらしくも控え目に要求する。
「ほいほい」
すんなり交換する晴貴。
媛貴の顔がパッと輝く。
「おお兄ちゃん、ありがとう」
「どういたしまして」
「甘いわね、おお兄ちゃん」
遥香がからかうが、
晴貴にとっては予定通り。
母さん軍団は、
微笑ましい様子を見守っている。