high-five38ex.《冬海の機転》
《high-five14関連》
多賀冬海はスマホを握りしめて大田和町交差点の角へ走る。
遥香が高速バスを追いかけている事を知り、
中田内バス停への到着をメールで知らせたところ、
遥香から返信が届いた。
『晴貴が海岸線から向かっているはずなの、間に合った?』
息を切らして交差点角まで辿り着く。
こちらに向かって走り迫る晴貴の姿を認めた。
早く! 早く!
冬海は大きく手を振る。
常磐高速道路、伊立南多田IC直前の中田内バス停。
「東京駅行き高速バス、出発します」
アナウンスが流れ、ドアがゆっくり閉まり出す。
駆けつけた見送りの女子たちが涙ながらに手を振り、
車中から林檎がそれに応える。
このままじゃ間に合わない!
冬海は大きく右に手を振る。
ショートカットして!
「相賀君急いで!」
冬海の叫び声に、
手を振る女子たちが一斉に振り向く。
大田和町交差点の角で、
冬海が両手を大きく右に振っている、
バスは静かに、動き出した。
冬海は何かを確認すると、
トコトコとバス停に向かって走り出した。
途中で足がもつれて転倒する。
10分後。
他の見送り生徒たちはもういない。
残ったのは冬海のみ。
晴貴は立ち尽くしたまま動かない。
『お父さんに、送ってもらおうかしら』
無理を言って叩き起した父を待たせてある。
しかしなかなか晴貴に声を掛けられない。
再びメールの着信音。
『間に合った?』
何気なく振り返ると、
大田和町交差点の向こう側に遥香の姿。
冬海は両手で頭上に大きく丸を作る。
遥香が手を振って応えた。
見送りに行くと信じて、迎えに来るなんて、
もう、私の出番は無いわね。
結局、晴貴には声を掛けずに、
冬海は駐車場で待つ父の車へ向かう、
遥香は駐車場に寄り道して冬海とハイタッチ。
「冬海ありがとう。あとでまた電話するね!」
運転席に向かい、遥香がぺこりと頭を下げた。
冬海の父が笑顔で手を振っている。
父親は文句も言わずに付き合ってくれた。
「転んで怪我しなかったか?」
「……」
「お友達には、お別れは言えたのかな?」
「……」
「今の娘と、あのイケメンは双子なんだって?」
「……」
突然、叩き起こされたものの、
一瞬で娘の要望を理解した父。
「送ってあげなくてもいいのかな?」
「……うん、いいの。
お父さん、お休みの日なのに、朝早くからごめんなさい」
「娘とのドライブだと思えば、何てことないさ。
朝ごはんまだだろう?」
「うん、お腹すいちゃった」
「それじゃ、コンビニに寄って行こうか」
「お父さん、ありがとう」