其の九 北条の絆
氏政「父上! 大変です! 越後の山賊どもがもうすぐそこまで迫っております!」
氏康「まぁ、そう慌てるな息子よ。わしらはただ引き籠っていればよい」
氏照「兄上、我等の父上様ではありませんか。きっと何か策があるのですよ。領国を略奪され多くの農民が逃散させられることとなって胸を痛めているのは解りますが、それは父上様とて同じはずです」
氏政「されど……うむ。そうだな氏照。慌てるにはまだ早いな。我等は籠城の支度を急がせて父上の下知を待てばよい」
氏邦「されど両兄上! 奴ら頭を下げた農民にさえ無知を振るう極悪非道! よもや許すまじ! 河越の威を持つ父上様の下早々に野戦で打ち破るべきです! 極悪非道な山賊どもに天誅を!」
氏政「しかしな氏邦。父上が河越夜戦で勝ったにも時の運がある。実力だけでそれを越す十万の大軍を相手にするわけにもいくまい」
氏邦「されど! 父上は勝たれました! その時同様我等は北条、敵は上杉です!」
氏照「でも、それを率いているのは若干二十一歳で混乱を極める越後を束ねた長尾景虎だぞ? あの叔父上様でさえ『景虎なんぞと正面からはぶつかりたくない物じゃ……』などと呟いておられたのだぞ」
氏邦「むぅ……叔父上様でも苦戦いたすと……」
氏政「それより、叔父上は大丈夫であろうか…?」
氏康「あぁ、綱成なら何の心配もいらん。奴はわしよりも戦上手だ。それに、奴の考えていることはわしも解るし、わしの考えていることは奴も解っておる。今頃奴も居間で茶でも啜って昼寝しておるだろうよ」
氏照「ははは、そんなバカな……」
氏邦「以心伝心! カッコいいでござるな! 某少しばかり河越夜戦について叔父上から聞いてござる! 言葉を合わせずとも二人は互いの軍勢の動きを見ただけで何を考えているか悟り、敵の動きを見て現状を把握することで次の一手を読んで阿吽の呼吸で見事上杉の大軍を散々に討ち散らしたのだとか!」
氏康「はっはっは! 氏邦は本当に戦話が好きよな! しかし、それは奴も盛っておるわ! 奴もなかなか茶目っ気がある。ついつい鼻高に語ってしまったのだろう。一応伝令で何回か作戦のやり取りはしておる。まぁ、阿吽の呼吸でうまくやったのは委細を伝える暇がなかったゆえ確かにそうだがな」
氏邦「やはりかっこいいではございませぬか! 兄上! 我等もそれをやってみましょう!」
氏照「……兄上は?」
氏政「生憎そこまでできる自信は流石にないぞ……」
氏照「右に同じく」
氏邦「(´・ω・`)」
氏康「まぁ、そちらもまだ鍛錬が足らぬだけよ。共にもっと酒を酌み交わし、語らいを続ければいつかできる日も来ようて。ふはっはっは!」
氏邦「(`・ω・´)」