high-five40ex.《7人の扮装》
《high-five23.36ex.関連》
「ねえ、ねえ、これ何?……」
長島依子が尋ねる。
「段ボールだよね?……」
西津悠が小首を掲げる。
「昔のアニメのメカみたい……」
沼尾柚亜はスマホで画像をダウンロードして示す。
「犬型の消防車?……」
根岸桜芽が画像と見比べる。
「…………」
段ボールの中で、リオこと野村寿里がサプライズ登場を窺っている。
「……って言うか、これ戦車じゃない?」
多賀冬海が小木津亜弥に語りかける。
「デフォルメしているけれど、BT42だと思うよ」
亜弥が断定した。
隠れたままのリオは大きく頷いた。
バラキ県立伊立第一高等学校の黒檀会館。
さくらロードレースに出場するために集合した7人。
それぞれが工夫を凝らしたコスチュームに着替えた。
長島依子は赤い戦車ジャケットのイギリス系学院、
赤髪のポンコツキャラに扮した。
西津悠はタンクジャケットのアメリカ系大学付属高校、
そばかすの曲者キャラに扮した。
沼尾柚亜はスタイリッシュなイタリア系高校、
ツインテールの総統キャラに扮した。
根岸桜芽は偉大なるソビエト連邦系高校、
金髪碧眼のロシア人キャラに扮した。
多賀冬海は勇猛果敢な日本系学園、
戦車帽のチビッ子眼鏡キャラに扮した。
小木津亜弥は正統ドイツ系学園、
ツンデレの実力派副隊長に扮した。
リオこと野村寿里はフィンランド系高校、
チューリップハットの吟遊詩人に扮した。が、
未だ登場の機会を逃がしたまま段ボールの中。
「結局、誰も魚洗女子学園は選ばなかったのね」
「みんな狙い過ぎだよ」
「それにしても、リオ遅いね……」
「ブラジル系の高校ってあったかな?」
「ポルトガル系は?」
「スペイン系ならあったような……」
『私はここにいるよ!』
満を持してハッチを開けようとするが、開かない。
「まだ時間があるから、もう少し待ってみよう」
「お昼はどこで食べようか?」
「いつもの『パンドゥトロア』は?」
「今日ばかりは超~混雑するよ」
「完走後にあんパン貰えるんだよね」
「バナナと水も貰えるよ」
『ケルコメールバナ~ナス!』
リオの叫びは段ボールにこもって響かない。
「何か、もごもご言っていなかった?」
「このBT42?」
「まさか……」
「まさかだよね……」
「選りによって戦車って……」
「らしいと言えば、らしいけれど……」
「どうしようか」
「このまま連れて行く?」
「取り敢えず持ち上げてみよう?」
「あっ、足が出た!」
「ハッチを開けてみよう!」
「ガムテープで開かないよ~~~」
それでも無理やりハッチを開く。
「あ~ん、怖かった!」
そこにはチューリップハットを被った、涙目のリオ。
『リオ~! 何やってるのよ~!』