着替え
お久しぶりです!!
わたしたちは壁を通り抜け、街に入った。
とは言っても正面からくぐり抜けたのではなく。
見張り番に賄賂を渡すのでもなく、隠し扉を利用した。
なぜそんなものがあるのかは知らない。
そうしてなぜ、そんなせせこましい真似をせねばならなかったのかも分からない。
スザクも羽仔もそうする事が当然のようだったし、それに慣れているらしかった。
何にせよ、ここにあるのは、いまから出会うのは、わたしの未だ見ぬ未知だ。
知らなくていい事には目をつむりたい。
ようやく千年の片想いに区切りがつけられるかも知れないから。
どろどろの気持ちなど掻き消されてしまえ。
新世界への期待に吹き飛ばされてしまえばいい。
敷居を跨ぐ。
賑やかな風が頬を撫でた。
目の前には裏通りなのか、人気のない住宅街が並んでいる。
「スザクー。どこ行く?」
「まずはその格好をどうにかしないとな」
スザクの脇で羽仔も頷く。
「ん? 何が? 誰の?」
「巫女服は目立つ。羽仔、頼んだ」
「承知」
羽仔はわたしへ歩みより、手近な家に入っていく。
「は、羽仔?」
「ここはあたしたちの家もとい、拠点よ」
「拠点……?」
「そう。宿を取るとアシがつくからねー。ついてきて」
羽仔は奥の方へ歩いていく。
板張りの廊下は踏む度に軋む。
幾つかの角を曲がり、数々のうっすらと黄ばんだ障子を開けて、辿り着いた部屋の箪笥は四方の壁を占めていた。
入り口の引き戸から箪笥の色は時計回りに紅、紺、黒、濃茶、薄茶、白、だ。
濃茶が一番幅が広く、黒が一番縦長だ。
たたみ八畳の中央には姿見があった。
羽仔は紺の箪笥から清楚なワンピースと靴下を取り出し、
「はい、着替え」
わたしに向かって差し出す。
羽仔の勢いに押され、受け取る。
「着替えるの?」
「その格好じゃ街を歩けないわ」
「成程」
巫女服を脱ぐ。
羽仔は座って、それをたたみ始める。
わたしは姿見の前で、着替えたワンピースの具合を確かめる。
「似合うわねー」
羽仔がウンウンと頷く。
そのワンピースはわたしのためにあると思わせる程、本当に合っている。
「さすがは羅名ね」
羽仔のコトバにわたしは振り返った。
「羅名が見繕ったの?」
「そうよ?」
「今度買い物に行くときは羅名を連れて行かねば」
「巫女様は巫女服しか着ないわよ。買い物には行かないよ」
「う……っ」
「冗談。普段は巫女服しか着ちゃ駄目なだけ」
「冗談か、それ……?」
わたしが脱いだ巫女服をたたみ終わって、羽仔は立ち上がると、ふふんと鼻を鳴らした。
「ここにいる間は逆に、巫女服を着ちゃ駄目なのよ? だから大丈夫」
「はぁ……」
「さあ、行きましょ? スザク様が待っているわ」
「スザク様って何……『様』って……」
先程から、疑問だった。
羅名も、羽仔も、スザクに「様」を付けて呼ぶ。
その呼び方に含まれているのは単なる上下関係だけだろうか?
すると、羽仔はそのオッドアイを半眼にし睨み付けながら、
「次それ言ったら殺す」
瞬間、空気が凍った。
赤と青の瞳が寒い。
「なあーんちゃって?」
声音だけ戯けて羽仔はウインクする。
(これは突っ込まない方がいい過去があるのかな?)
わたしは羽仔の反応を無視して彼女に笑いかける。
「スザクっていい人よねー」
途端に羽仔は目尻を緩める。
「わかってるじゃない」
いいや、全然分かっていませんが?
取り敢えず、鉄壁の愛想笑いで応える。
「本当。スザクはいい人よ」
羽仔は切ない表情を浮かべる。
わたしはドキッとした。
羽仔にもこんな顔があるなんて……。
「スザク様は、わたしを救って下さいました……」
「そう、なの……」
「でも、わたしは式神ですから……。巫女様が羨ましいです……」
羨ましい?
わたしより何億兆倍も強い、羽仔が?
わたしを羨ましいって……?
失恋と戦う事しかしていないのに?
「ああ、もう行かなければ。スザク様が待ちぼうけよ」
羽仔は紅の箪笥に巫女装束をしまうと、部屋の障子を開ける。
わたしも羽仔に続いて部屋を出た。
最近スマホのカバーを変えました!
手垢が目立たない色です。
長時間、小説を書くのにひじょーにベンリです。やたー!!




