其の四 氏治の人気
八幡「さて、今日は氏治の素顔に迫ってみたいと思う。なぜあいつかこんなに領民たちに愛されるのかがわかればこれから何かと役に立つと思ったわけだ。決して他意はない。いや、マジで」
白木「……いったいどこに向かって言い訳をなさっているのですか……?」
葵「え、えっと……白木様、私はまだお仕事が……」
白木「今日はこれがお仕事です。氏治様が本日は不在で少し心細いのです……だめですか?」
葵「いえ! 光栄です!! ぜひお供させてください!」
白木「よしよし、葵さんはいい子ですね」
八幡「手なずけられる子犬を見ているようだ……」
白木「何か?」
八幡「いえ。そしてこちらが氏治の素顔を迫るうえで案内役を務めてくださいますインストラクターの赤松殿です」
赤松「某がいんすとらくたぁとやらを務めます赤松でござる」
白木「当家に四天王のことを知らぬ方はいないかと……」
葵「いんすと……くたぁ?」
赤松「さて、氏治様は基本城を軽く見まわっていなければ、大概は城下にいるのですぐに下ることをお勧めいたしまする。しかし、本日は外出すると届け出があるのでおそらく大島城当たりに居りますな」
八幡「大島? そりゃまたなぜです?」
葵「大島といえば……そろそろお祭りがある時期ですね」
赤松「ほぉ、小娘良く知っておるな。左様、氏治様は民の祭りがこの上なく好きでなぁ、幼少のころよりよく笛とかをもって友人と共に城を抜け出しておったものだ。そのたびにわしらは肝をつぶされる思いでなぁ……」
八幡「まぁ、そんなわけで大島の祭りのところまで行ってみましょうか」
―――大島―――
町民「氏治様! 氏治様だ!」
商人「おぉ! 氏治様! ぜひ当店にお立ち寄りくださいませ! 甘い団子も丁度蒸し終わったのです!」
農民「氏治様がまたお祭りで踊ってくれるんじゃろか!? ありがたやぁ」
子供「また笛が聞きたい! あのお姉ちゃんと一緒の笛とっても綺麗だった!」
八幡「大した人気じゃねぇか……」
赤松「それはそうでしょう。氏治様は幼少のころから民を思う御心優しい方で、常に民と対等の目線でお話してくださっていたのですからな。お祭りとかにも顔を出して娯楽を民に施したり、笛の引き方を教えたりとそれはもう大盛況ですぞ」
白木「私は普段はお城で源氏物語とかを読んでいるだけでしたわ」
八幡「でも、そんだけ民に顔を出してんなら葵とかも顔くらいは見たことあったんじゃねえのか?」
葵「ぁ、いえ……私は祭りに参加させてもらえる身分ではなかったので……無高百姓といって、耕す畑もなく、その日の暮らしにも困っていた私達ですから、お祭りなんてとても……」
八幡「わるい……」
赤松「ちなみに無高、石高がない、収穫するものもない百姓。いわゆる水飲み百姓といわれる部類ですな。米はおろか、黍や粟でさえも口に入れることが少ない最下層です」
白木「赤松様、そのような解説は欲してはおりませんよ?」
葵「い、いいんです白木様! どうかお怒りにならないでください!」
白木「葵さん……」
八幡「険悪になる前に話を戻そうか。ん? ちょ、赤松殿! なぜあそこに手塚殿が!?」
赤松「あぁ、手塚か。奴は腕が立つからな。暇なときはあいつ一人で済むから護衛を任せることが多い。それに、今日みたいな日は手塚殿は鼓を叩いて氏治様の舞を盛り立てる役などをやっているのだ」
八幡「パッと見脳筋にしか見えないのに……むしろ大太鼓の方が似合いそうだが」
白木「ふふ、人は見かけによらない物ですわ、八幡様」
葵「…………」