high-five39ex.《冬海の卒業式》
《high-five26関連》
多賀冬海は翌日の準備をしていた。
明日は3月1日。
高校の卒業式で、冬海の18回目の誕生日。
スケッチブック。手作りチョコレート。ラブレター。
片思いの相手は、入学式の日に出逢った同級生。
引っ込み思案でひねくれ者だった私が、
変わるきっかけを与えてくれた。
自分ではそう思っている。
私には不釣り合いなのは分かっている。
でもその彼は、私にも分け隔てなく接してくれた。
気遣いができる人で、女の子の扱いが上手。
だからと言って自然で鼻につく事もない。
スポーツ万能でかなりモテる。
すぐに大好きになったけれど、
告白する勇気なんてある訳ない、
こんな自分から好かれたら迷惑じゃないかしら。
告白しても結果は見えている、
笑い者になるのがオチよ。
彼は笑ったりはしないだろうけれど……。
3年間、同級生でいられた。
彼の活躍を身近で見る事ができた。
私なんかには、それで十分。
彼とお付き合いする娘とも友達だった。
それならせめてサポート役に徹しよう。
私なんかには、それがお似合い。
そして、もう一人、どうしても敵わない相手がいる。
お姉さんだなんて言っているけれど、
まるで18年間連れ添った夫婦じゃない。
本当にお互い意識していないのかな?
アニメやラノベの世界じゃあるまいし、
そんな奇跡が本当にあるなんて。
彼との会話は、一言一句覚えている。
彼と一緒の時間は、事細かに思い出せる。
アクシデントで彼と唇が触れてしまった事があった。
その直後の記憶だけが飛んでいるけれど、
私にとっては紛れもないファーストキス。
彼にとっては取るに足らない事だろうけれど、
汚点になっていなければいいな。
でも、私の青春の大切な思い出だ、
これだけで一生、幸せな気持ちで過ごせるはず。
彼をモデルにした漫画も実は沢山。
直接的ではないけれど、
私が思い描くヒーローは、
どこかに彼の一面を含んでいる。
誰にも見破られないはずだけれど、
亜弥の含み笑いが気になるな、
ばれちゃっているのかな?
自分では全然わからない。
スケッチブックと手作りチョコレートだけを持って行く。
恋文は秘密のクッキー缶の中に。
缶の蓋が閉まらないほど、
渡せなかったラブレターで一杯、
これも、私の青春の大切な思い出だ。
卒業式もHRも終わり、彼が一人になった。
こんなチャンスはもう訪れない。
つくばね大学に合格しているけれど、
噂じゃもっと遠くに行ってしまうとか……。
ううん、だからこそ、
今だけは自己中心で行くのよ!
3年間の感謝を伝えなきゃ。
スケッチブックは受け取ってくれるかな、
ストーカーと思われないかしら。
チョコレートなんて迷惑じゃないかな、
義理よ、義理義理、友達だもの。
さあ、冬海、勇気を出して!
告白する訳じゃないんだから!
「あの……。相賀君……」