憎悪
俺達がこの旅をするのにはもちろん理由がある
8年前の、あの忌まわしい手術以来
人が変わってしまったように笑わなくなった藍輝
それでも
俺にだけは、
笑顔は向けてくれなくなったものの以前とさほど変わらない態度をとってくれていた
でもある日の夜中
「ゔうっん......」
寝室で寝ていた俺は首元に感じた締め付けと息苦しさで目を覚ました
(......!)
衝撃だった
俺の目に映ったのは
俺の事を心底憎んだ瞳で睨みつけ、俺の首を締め付ける愛する弟...藍輝の姿だった
「あ....いき.....?」
俺の声に、藍輝は目を見開き肩をビクッと跳ねさせた
首を締め付ける手がいきなり離れ、俺はゴホッとむせた
「海輝が...お前が!悪いんだ!全部全部!俺は....なんで俺が.....なんでなんでなんでなんでなんで!!!こんなに苦しい思いをしなきゃいけないんだ!!」
そう言って俺を睨み付ける藍輝は、俺を見ているようでどこも見ていなかった
自分でも動揺を隠し切れずどうしていいか分からないような
悲しい悲しい表情
ただ一つ言えることは、
俺には愛しい弟とこの目の前にいる人物が同じ人間だとは思えなかった
でも、藍輝をこんな風にしてしまったのは
紛れもなく、俺のせい
俺が、俺が全部悪いんだ....
「ごめん....本当にごめん藍輝....俺が、俺が弱いから、大事なお前を守ることができなかった!全部全部俺のせいだよ....」
俺の瞳からは絶えず涙が溢れていた
心臓が締め付けられたように苦しかった
その日をきっかけに藍輝はこの家を出て行った
最後に見たのは、彼の右耳に光るダークブルーのピアスと、濁った瞳に映った俺のワインレッドのピアスだった....
そして、俺は必死の思いで藍輝の居場所を調べて、どうにかやっと見つけ出した
それから、父上の頑なな反対を押し切って、俊介と奏多
たった2人の護衛と共に藍輝の元へと向かう旅を始めたのだった