迷える子
失くしたものを、失くした事すら忘れた後に残るものをどうしたら、いいだろう。
それは何だろう。
そもそもそんな事は存在するのか。
失くした事を忘れた後にあるとしたら、それは安らぎか悲しみ……、だろうか? 失くした事を忘れてしまえば認められる過去も、受け入れられる現実もあるのだろうか?
わたしにはわからない。
失恋して、好きだったひとと会えなくなって、でも未だ、ずっと覚えている。
悲しみと痛みを、
あれから三年経っていまでも謳歌している。
彼を恋を失いたくない。
だから、願わせて。
「神様、どうか好き……なひとが幸せでありますように……」
彼に直接好きとは言えなくても、恋が叶わなくても。
目前にそびえる拝殿へ、祈る。
会えないなら、せめて想うのを許して……。
顔の前で合わせたわたしの掌が現実だ。
不在の彼を日々に在らしめ生にしがみつく。
神社で祈願する術を思い付いた当初は頻繁に家の近所の鴨肉神社へ通いつめた。それが徐々に足が遠退き最近は一ヶ月に一回程度だ。
溜め息を吐くと拝殿へ来た道を戻りかけ……、足を止める。
背筋が寒気立つ。
恐ろしい程、顔立ちの整った男子が神門の前に立っていた。辺りに繚乱する桜の、花びらが舞い散る中にあっては桜の精と見紛ったかとわたしは目をしばたたいた。
視線が重なる。
桜の精が微笑む。
思わずわたしは目をそらした。
急ぎ、止めた足を動かし男子の横を通り過ぎる。門をくぐって息を吐き漸く自分が息を詰めていた事を知った。
そのときのわたしは何も、知らなかった。その男子が誰であり、わたしに何をもたらすのかを……。




