其の二十一 八幡廓落成式・第五編
行方刑部少輔…八幡の同僚のような地位で、気も合いとても仲が良い。ただ、居館が小田城から遠いので頻繁には小田城に顔が出せない。
鈍斎「もう時間なのだから始めたらどうだ」
八幡「いや、そうなんだけどさ、行方殿が……」
氏治「行方には悪いけど、もう時間だから仕方ないよ。せっかくつーちゃんと葵ちゃんが作ってくれた料理も冷めちゃうし」
八幡「そうだな。祝辞も読み終えて、皆待ちくたびれてるみたいだしな」
氏治「じゃぁ皆! 乾杯!」
一同「おおぉ~!」
八幡「なんでお前が音頭取ってるんだよ……」
葵「せっかく楽しい時なんですからおこっちゃだめですよ。八幡さま」
八幡「流石にもう慣れたからな。心配しなくても大丈夫だ。まぁ、せっかくだし食うか! 葵も遠慮せず食べていいぞ! 無礼講だ!」
葵「ありがとうございます。でも、私は他の子の面倒も見るので、皆さんの食事が終わったら残り物だけ戴きますね」
八幡「……お、おぅ……」
手塚「八幡殿~酒じゃ! 酒が足らぬぞぉ~!」
氏治「まったく、手塚ったらもう出来上がってる。体に毒だから飲み過ぎは控えるように言っているのに……」
沼尻「おい、鈍斎。味噌汁の豆腐いるか? 俺これ嫌いなんだ」
鈍斎「な、ちょ! う、移すな汚い!」
沼尻「別に手をつけちゃいないから大丈夫だって! てか汚いとか酷いな」
氏治「こら! 沼尻! 好き嫌いなくちゃんと食べなさい!」
沼尻「うぇ、は、はい……」
八幡『三十代のおっさんが十五の少女にお説教されてるよ……』
八幡「しかしまぁ、皆思い思いに楽しんでるなぁ。主催者としてなんかやらなきゃいけないのかね……余興とか」
太兵衛「私に聞かんでくださいな。やるならご自分でどうぞ」
行方「遅れてすみません!!」
八幡「行方殿! どうなさったのです?」
行方「いやぁ、申し訳ない。つい最近子供が生まれましてね! それがもぅ可愛くて可愛くて……」
八幡「あぁ、別れるに別れられず、ついついぎりぎりまで可愛がってしまったんですね。解りますよ、子供ってかわいいですよね」
行方「そうなんですよ~さすがは八幡殿! もう可愛くて可愛くて、一刻も離れていられないぐらいでして」
八幡「それなら今日は長く引き止めるわけにはいきませんね。でも、時間の許す間はお楽しみあれ」
行方「あ、その心配は無用ですよ」
八幡「ん?」
行方「かわいさ余って連れて来たので!」
氏治「可愛い~! 行方に似てる! きっと将来は天才軍師ね!」
行方「そ、そうですかぁ? いやぁ、私も早く精進して鉄斎殿程度の実力をつけて、息子に恥ずかしくない軍師にならないといけないですね!」
氏治「行方はすでに十分優秀よ? でも精進を心がけることはいいことね。ほら、たかいたか~い!」
八幡『まじか~……連れてきちゃったかぁ……』
関「おぉ! 行方殿おめでたですな! それなら早く言ってくださればよかったものを」
沼尻「いやぁー可愛いですなぁ~!」
八幡「……」
鈍斎「……すっかり乗っ取られたな」




