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美男子の前では逆らえない

 気疲れのせいかその夜はぐっすりと眠れた。

 早朝五時、家のベルが鳴った。

「あ……っ」

 鴨を携え、濃紫の袴を穿き、玄関前で挨拶した物凄い美男子にわたしは見覚えがあった。切れ長の黒眼、シルバーアッシュの短髪、通った鼻筋、薄い唇……昨日、神社で見かけたひとだ。

 驚き、挨拶すら忘れて魅入ってしまったわたしの前で彼は音木スザクと名乗った。神官だそうだ。

「朝早くからすみません。又急な話で申し訳ありませんが、お嬢様には本日只今からルリカ島がためご協力を賜りたく存じます」

 なんて流暢な敬語だろう……。

 父母も美味な鴨を手に入れようと?、唯、頷く。

「お嬢様が巫女様となりました暁には当神社が責任をもって大切にお預かりし、その間の生活におかれましては出来うる限り最大限の配慮をさせて戴く心づもりです。

 なお重ね重ね申し訳ありませんが、ご家族の方とは云え巫女様とおなり遊ばした際にはお嬢様とのご面会も当神社を通して戴く事になります。護衛の都合上、何卒ご容赦ください」

 わたしは改めて巫女と云う身分の強大さと不自由さを思い知らされた。

 願わくば訪れる定めがわたしに幸せと周囲のひとびとの幸福を運んでくれるといい……。

「では、行って来ます」

 島の巫女様に選ばれる事はこの上ない名誉だ。

 寝惚け眼に涙を浮かべ両親は娘を送り出してくれた。

 わたしたちは並みの家庭同様、互いを程々に理解出来ず程々にはわかり合えた、いい関係だったんだろう。

「いままでありがとうございました……」

 緩むこの涙腺が嘘であるといい……。

 神官につづいて歩き出し、わたしは足を止めた。振り返って手を振る。

 この家で過ごす時間はわたしの未来でも幾らかは許されているのだろうか……。

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