其の五 土産と氏治
赤松「そうそう、氏治様の幼名を小姫と仰るのだが、小姫様等に短歌を教えた師は極楽寺の住職殿でな、音楽関連を教えた師はあの手塚殿なのだぞ?」
八幡「マジか……」
葵「氏治様って小さなころから才気にあふれた御方だったんですね」
白木「そのままお姫様として生きても数多の男性が氏治様に惚れ込んでいてでしょうね。少々勿体のうございます」
赤松「……」
八幡「そういや、俺が地方の農村を見て回った時も氏治がいたな。暇があれば民と行動を一緒にしてるのか……まぁ、なんとなく親しみあるお殿様って感じはするのかもな……」
赤松「そんなことより、陰に隠れつつもう少し近づきましょうぞ。ここでは氏治様の笛の音が聞きづらいのでな。どうやら商店街の大通りに仮設の演舞台を設置するようだな。目の前の店に入って休息でもしようぞ」
白木「いいですわね! 赤松様! 私栗羊羹をいただきとうございますわ」
赤松「うぐ、まあ、止む負えませぬな。八幡殿はご自分で買ってくだされよ」
八幡「そんなわざわざねだったりしませんよ……」
―――舞台前の店―――
白木「はい、葵さん」
葵「わ、私までいただいてもよろしいのですか!? こ、こんな立派な物……」
白木「かまわないですよ。ね? 赤松様?」
赤松「う、うむ。左様ですな。小娘も氏治様の友人なのだろう?遠慮などいらぬ」
葵「ありがとうございます! では四分の一だけ戴いて、後は弟たちの為にお持ち帰りさせていただきますね!」
八幡「なんだか涙が出てくる」
白木「あ、氏治様が入ってきてしまいましたよ?」
赤松「な、なんと!? 皆の者! 顔を隠せ!」
葵「へ? は、はい!」
氏治「そ、そんな、別にいいんですって! みんなに曲を聞いてくれるだけで幸せなんですから!」
商人「まぁまぁそういわずに。この通り一の商人として氏治様をもてなさなかったとあれば批判を受けます。それにほら、手塚様だって両手に持ちきれぬほどの貢物を抱えてるじゃないですか」
氏治「あぁ!! 手塚! お土産は申し訳ないから全部断っておいてって言ったじゃない!」
手塚「し、しかしですな氏治様!? これがまた断れぬように口うまく……」
氏治「もぅ! この前菅谷に[また餌付けされたのですか……太りますぞ?]とか言われたばっかりなの! 戦で何か言われるのは仕方がないけど、女の子に太るとかって言わないでほしいのに、ほんと菅谷は……ぶつぶつ……せめて胸に行けば……ぶつぶつ」
手塚「むしろ、氏治様も男装なさればいいのではないですか?良くお似合いになられますよ。ほら、敦盛なんかどうです?横笛と相まってそれはそれは絵になりましょうぞ」
氏治「男装は戦場でもう十分。まぁ、受け取ったものを返すわけにもいかないし……後で住職さんのところに届けておいて。住職様は甘いものに目がないからきっと全部食べるだろうし」
手塚「承知いたしました」
商人「ささ、氏治様。こちら当店の新商品の干し柿餡饅頭でございます。おひとつ召し上がってぜひとも感想がいただけましたらと……」
氏治「え? あ、わかったわ。はむ、むぐむぐ……」
商人「いかがでしょう?」
氏治「なかなかいけるわね! おいしいわ!」
商人「ふむふむ、いやはや、ありがたい限りです。此方の箱にお土産も用意してございますので、どうかお持ち帰りください」
氏治「あ……うん。まぁ、葵ちゃんとか喜ぶだろうからいいか……」
白木「なんだか、あの商人さん妙にうれしそうですね」
葵「白木様、あの嬉しそうな顔はろくなことを考えてない顔ですよ。悪巧みする人間ってああいう顔をするんです」
赤松「ほぅ、小娘はそういったところに目が効くのだな。して、どのような悪巧みじゃ?」
葵「あ、いえ……すみません、そこまでは……」
八幡「まぁ、大方[氏治様が大絶賛された一押しの柿まんじゅう!]とでも銘打って売るんだろうな。ここの領民には効果絶大だろうし」
葵「やっぱりそういう……」
白木「汚いですね、商人というものは」