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悪霊ハンター悠子  作者: ヨースケ
3/7

遭遇

駅からTホテルへは徒歩5分とかからなかった。 

「ここがTホテルかー。さすが人気のホテル、きれいだなぁ」

 ホテルの入口を前にして玲二はつぶやいた。中へ入ると正面にエレベーター、右手に受付、左手はソファー、テーブル、テレビの置いてあるラウンジとなっていた。そばには軽食のとれるカウンターもある。小規模ながら、居心地のよさそうな空間だ。

「予約していた相馬です」

「ご来店ありがとうございます。こちらにお名前とご住所をお願いします」

 スタッフの接客も良い。玲二は必要事項をさっと書き、受付に渡す。 

「ありがとうございます。こちらはお部屋の鍵です。奥のエレベーターをご利用下さい。チェックアウトは午前10時となっていますので、お気を付け下さいませ」

玲二は軽く会釈をし、差し出された鍵を受け取った。正面のエレベーターに乗り、4階のボタンを押す。エレベーターに入ると目の前が姿見鏡となっている。鏡にはくたびれた顔、ぼさぼさの髪、くしゃくしゃのスーツ姿が映る。思わず苦笑い。こう疲れている日はチェックインの前にまずは一杯飲みに行くのが玲二のお決まりだが、こう暑いとまずは一風呂あびたくなるのが人情というものだ。加えて予約を取るのに苦労したということもあり、まずはホテルを一目見たいということでセオリーを曲げたのであった。

「先にホテルに来て正解だったな。人気があるのも頷ける」

建物の雰囲気、スタッフの接客態度に玲二はさっそく満足していた。

――寝床の良さがわかっているなら、きっとこの後で飲む酒は上手い……!これで居酒屋も良ければ今夜は最高の夜になりそうだ。

 そう考えている内にエレベーターは4階に着いた。外に出ると短い廊下になっており、両サイドには部屋が2つずつある。

「405号室はこっちだな」

 右手奥が405号室のようだ。玲二は部屋に入ると荷物を投げ捨てベッドに飛び込んだ。しばし脱力。

「自宅でもないのにこの開放感。最高だ!」

 このまま欲望に任せて眠ってしまっても良かったのだが、やはりビールも飲みたい。

「当初の目的通りまずは風呂に入るか」

ジャケットを椅子にかけ、冷房を24°の強風で作動させると、玲二はバスルームへと向かった。

 

バスタブに湯をいれ浸かると思わず、

「あーっ」

 と声が漏れた。浸かるといっても、バスタブに湯がたまるのを待ち切れず半分くらいの水量で入ってしまったので、いわゆる半身浴ではあるが。それでも猛暑の中での残業上がりの玲二にとっては充分だった。

「自宅でもないのに全裸になって湯に浸かれるなんて……。最高だ!」

 先ほどと同じような感想を述べる。外で風呂に入るなら銭湯でも良さそうなものだが、玲二は、ホテルでくつろいでいる、という事実だけで満足しているようだ。

 しばらく湯に浸かると、そのままバスタブの湯で体を洗い、最後にシャワーで髪を洗った。

「さっぱりした。そろそろ出よう」

体を拭こうと思い、仕切りのカーテンを開けタオルを取ろうとしたが、思わず手を止めた。

カーテンの外の電気が消えている。

――入るとき付けっぱなしにしていたはずだ。なぜだろう。まあどうでもいいか。

再度カーテンを開けようとしたが、思い至ってまた手を止める。

――ここユニットバスだよな。電気って確か一つしかなかったぞ。トイレ側の電球でも切れたのか?

カーテン越しに外を見て、違和感の招待に気付いた。

目の前が暗かったので外の電気が消えたのかと玲二は思ったのだが、違った。カーテンの四隅からは外の光が確認できる。だが暗くなっている部分、いや影になっている部分と言うべきか。暗い部分は人間のシルエットのように玲二には見えていた。それも長髪の、いわゆるオーソドックスな幽霊像に。

玲二は恐怖した。が落ち着こうと努めた。

――外の電球が切れたか、あるいは光の反射かなんかだろう。幽霊なんて人間の恐怖が生み出しているんだ。存在するわけないじゃないか。

 目の前の鏡を見る。そこにはくたびれた自分の顔が映っている。

――こういう状況、映画なんかだと鏡なんか見たら背後に幽霊が映っているもんだ。だが映っていない。疲れているんだろう。さっさと酒でも飲みに行こう。

 スッ。

 そう思ってカーテンを開けた。

 目の前に、長髪の女が立っていた。

女は白いワンピースを着て下を向いている。

玲二は目の前の非現実的な光景に思わず立ちすくんだ。

女の顔が徐々に上を向いてくる。

髪で隠れていた顔が見えてくる。色白だ。いや色白というか青い。こんな皮膚の人間がいるのだろうか。そもそも人間だとしてなんでこんなところにいる?俺はストーカーにでも狙われていたのか?

妙に冷静になって思考を巡らせていたが、その間にも女の顔が上がってくる。

あと数秒で女の目が見える。

やばくないか?

「うわああああああ!」

玲二は叫びながら飛び出した。洗面所に投げ捨てた服を掴むと出口のドアノブに手をかけた。その瞬間、右肩に物凄い力がこめられる。見なくてもわかる。女が俺の肩を掴んでいるのだ。

「いてぇぇ冷てぇぇあああああ!」

絶叫しながら肩にかかった力を振り払い、なんとか浴室のドアを開ける。

なぜか部屋の電気が消えている。玲二目の前に男が立っている。スーツを着ており白髪が混ざった髪を見るに中年サラリーマンといった感じだが、下を向いた頭が腹のあたりにあり、首が4、50cmはあるだろうか。異様に長い。

というか人間じゃない!

そして部屋の電気が消えているのに妙に周りが見える。それは部屋全体がいわゆる人魂のような青白い明かりに包まれているからだ。

周囲を見渡して玲二はギョッとした。壁から無数の手足が生えて(?)いる。天井から白目をむいた女の上半身がぶら下がっている。ベッドの脇に血まみれの男が倒れて、こちらを見ている。

阿鼻叫喚。地獄絵図。

目の前の光景に玲二の体は固まってしまった。ここで気絶できればどんなに楽だろうか。玲二は恐怖に支配されていた。だが意識はまだある。

背後に気配を感じた。

さっきの女の霊か。気絶できないなら……。

「あああああああああああああ!」

 玲二は叫んだ。力を振り絞りなんとか四肢を動かした。そして部屋のドアへと突っ込み、鍵を開けると全裸のまま外の非常階段へと走っていったのであった……。


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