主人公、RPG2
第二段です
じゅうじゅうと肉汁が火に焼ける音が洞窟内に響いた。
「んー、うまそう!」
網の上に置いた肉をひっくり返しながらゴーグルの人物が言った。
そして振り返って言う。
「本当にいらねえのか?」
「誰が食べるかそんなもん!」
突如知らない世界にトリップしてしまった少女、吉村が叫んだ。
「うまいぞ?蝙蝠の肉」
「うまいとかより、まず蝙蝠の肉ってところが嫌なの!」
短剣に差した肉をずいっと吉村の前に差し出すと、吉村はずざっと後ろに下がった。
食えれば問題ないと思うけどな、とゴーグルの人物はもぐもぐとその肉を咀嚼した。
その人物の隣には蝙蝠のモザイクがかかりそうなあれが転がっており、それを見た吉村は「…おえ」と軽くえずいた。
「じゃあパンは?」
「…いる」
差し出されたフランスパンのようなものをちらりと一瞥すると、吉村は焚火に近づいた。
はい、と切り取ったパンを受け取りながら吉村が尋ねた。
「そういえばあなたの名前は?」
吉村の問いに「んー…」とゴーグルの人物は少し考えた。
そしてにこっと笑って、
「師匠!」
「嫌だ。」
「ひでぇな、お前!」
もぐもぐとパンを咀嚼しながら吉村が切り捨てた。
師匠という人物は少々肩を竦めた後、鞄から紙で包装された四角いものを取り出した。
紙を外すと中からほんのり黄色いものが現れた。
それをぷすりと剣に指すと、火であぶる。
とろりと、こんがりいい色についたそれをパンにこすりつけると、吉村に差し出した。
「チーズ?」
「そう、モーギュのチーズ」
うまいぞ、ともう一つチーズを取り出しながら師匠は言った。
チーズが乗ったパンを一口かじる。
塩味が効いておいしかった。
「そういえばお前名前は?」
「吉村」
そうか、ヨシムラつーんだなとうなずきながら網から蝙蝠の肉をひょい、と取るとパンの上に乗せる。
ついでにこんがり焼けたチーズも乗せる。
一気にかぶりつき、はふはふと熱い熱気を口の外へ逃がしながら師匠がきいた。
「お前これからどうすんの?」
もう一口、と思った吉村の口が閉じられた。
「どうって…」
「ここら辺一帯はドラゴンの巣窟だぞ?」
うっ、と吉村が閉口した。
そして先ほどのドラゴンのことを思い出した。
自分一人ではとてもここから脱出できるとは思えない。
すっかり俯いてしまった吉村を見て、師匠は静かにこんがり焼けた肉を剣に刺す。
そして、ぽんと吉村の頭に手を置いた。
吉村が、え?という表情で師匠の方を見た途端、
「食えやああああ!めんどくさい!」
「ふぼぉ!?」
吉村の口の中に肉がつっこまれた。
口の中は熱いし、自分の身に何が起きたのか分からない吉村は目を白黒させる。
「もう色々めんどくさいし、お前今日から俺の弟子な!分かったか!?ついでに肉うまいか!?」
とりあえず、吉村は涙目になりながらこくこくと首を縦に振った。
ようやく肉を嚥下して吉村は、はっとした。
「で、弟子!?」
「弟子」
「あんたの!?」
「あんたじゃねえ!師匠と呼べバカ野郎!俺の弟子になんのに文句あっか!」
あんたと呼んだ吉村に怒号が飛ぶ。
びくっと吉村は肩をすくめた。
別にないけど…と吉村が言うと、「じゃあ、つべこべ言うな」と師匠が言った。
「後な」
「?」
「スカートめくれてんぞ」
洞窟内に三度目の叫びが響き渡った。
太陽が東の地面から少しづつ顔を現した。
吉村は「んん、」と寝返りを打って、やけにごつごつした地面に寝ていることに気づいた。
ばっと起き上がると、洞窟の中だった。
少し明るい方向は多分出口なのだろう。
「…夢じゃなかった」
吉村はぼんやりとつぶやく。
隣を見ると、昨日の男性が幸せそうな表情でフード付きのマントに包まって寝ていた。
自分の体にかかっていたものを見ると、少し汚れたふかふかな毛布だった。
「…」
しばらくその毛布を無言で見つめた後、吉村は、
「起きろや」
「ぐふっ」
自分の師匠の腹にグーパンをお見舞いした。
「…もう少し、やさしく起こしてくんない?」
空の上を箒で飛びながら師匠が言った。
ゴーグルの下で目が不機嫌そうに細められていた。
タンクトップの下で鳩尾がずきずきと痛み、軽くさすっている。
少々寝癖がついた黒い髪が風に揺れた。
「私にやさしいという文字はない」
「今すぐ存在させなさい」
今どこら辺?と師匠が吉村に尋ねた。
吉村は師匠が着ているマントの裾を払いながら、腰につけている鞄から地図を取り出す。
「えーと、」
吉村は何か目印になるようなものはないか見回した。しかし、山を過ぎ去った今、地面に見えるのは森と草原だけだった。太陽の位置は地面から少し離れている。
すみません、北どっちですかという吉村の問いに「あー、分かった、俺が悪かった」と師匠があきらめたように言った。
師匠に地図を渡すと、吉村は自分の足を見た。
スカートの下にズボンを穿いている。
そしてそのズボンのベルト部分からかなり太めの紐が伸びており、その紐は箒と連結していた。
ズボンは体を冷やさないため、紐は箒から転落しないようにするためである。
「師匠」
「何?」
地図から目をそらさず師匠が返事すると吉岡が言った。
「さすがにスカートにズボンはダサいです」
「俺の私物に文句をつけない」
こっちか、と師匠が箒を右に少し方向転換させた。
それでもなお吉村が無言で師匠を見続けると、師匠は観念したように言った。
「次の街についたら買ってやるから、無言で睨み付けるのやめろ」
次の街まで後、3キロ。
師匠と吉村は空を飛ぶ。
to be continue ?