表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/29

high-five44ex.《新米作家》

《high-five next》


「冬海、声優科から5人、確保したよ!」

 小木津亜弥が仲間を連れてきた。

「いつもありがとう、それじゃあ……」

 多賀冬海が机から離れようとすると、

 アシスタントのリーダー格、漫画科の一人が制する。

「私がやるから多賀は続けて!

 じゃあ5人交替、今のうちに食事も済ませておいて!」

 ずっと作業を続けていた漫画科の仲間たちが、

 交替要員に引き継ぎを始める。

 任せる作業はベタ塗りや簡単なトーン貼り、

 原稿乾燥後の消しゴム掛けだが、

 徹夜作業はようやく一時休憩になる。


「相変わらず、締切日は戦争だね。

 ……牛丼買ってきたよ、今のうちに食べちゃって!」

「小木津さん、ありがとう!

 みんな、助っ人が来てくれたから、

 ラストスパートに備えて燃料補給しておいてね!」

 仕切りはアシスタントのリーダーに任せ、

 冬海は机にかじりついて作画を続ける。


 冬海と亜弥がシェアしている部屋は、月に一度戦場になる。

 週イチと、月イチ更新のWEB漫画が1本ずつ。

 ツイッターで毎日更新する4コマ漫画1本。

 先月からは月刊少女マンガ誌での連載も始まった。


 おかげで冬海は、専門学校の授業には半月ほど出ていない。

 生真面目な性格が災いして、身体を壊しかけた。

 心配した亜弥が漫画科の講師に事情を説明し、

 仕事優先の許可を得た。

 勿論「在校生漫画家」として広告塔に使われる。

 漫画科の仲間たちの協力も得られることになった。


 冬海は一年目、基礎からきちんと学び直した。

 二年目はパソコン作業をみっちり学ぶ予定だったが、

 成り行きがそれを許さない。

 漫画科の講師は、特別のカリキュラムも作ってくれた。

 設備導入には資金が必要だし、すぐに使いこなせる訳もなく、

 手描きと比べて必ずしも省力化になるとは限らない。

 しかし、商業誌で連載を持ってから事情が変わった。

 せめて背景だけにでもPCを使えれば大いに助かる。

 制作協力として専門学校名をクレジットすることで、

 学校の設備を借りられるように、亜弥が交渉している。


 作業は佳境を迎えていた。

 キッチンや風呂場、ベランダまで使って十数人で手分け作業。

 劣悪な環境だが誰も文句を言わない。

 むしろ「実戦」に、集中して取り組んでいる。


「ベタ塗り終わったよ、間に合いそうかしら?」

 玄関で作業していた亜弥が、仕切役のリーダーに尋ねる。

 いつもは作業には手を出さないが、今は総力戦だ。

「編集さんが来るまでには何とかいけそう……」


 部屋の壁には3枚のユニフォームが額に飾られている。

 伊立第一高等学校、サッカー部の10番。

 イタリアサッカーセリエB、ティレーニアの13番。

 イタリアバレーボールセリエA2、ティレーニアの13番。


 冬海のスマホの呼び出し音が鳴った。

 忙しくて手を離せないが、

 相手が編集者なら出なくてはならない。

 自動的に留守電に切り替わった。

『晴貴です。そっちは朝だよな、寝ていたらごめん。

 この前の話だけど、ティレーニアの会長からOKが出た。

 こっちに来る時は連絡ください。

 高校の時にできなかったデートをしよう……』

 全員の動きが止まり、聞き耳を立てる。

『でも「二刀流物語」だなんて、なんだか恥ずかしいな、

 俺自身、まだ何者でもないし……。

 WEB連載はいつも見ています。

 媛貴が月刊誌も送ってくれた、負けてられないな。

 冬海と会えるのを楽しみにしています。それじゃまた』

 スピーカーから流れたメッセージに、その場は騒然となる、

 アシスタントたちの質問攻めで、作業はしばらく中断した。

 亜弥が宣言する。

「全員で30分休憩しましょう、冬海も休んで!」

 ここはみんなの好奇心を満たした方が得策ね!

 お茶にしましょう、とっておきのスイーツもあることだし。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ