high-five28ex.《林檎の入学式》
《high-five02関連》
校舎と体育館を結ぶ連絡通路の上から様子を窺う大小の影。
「林檎、あの二人だ」
「分かりましたお兄様、あの二人ですね」
背の高い男子と、
肩までのストレートヘアが綺麗な女子。
男子の方は、お兄様の足元にも及ばないわね。
女子の方は、お友達になれるかな?
揃いのブレザーはちょっと羨ましいかも。
お兄様も林檎と同じブレザーにしてくれないかな。
そうだ、一緒のお洋服を揃えよう。
林檎のプレゼントなら、
お兄様は嫌とは言わないはず。
そうしよう、そうしよう。
どうして春休みの間に思いつかなかったのかしら。
ようし、一緒にお買い物に付き合ってもらおう、
週末が待ち遠しいな。
林檎は上機嫌だったが、
表情には出にくい。
さすがに葡萄お兄様は、
敏感に察知する。
「新しい環境はワクワクするよな」
「お兄様と一緒の学校ですもの。
……一年間、寂しかったわ」
林檎は自然にお兄様の腕にしがみつく。
二年生の教室に着くと、
林檎の姿にクラスメイトがささめく。
「葡萄、林檎ちゃん、おはよう!」
男子バレーボール部のチームメイトが声を掛ける。
春休み中に何度か、
林檎も一緒に練習をしている。
「おはよう」
「おはようございます」
挨拶を返す兄妹は注目を集める。
「みんな紹介しよう、妹の林檎だ」
「葡萄お兄様の妹の林檎です。
宜しくお願いします」
林檎の挨拶にクラス中が沸く。
「ヨロシクね」
「カワイイ」
「りんごちゃん!」
林檎は表情一つ変えない。
「お兄様の席はどこですか?」
「出席番号順だ」
「それじゃ、林檎はここにします」
林檎はお兄様の腕を引いて隣同士で腰掛ける。
「……って、ここにお前の席はないぞ」
「ダメなのですか?」
「難しいな……」
「何とかなりませんか?」
「そう言われても」
「林檎は、お兄様の膝の上でも良いのですが」
「そういう問題ではないのだよ……」
間抜けなやり取りを、生真面目に繰り広げる。
一瞬の間が空き、
クラスは爆笑に包まれた。
それでも林檎は澄ましたままだ。
「林檎ちゃん面白い」
「林檎ちゃんって、クールだね」
「僕が案内してあげるよ!」
葡萄が苦笑しながら林檎の手を取る。
「俺が連れて行く。一年何組だ?」
お兄様に手を取られてテンションが上がるが、
やはり林檎の表情は変わらない。
「さあ何組かしら、気にもしませんでしたわ」
林檎の手を引いて、葡萄は教室を後にする。