殿様はサンタクロース♪ ※百合企画
百合…女の子四人でまったりトークなだけだけど…百合なのかな…
ひとつ前の企画作品でも導入部分で男出てるけど、百合の作品って一瞬も男は出さないでおくべきだよなぁ…
僧侶も走ると言われる年の末、戸を閉めても僅かに入る隙間風に肌を泡立てられるうそ寒さの感じるとある日のこと、八幡は過去に居た環境を思い出してはくたびれたようにため息をついていた。
「はぁ……」
「どうしたの? そんなため息なんてついちゃって。何か相談事なら聞くよ?」
相も変わらず自宅の様に八幡廓の館に無断で侵入した少女は、書斎で仕事をする八幡の傍で八幡の所持する教材の類を読み漁っていた。しかし、八幡が一度ため息をつくとそれらはすぐに放り出すなり座をただし、心配そうに八幡の顔を覗き込む。
「いや、悩みってわけじゃないんだ。師走師走ってみんなが言うから忘れてたけど、そういや12月なんだなって思ってさ」
「ん、そうだけど、それでなんで溜息?」
「んにゃ、大したことじゃないし、氏治には解らないことだからな」
八幡は手に持っていた細い筆を気怠そうに咥えると、煙草を吹かすようにして息を吐くと、間もなく氏治から目線を逸らした。まるで頼りにする様子の無い八幡に氏治は僅かに頬を膨らませた。
「なによ、言ってみなければわからないじゃない」
八幡は氏治を一瞥すると、僅かな逡巡を経てため息をもう一度つくとその挙動の理由を説明し始めた。
「まぁ、良いか……いやな、氏治達の服装って、赤、緑、白とかじゃん? それ見てるとさ、あぁ、本当なら今頃クリスマスなのかな……て思ってさ」
「あぁ、色はそうね。で、くりすますって何?」
八幡はクリスマスが何かと言われた時、改めて考えたこともないためになんと答えた者かと腕組みをする。そして、しばらくして小さくくすりと鼻で笑うと悪戯顔で語りだした。
「クリスマスってのは、コードネームサンタさんとかいう赤い服着た奴が煙突やなんかから夜に不法侵入して、良い子のみんなの枕もとにプレゼント……もとい、贈り物を配って喜ばす行事だな」
「へぇ、それは良い行事ね。……ところどころなんかおかしな気がするけど。ところで、それは何を送るものなの?」
「いや、別にお歳暮じゃないんだから何でもいいんだ。本人たちが欲しいものを送る。ってまぁ、そのサンタさんってのは大概自分の両親であることがほとんどなんだけどな」
「そっか、両親……」
両親から贈り物をもらう行事と聞いて氏治は少しさみしそうにつぶやいた。
「まぁ、つってもこの時期は勉強で忙しいはずだったんだし、悩むこともないかね。さて、そんじゃ俺はそろそろ仕事だから」
八幡はそんな氏治の様子に気づいてか、早々に話を切り上げるなり腰を上げて襖を開く。
「え? 八幡が仕事?」
不思議そうに首を捻る氏治を見て、嘆くように肩を落として振り返った。
「……おい、一応産業振興を頑張ってるんだっての。今日だって新しく作られた機織り工場見に行くんだしな」
「そ、そう。頑張ってね」
氏治は八幡の背を見送ると、一人になった部屋で大の字に寝そべって天井を仰ぎ見た。
「くりすます……かぁ……」
数日後の雪の降るクリスマス当夜、氏治の呼び掛けによって鈍斎、白木、葵の三人が八幡廓に集まった。無論、館の主であるはずの八幡の許可なくである。一つの炭櫃の周りを囲うようにして四人は談笑していたが、ほどなくして氏治は席を立った。
「さて、今日も夜が更けて来たし、氏治様がお戻りになられたら今日はお開きとしようか」
鈍斎は外の明るさを障子越しに確認してからそう呼びかける。しかし、それを聞いて白木は不思議そうに首を捻った。
「あら、鈍斎様。氏治様が今日はみんなでここに泊まるから語り明かそう。と仰っていましたよ?」
「な……そ、そんな馬鹿な! この屋敷は仮にも八幡の屋敷で……その、私達のような女がともに夜を明かすというのはその……」
鈍斎は微かに紅く火照った頬に両手を当て、目線を上下左右へと泳がせる。白木は鈍斎の女々しさを見るや楽しそうにほほ笑んでわざとらしく問う。
「あら、鈍斎様は『男性』でしたよね?」
「あ、いや、そ……その通りなのですが……」
ばつの悪そうに縮こまる鈍斎を見て楽しそうに笑いつつ、徳利から盃に透明の液体を流し込んだ。
「ふふ、それに大丈夫ですよ。八幡様は腰抜けですからそこまで大それたことはできませんよ。何かあれば私が一刀両断です」
赤ら顔で愉悦の笑みを浮かべている白木は盃に並々注いだ液体を一口で飲み干す。顔色や雰囲気がどことなくいつもと違うように感じられた葵は白木の顔を心配そうにのぞきこんだ。
「し、白木様……な、なんだか今日は様子が変ですよ……?」
「あら、そうですか? ふふ、別に私はなんともありませんよ。鈍斎様も、同じ部屋で寝るわけでもないんですから、気にしすぎですよ」
白木は余裕の見える上品な笑みを浮かべる。これに対して鈍斎は困惑した。
「そ、そうなのでしょうか……葵はどう思う」
「わ、私は……白木様と一緒に居られれば他のことは別に……」
鈍斎に問いかけられた葵は恥ずかしそうに身を縮め、口篭もった声で呟いた。鈍斎の心配などまるでこの二人には無関係の様である。
「……あれ、私がおかしいのかな……?」
鈍斎は二人との感覚の違いに頭を悩ませる。葵は氏治の出て行った襖の方を見ながら僅かに腰を浮かせる。
「それより、氏治様遅いですね。御台所でお茶でも汲んでくるついでに氏治様を……」
葵が番茶を汲みに行こうと腰を浮かせたまさにその時のことである。スパンッ! という小気味の良い音を立てて襖が開かれる。部屋の三人は突然の物音に驚きながら一斉に開かれた襖へと視線を向ける。
「みんな! めりーくりすます!」
「!?」
先端に白い毛玉の着いた赤い三角帽をかぶり、真っ赤な紋羽織を羽織った氏治がそこに現れたのである。手には白い布袋を持ち、中身のバランスが悪いのかずいぶん歪な形をしている。
「ど、どうしたんですか氏治様!?」
鈍斎は驚きのあまり立ち上がって氏治に歩み寄り、心配そうにおどおどとし、
「いつになく赤い……」
葵はいつにも増して真っ赤な氏治に苦笑いを浮かべ、
「あら、ずいぶん大きな袋ですね」
白木は氏治に目をくれることもなく、見慣れない歪な白い袋を見つめて首を捻っていた。
氏治は三人の注目を浴びると鼻高々に笑みを浮かべ、少し勿体つけたような語り口で説明し始めた。
「ふふ~ん、今日はね、南蛮の灌仏会らしいの。南蛮では今日をパーっとお祝いしてお祭りで楽しく飲み明かして、赤いさたんさん役の人がいい子のみんなに皆にぷれじでんとっていう贈り物を配って回る日なのよ! 本当はこの役はご両親がするそうなのだけど、私には御父様もお母様ももういないし、私が赤いからもう私でいいかなって」
「なんかもう最後適当ですね! はぁ……わかりました。氏治様がそのように仰るのでしたらお付き合いいたします」
氏治の最後の投げやりっぷりに、鈍斎はついツッコミを入れてしまう。そして、一つため息をつくと自分の屋敷への帰宅をあきらめてこの場で夜を明かすことを承服する。氏治はそんな鈍斎を半目でじとじとと見つめ、口をへの字に曲げて不満を顕にした。
「ねぇ、つーちゃん、もう奉公の時間は終わりなの! せっかく肩の力抜いてパーッと楽しもうって言っているのに、そういうお固いのは嫌だなぁ……」
氏治は鈍斎に詰め寄って、ムスッとした表情のまま息が当たる距離まで顔を接近させる。鈍斎は顔を真っ赤にしつつ背中を反らせ、後退りしながら距離を取ろうとするが氏春はすぐにまた距離を詰める。数歩分後ろで炭櫃に当たりながら見つめてくる白木と葵を横目で幾度かちらりと見ながら小声で氏治に陳情する。
「で、ですけど氏治様、その、二人がいますし……」
しかし、そんな陳情の甲斐なく、氏治は更に面白くなさそうな表情で問いかけてくる。
「つーちゃん」
半目のまま鈍斎の視線を掴みつつ、鼻先同士が触れそうな距離まで詰め寄ると、鈍斎はガクリと肩を落として折れた。
「……はぃ……こひめちゃん……」
鈍斎が折れると氏治は満足そうに幾度か頷き、鈍斎の肩口から顔を覗かせて後ろの二人に声をかけた。
「それでよし。二人も今日は無礼講だからね! 気分を盛り上げるために早速お酒を空けようか!」
氏治は楽しげに拳を頭上に掲げた。そして氏治は炭櫃の周りにある座につくと、酒の入った徳利が無いかと周囲を見渡すが見つからず、しばらくして葵が一つの空の徳利を手に取った。
「お酒って……もしかして、これだったりしますか……?」
「あれ、そうだけど……何でもう空なの?」
氏治は疑問符を浮かべたような顔をすると、葵はひきつった苦笑いを浮かべつつ目線を白木へと向けた。
「……白木様が先ほど……」
「あらまぁ、先ほどからすぐ乾いてしまう変なお水かと思ってましたけど、これがお酒だったのですね」
「……景気づけにって思って結構強めのお酒だったんだけど……大丈夫?」
「あら、わたくしは何も問題ありませんわ。ただ、お酒ってなんだか血がたぎってまいりますね」
白木は口元に奥義を当てると上品な笑みを浮かべる。度の強い酒の割には頬を軽く染める程度なので酒に強いのであろうことが窺えた。
「白木様、暴れちゃだめですよ。此処の皆さん接近戦できないんですから、白木様が暴れたら太兵衛さん呼ばないと抑えられないですし……」
葵は真顔で呟く。すると白木は葵へと向き直って楽しげに微笑んだ。
「ふふ、でも、もし私が何か自省が聞かなくなった時は、葵さんが止めてくれますから大丈夫ですよ。ですよね、葵さん?」
「えっと、はい! 私の命が尽き果ててもお留します!」
「ふふ、良い子ですね」
胸の前で両腕を構えて決意する様子の葵を、白木は優しく子犬でも扱うように撫でる。
「葵ちゃんは本当に白木ちゃんに憧れているよね~私も人から尊敬されるような人にならないと! ね、つーちゃん」
氏治はその二人の様を見て楽しそうに暖かな笑みを浮かべ、鈍斎へと顔を向けた。
「だ、大丈夫だよ! こひめちゃんは十分尊敬されてるし、皆に愛されてるよ!」
鈍斎は氏治にフォローの言葉をかけるが、いつもとあまりに違う柔らかな口調に葵はつい「口調が柔らかい鈍斎様って可愛らしい……」と呟く。鈍斎は可愛いと褒められて照れているのか必要以上に恥ずかしがって顔を赤くし、涙目で氏治に懇願する。
「な……こひめちゃん、普段通りの口調にさせて……」
「だーめ! それに、本当はそれが普段の口調でしょ」
「そ、そうですけど……」
口調が変わったとたん鈍斎は弱弱しさを見せ、恥ずかしさに力が抜けたのかその場にへたり込む。その様を見た白木が上品に笑いながらさらに抉る一言を放り込む。
「ふふ、鈍斎様は普段の仮面を外すとそんなにも女々しいんですね」
「あ、白木様! 鈍斎様、これは可愛らしいって意味ですから……」
白木の発言に葵は慌ててフォローを入れるが、鈍斎は更に縮こまっていく。
「うん、ありがとう、葵……でも、かわいいって言われるのもすごく恥ずかしいよ……」
「あ、すみません……」
空気が少し冷えそうになると、氏治はすかさず陽気な声と共に酒の入った徳利を掲げた。
「ささ、一応お酒はまだあるから、これで今日は夜を明かしちゃおう!」
「だね、でも、お酒の肴にするには今日は月もあんまりないから少しさみしいかもね……」
「ふふん! 大丈夫、そっちもちゃんと用意してあるから!」
「さすが氏治様ですわ」
氏治がドヤ顔で言うと、酔いが回ってきているためなのか、白木は手を一度打ち鳴らして相槌を打つという普段より大げさな動きをする。
「葵ちゃん、ちょっとそこの障子戸を開けて見て」
「こ、こうですか?」
予想以上に長くなったのでとりあえず前篇だけ公開します。
明日明後日までに後半は完成するのでもう少しお待ちくださいb
後半はもっと百合成分が増す……はず。




