high-five46ex.《ポンコツの流儀》
《high-five24関連》
高校選手権バラキ県予選を控えた伊立一高サッカー部、
練習は活気を帯びていた。
サッカーコートの半分を使ってフォーメーションの確認。
Aチームの攻撃陣をBチームの守備陣が迎える。
攻守は固定されている、時折、監督のチェックが入る。
突然、庄山監督が命じた。
「フリーキックを蹴れ!」
急な指示に即反応したのは三人。
ボールを保持していた晴貴、
その少し後方にキャプテンの八雲、
そして晴貴と対峙していたポンコツこと骨本。
10ヤード下がりながらポンコツが叫ぶ。
「壁を作れ!」
守備陣形が整うのを待たず監督が促す。
「早くしろ!」
素早いリスタートを求めての指示だ。
最も蹴りやすい位置にいたのが八雲。
晴貴はボールをセットし、道を開ける。
自分で蹴るよりこの方が早い。
ディフェンダーの集合が遅れた。
八雲は助走を始めている。
壁は間に合いそうもない。
『こんな指示あるかよ!』
監督の意図は理解できる。
クイックスタートを求めての指示だ。
練習ではよくある事だ。
しかし、骨本の筋肉は憤った。
「させるか!」
自然に身体が動いてしまった。
その行為に周囲は目を剥いた。
骨本は壁から飛び出し、
ボールとの間合いを詰める。
構わず八雲が渾身のシュートを放つ。
ポンコツはシュートを防ぐためにジャンプ、
咄嗟に身体をよじる。
体重を乗せたシュートが、
骨本の右ふくらはぎで弾かれる。
ポンコツ以外の全員が呆気にとられた。
公式戦なら間違いなく警告に値する行為。
練習でそこまでやるか。
「集中しろ! 壁を作れ」
フリーキックはやり直しとなり、
骨本は右足を引きずりながら壁に戻る。
何本かフリーキックを練習し、次のメニューへ移行。
「すみません」
八雲が先輩である骨本に、ボールをぶつけた事を謝る。
「何でもない。そもそもあれは俺の反則だ」
会話はそれだけで充分だった。
『この人は常に本気だ』
分かっていたつもりだったが、
二年生のキャプテンは認識を新たにした。
他の二年生、一年生も感じるものがあったようだ。
「骨本さんにぶつけたシュートが、一番でした」
八雲が晴貴に報告する。
「前に言った通りだろう?」
かつて晴貴は骨本を評してこう言った。
『あいつは常に本気だ、本当にやる奴だ』
骨本は練習でも手を抜かない。
一位勝ち抜けの短距離ダッシュでは、
並んだメンバーを見て勝ち目が無さそうなら、
1本目は手を抜く者も多かったが、
ポンコツ先輩はそれをしなかった。
常に全力でダッシュしていた。
あまり足の速い方ではなかったが、
数か月前よりスピードアップしている事は、
他の誰もが感じていた。
『あの人は常に本気だ』
高校選手権バラキ県予選までひと月余り、
練習中の空気がピシッと締まった。
もう誰もポンコツ先輩を軽んじる者はいない。