其の十七 八幡廓落成式
氏治「よかったね、八幡。ここは貴方がいくらでも自由に使っていい空間よ」
八幡「そうだな。これで間借り暮らしのノリエ○ティとは呼ばれまい」
氏治「何それ? まぁでも、これなら夜ひとりでいくら歌ってもご近所迷惑には……」
八幡「それはいぅなぁぁっぁ!」
氏治『おもしろい……』
氏治「ふふっそんなに叫ばなくてもいいのに。そんなに聞かれるの嫌なの?」
八幡「生憎お前みたいに見世物にできる代物じゃないんでな」
氏治「そう? うん、言われてみればそんなに上手でもないもんね」
八幡「お前……喧嘩売ってるのか?」
氏治「え?」
八幡「……まぁいい。それよりお前来るお早すぎるだろ。用意中だ。料理も用意できてないからつまみ食いもできねぇぞ」
氏治「失礼ね! 私はそんな品の無いことしないんだから! 当主である私自ら手伝いに来てあげたんだから感謝してよね!」
八幡「お前そんな性格だったっけ?」
氏治「ん? こうすると男の人は喜ぶって……赤松が」
八幡「またあのおっさんか……」
氏治「ところで、本当にこれお昼までに用意整うの? 人少なくない?」
八幡「あぁ、野郎共を頭数に考えてたんだけどな、あんだけ人数がいて役に立つ人間が数人しかいなかった……学生時代の後輩の方がまだ役に立ったぞ……」
氏治「皆、元は農夫さんなんだから当たり前じゃない。餅は餅屋って言うでしょうに。じゃぁ、今は何人が働いているの?」
八幡「あぁ~……あんまり女中雇ってないからなぁ……葵が料理係の担当で、下町の友達と妹連れて来たから今、台所は幼女祭りだな」
氏治「また八幡は葵ちゃん酷使して! 過労で倒れたりなんかしたら怒るからね!」
八幡「いやぁ、本人が頑張るしどんどん仕事が欲しいって言うからついな……後は、普段からいる女中三人が食材の調達と掃除、会場の整理や酒の配置なんかを分担してやってるんだ」
氏治「会場は……見る感じなんとか三人で間に合っているみたいね。じゃぁ、私は葵ちゃんの方を手伝ってくるから」
八幡「そうか、すまんな」
太兵衛「八幡様、仮設の能舞台の用意も終わりました」
八幡「そうか、ちゃんと商人たちも招待したか?」
太兵衛「はい、万事抜かりなく。しかし、何故に商人まで?」
八幡「商人にはだいぶ世話になっているしな。これからも世話になる予定だからいろいろ知っておきたいんだ。酒を飲ませればどんな人間かはよくわかる」
太兵衛「なるほど。そうだ、いろいろと近隣の村からも御祝儀が来てますよ」
八幡「ほぉ、そりゃ有難いな」
―――台所―――
氏治「きゃぁ!」
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太兵衛「台所の方からですね」
八幡「どうかしたんだろうかな? ちょっと見てくるわ」




