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幼馴染  ※百合企画の作品

「野中瀬様、お疲れ様でした。昼食はどうなさいますか?」


 太兵衛は汗にまみれた笑顔で言った。あたりを見回すと、早朝からの熾烈を極める実践稽古で百を優に超える兵が疲れ果てた様子で地面にへばりついていた。晴天なために差し込む日差しは日向ぼっこをする分には心地よいが、激しい運動をする者には忌々しいことこの上ない。


 この日の軍事稽古は太兵衛率いる八幡隊と、鈍斎率いる苅間城軍で行われ、軍配は辛うじて後者に上がるものであった。


「いや、昼食は後でいただくことにするよ。私は汗を流してから氏治様の下へ出向く用があるからね。皆はゆっくり休んでから昼食をとるといい」


 鈍斎は二枚目な清々しい笑みを向ける。


「なるほど、了解です。お気遣い痛み入ります。……はぁ、八幡様も野中瀬様の様に食事をとる間もないほどにきびきびと働いてくださればいいのですが……」


「どうせあのバカは弓の指導くらいしか行わないだろう。太兵衛殿もご苦労だろうな」


 太兵衛は鈍斎の働きぶりを見て我が主の怠け癖を嘆く。それに同情するようにして鈍斎も呆れた様子で苦労の絶えない太兵衛を労った。


「いかさま。強いて言えば残りは馬術の稽古くらいでしょうか。っと、お忙しいのに御引止めして申し訳ありません。では拙者はこれにて失礼いたします」


「あぁ、今日はいい稽古だった。ぜひまた声をかけてほしい」


「は! 光栄でござりまする!」


 太兵衛は一礼してその場を後にすると、鈍斎も踵を返して練兵場を後にし、小田城本丸へと向かう。訓練前に頃合を見てぬるま湯程度に沸かすよう葵に頼んでいたために一直線に風呂場へと向かっていた。


 訓練前に借りていた[氏治入浴中]の札を入り口に掛けると中をしっかり確認し、そのあとゆっくりと服を脱ぎ始める。


「このサラシも少しきつくなってきたな……擦れて痛いし……」


 服を脱ぎ終えると薄手の手ぬぐいをもって浴場へと入る。浴槽の温度を確認してから桶で一度ぬるま湯を汲んで汗を流す。洗い場に移ると無患子(むくろじ)の実をつぶして粉末状にしたものを桶にお湯と共に入れて泡立てた。


「泡はこんなものでいいな」


 鈍斎はその泡をヘチマのたわしにつけて体を洗い、垢などを落とし始めた。しかし、静かに開いた扉からゆっくりと何者かの影がその背へと忍び寄る。


「つーぅーちゃん!」


「ひゃぁ!?」


 ある程度洗い終え、今度は下半身でも洗おうかとしたその時、鈍斎の背に柔らかい何かがまとわりつく。


『やわらかくて気持ちぃ……じゃなくて!』

「こ、こひめちゃん!? な、なんでここに!」


「別に私のお城だし、私がどこにいてもいいじゃない。それに、私が入浴してるって札掲げているのに私が外に居ちゃおかしいでしょ~?」


「そ、そうだけど……!」


 鈍斎は驚きのあまり声がすっかりと裏返る。氏治はそんな鈍斎の様子を面白そうに眺めてさらに悪戯しようと悪心を働かせる。


「にしてもつーちゃんの肌って綺麗だよね~。さわり心地いいなぁ~」


 氏治は悪戯をする子供のような無邪気な笑みを浮かべると、その頬を鈍斎のうなじへとこすりつけるようにしてその肌の感触を楽しむ。すると、鈍斎は予想外の氏治の行動に驚き、僅かに体を震わせる。


「ちょ、ちょっと、こひめちゃん! や、やめ、くすぐったいよ」


 鈍斎があたふたとして困っている姿を見ると氏治の悪戯心はさらに燃え上がり、肩においていた手をするりと肌に添わせるようにして脇から横腹へと移動させる。鈍斎はそのくすぐったさに耐える様に身を縮こまらせ、両手でタワシを力強く握り、目を堅く瞑った。


「つーちゃん体が引き締まってていいなぁ。腰回り細いのにしっかり馬上で踏ん張れるんだし、つーちゃんはほんとすごいよね」


 本心から感心し、おだてる様になことを口にする氏治だが、その指先の動きは明らかに悪意の有るいじり方をしている。指先をふれるか触れないかのところで、わき腹をなぞられる度に鈍斎の体は小刻みに震え、腹筋や背中を指先でつつくたびに真一文字に結んだ口から甘い声が漏れる。


「ひぁ……んんっ! こ、こひめちゃん、く、くすぐったいって……!」


「ふふ~ん、つーちゃんは此処が弱いのか~えぃ、えぃ!」


 氏治によってわき腹や背中のツボを押されると、それを避けるように鈍斎は体をよじる。すると今度は手の平をべったりと密着するように鈍斎の肌に押し付け、指を波の様に動かしながら、手の平自体にも圧力を加えたり弱めたりと強弱をつけて揉む様にしていく。


「んぁ……お願いだから……もぅ、許して……こひめちゃん……やめっ」


 鈍斎は口からこらえきれずに甘い吐息を漏らしつつ、震える声でやめるように懇願する。しかし、氏治にその声が届くことはなく、鈍斎弄りに夢中な様子で手つきはいかがわしさを増す。背中やわき腹をくすぐっていた手は、同じ位置にとどまることに飽きたかのように何の前触れもなく上へと向かって位置を変えていく。


「ひゃぁ!?」


 氏治の手は鈍斎の胸部で抑え込まれ、それに不満を示すかのように二つの掌は胸部のなだらかな丘陵をむんずと鷲掴みにする。


「ん、つーちゃん、意外と胸が大きい……なんで、普段全くないのに……?」


「そ、それは普段はサラシを巻いてるんだから、ぁんっ……と、とうぜ、当然だよ。それより……も、揉まないで……」


「で、でも納得できない……この胸をあのサラシでそこまで隠せるの……?」


「わ、私にそんなこと言われても……そ、その指の動き、止めて……」


 鈍斎は恥ずかしさに顔を真っ赤に染めて、何滴か湛えた涙を零しながら再び懇願する。


「ふふ、真っ赤になったつーちゃん可愛いなぁ! そんなこと言われるとついついもう少しいじわるしたくなっちゃう。つーちゃんの胸やわらかくて気持ちいし、私が男の子だったらきっとつーちゃんにすぐ惚れちゃうだろうなぁ~」


「え、それはほん……じゃなくて、な、何言ってるの。 わ、私は男として生きていくんだから……む、むしろ私がしっかりして……その……」


「ん? 今なんて言ったの? つーちゃん」


 氏治は鈍斎の肩に顎を乗せて鈍斎の顔を覗き込む。ほぼ同時に鈍斎も振り返ったことで二人の顔は鼻先をかすめる距離となる。鈍斎は自分の心臓の鼓動が徐々に激しくなるのを感じ、湯船につかってもいないのに全身がのぼせるように熱くなる。


「つーちゃん、どうかしたの?


「ぁ……ぅわぁ!」


 鈍斎は恥ずかしさや緊張のあまり正常に頭が働かず、とにかく一度氏治との距離を取ろうとしたのか、振り返りざまに氏治の肩を押してしまう。


「きゃぁ!?」


 しかし、それは勢い余って氏治は体勢を崩してしまい、背中から倒れ込むようにして床に後頭部を打ちつけてしまう。


「え、こ、こひめちゃん!?」


 鈍斎は急いで氏治を抱き上げ、容態を確かめる。頬を軽くはたくと反応がある。


「よかった……大したことなくて……」


 鈍斎は安どのため息を一つ吐く。そして氏治にひざまくらをする要領で腿の上に乗せると、優しくその神をなでる。次に、冷静になるために数回深呼吸すると先ほどまでの動悸は収まった。


「と、とにかくこひめちゃんを介抱しないと……」


 そう呟いて視線を落とすと、先ほどまで背後にいて見れなかった氏治の前進が目に映る。


「こひめちゃんの肌、柔らかそうだな……って! 何考えてるんだ私は!!」


 こうして改めて氏治の素肌を見るのは氏治が家督を継いで以降一度もない。以前見た時はお互いに幼く、発育もまだの段階であったが、今こうして見直してみるとその体は各部位の釣り合いが取れている美しい肢体をしており、異性でなくともそそられる何かがある。


「で、でもさっき、こひめちゃんがいたずらしてきたんだし……ちょっとくらい仕返ししても……」


 鈍斎の中に邪念が湧きあがる。今まで抑圧されてきた感情が甘美な背徳感を掻きたて、その腕を艶めかしい肢体へと伸ばさせる。


「少し、少しだけ……幼い時みたいにちょっと親しく触れ合うだけ……」


 しかし、その肌に触れる直前でその動きを止める。


「は! いや、駄目だろ私。何を考えているんだ……私とこひめちゃんは主従なんだぞ……こんな無礼な事して良いわけが……わけが……」


 首を左右に強く降って気を紛らわし、冷静になるべく一度天井を見上げる。しかし、一息ついて視線を戻すとやはり誘惑に駆られて自分を抑えられなくなりそうになる。


「そ、そうだ、これは応急手当なんだ。たしか心の臓を押して気つけさせつつ、呼吸が止まらない様に他の人間が空気を入れてやる……とか言ってたな。そうだ、これは気つけの為に心の臓を押すだけ……不可抗力で他にも少し触れるだけなんだ……仕方がない、これは仕方がないはず……」


 そう呟くなり、鈍斎は氏治の胸のふくらみに人差し指を押し込む。滑らかな肌は吸い付くような感触をもたらすが、同時に強い反発力でその指を押し返す。


「すごく……柔らかい……こひめちゃんがいっそう可愛くなって、官能的……」


 鈍斎はしばらく氏治の肌の感触を楽しむと、ゆっくりと腿から氏治をおろし、頭の部分に手ぬぐいを敷いて寝かせる。その後、一度深呼吸をして何やら決意を固める。


「そう、これは人工呼吸というものだ。こひめちゃんにもしものことがあってはいけないから、止むを得ず応急手当として行うんだ……決して私欲とかじゃない、私は悪くない……」


 自分に言い聞かせるように言い訳すると、鈍斎はいよいよ氏治に顔を近づけてゆく。少し、また少しと顔を近づけていくごとに胸の鼓動は痛いほどに早まり、強く脈打つ。一度生唾を飲み、いざ口づけをしようと意気込んだ時に間が悪く氏治が目覚めてしまう。


「う……うん……」


「!?」


「ぁ、あれ……つーちゃん……?」


「あ、いぁや!? こ、これはその……」


 顔を至近距離まで近づけてしまった際に氏治の目が覚めてしまったので、鈍斎は慌てて顔を離し、どうにか場を取り繕おうと言い訳を考える。


「あぁ、私転んで気を失っちゃってたんだ……ぃたたた、つーちゃんが介抱してくれたの?」


「は、はい! 氏治様が無事で何よりです!」


「そっか、ありがと」


 氏治は無邪気な笑みを鈍斎へと向ける。その笑顔に鼓動は更に早くなり、ひどく胸を痛めたがどうにか堪える。


「あ、あの……申し訳ありません……氏治様にお怪我をさせかねないようなことを……」


「いいんだよつーちゃん。私こそごめんね? そこまで嫌がってるなんて思わなくってつい遊びすぎちゃって……」


 氏治が申し訳なさそうにしょんぼりと俯くと、鈍斎は慌てて声をかける。


「そ、そんなことないですよ! 全然いやなんかじゃ」


「え、じゃぁまたしてもいいの?」


「ぁ、ぃ、いやぁ……そういう訳では……」


 顔を上げた氏治は悪戯好きの児子の様にまたも無邪気な顔をしていった。


「それじゃ、とりあえず二人でお風呂に入ろっか! お互い体が冷えちゃったし、あったまるために密着して入ろうね~」


 氏治は楽しげに笑うと鈍斎を押して浴槽につかる。この後、鈍斎に氏治のイタズラから逃れるすべはなく、なされるがままであったという。



※みてみん様の基準ではアウト判定が出たようなので挿絵はR18の画像を投稿するところへ移動させました。画像は戦国アイドル小田天庵で検索してください。


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