其の十二 水事情
八幡「そういえばこの世界に来て思ったことがある」
氏治「どうしたの? 急に」
八幡「いや、戦国時代なのに風呂あるの?」
氏治「それはあるわよ。それこそ平安貴族のころからあるじゃない」
八幡「いや、お前が言ってるのは蒸し風呂な訳だろ? 浴槽のある風呂って江戸時代からじゃなかったっけ?」
氏治「お風呂って浴槽のも結構昔からあったのよ? 多くの水を必要とするからあまり普及してないらしいけど」
八幡「いや、俺も昔文献で南北朝時代には豊かな村が大規模な公共浴場を建設して有名になったって記述を見たことがあるんだけどさ、それは稀有な事だろ? それだって蒸し風呂だったわけだし」
氏治「そうねぇ、でも東大寺とかは浴槽で沸かしたお風呂が昔からあるみたいだし、室町頃には多分あっちこっちに浴槽風呂も作られてたんじゃないかな? 少なくとも自然の温泉に入る習慣は昔からあったんだし」
八幡「それもそうか……でも、やっぱ浴槽の風呂なんてどこの大名も持ってるわけじゃないんだろうな」
氏治「当たり前じゃない。多くの水と薪がいるんだもの。これは唯一の私のわがままでこだわってるところなんだから。小田領は領内に数十の河川を持ち、周囲は湿地帯ばかりというくらい水源に恵まれてるから毎日入れるのよ。資材も筑波山から流すか住職に相談すれば裏山から薪を貰ってこれるしね。これだけ条件がそろってるのは日の本広しといえどもそうそうは無いわよ」
八幡「あと、水といえばここ来てから最初の数カ月はつらかったな……」
氏治「そういえば水があってなかったみたいね。話の途中でもおなか降して厠へ行くし」
八幡「現代人にはこの程度の衛生基準があってもつらいんだよ……湧水でも腹壊すんだから……行っても解らんだろうけど」
氏治「さっぱり。一度お医者さんに診てもらったら?」
八幡「そういうんじゃないんだよ。現代文明は本当に偉大だったんだなって痛感する……慣れるまで三カ月はかかったからな」
氏治「だから最初のころ夜な夜なすすり泣いてたのね」
八幡「え……?」
氏治「え?」




