其の七 田舎者
手塚「さて、氏治様。腹拵えも済んだことですし、百姓共も随分集まりました。そろそろ皆の希望にこたえても良いのではありませんかな?」
氏治「そうね。そろそろ行きましょうか。商人さん! 御饅頭、ありがとうございました!」
商人「いえいえ、こちらこそありがとうございました。へへっ」
白木「氏治様、たぶん私達に気づかないで出ていきましたね」
八幡「ところで赤松殿、何やら何処からともなく小田家中の者と思われる武士が出てきましたけど、なんなんですか?」
赤松「あれは手塚の側近の兵ですな。あ奴の側近の兵は武勇と雅楽の才があって初めて旗本衆と認められるからなぁ。通称手塚衆は普段からああして合奏したりすることもあって信頼関係と息の合わせ方は小田家中切っての物がある」
白木「ということは、本日はここで演奏会をなさるのでしょうか?私もこうして近くで氏治様の奏でる音を聞くのは初めてなので楽しみです」
葵「氏治様はどんな曲を奏でられるんでしょうね……なんだか想像が膨らみます!」
八幡「あいつが音楽ぅ~……? 全く想像できん。カスタネットがお似合いだろうに」
葵「かすたねっと? ですか?」
八幡「わり、こっちの話。しかしまぁ、あいつにどのくらい才能があるんですかね?」
赤松「八幡殿。氏治様をそう馬鹿になさいますな。氏治様は幼少のころより様々な才をお持ちでな、当家一の芸達者一族野中瀬家にも勝ると言われた、芸事においては天才といって過言ではないお力をお持ちなのですぞ」
白木「そういえば私も父上からお聞きしたことがございます。政治様の御長女の君は文芸に秀でておる。その芸事の達者ぶりは御帝にお見せしても恥じぬ様である。と」
赤松「左様! 氏治様の生まれが都の近くであったならば、きっと帝は噂を聞いて行幸なさっていたであろうというに……」
八幡『どう考えても身贔屓でしかないだろ……遼東の豕でないことを祈るばかりだな……』
葵「御帝……正直私みたいな下賤な人間からしますと、雲の上過ぎて全く想像もつきません。そんなに大事なお方なのですか……? 帝が変わろうとも私たちの暮らし向きがよくなるわけではありませんし……」
八幡「まぁ、そういうな。お偉いさんなんてものは大概そういうものだ。それでもいなきゃいけない人なんだよ」
葵「そういうものですか……」
白木「あ、そろそろはじまりますよ?」
赤松「おぉ! 八幡殿! 急ぎますぞ! 場所取りは肝要にござる!」
葵「は、早い!」
八幡「隠密行動はどうした……」
遼東の豕 世間知らずの田舎ものを馬鹿にした言葉。