prolog
一人の子供と天使の物語の、始まり。
「…何だ、あれ?」
そう呟いて、子供は首をかしげた。
子供の見る先には、純白の綺麗な羽根を持った人間――…否、天使がいた。
子供は急いで駆け寄り、軽く天使の身体を揺さぶる。
「大丈夫?」
その声が聞こえたのか、小さく呻き声を漏らしながら、天使が薄く目を開ける。
「……………君……、は……?」
天使が何か呟いたのが聞こえると、安堵した様子でほっと息をつく。
「…良かった…。…僕は弓月。天使様だよね?名前を教えて」
自らを弓月と名乗った少年は、目の前の天使に向けて問う。
「…………私、は…エレミア。エレミア=レスクリーン」
天使が名乗ると、弓月は一笑した。
「よろしくね、エレミア様!!」
それからしばらくして、弓月が提案する。
「エレミア様、僕の家に来てよ。傷の手当てしなきゃ。」
「………ああ、ありがとう。」
そう言うと天使――…エレミアはふらつきながらも何とか立ち上がり、手を引かれながら弓月の自宅へと向かった。
「ただいま…」
弓月が、灯りを灯す。
すると、そこには。
『さっさと消えろ』
『孤児はママを探しに行け』
『この村から、出て行け』
そう、家中の壁に書き殴られていた。
エレミアはこの光景に嫌悪感を覚え、思わず顔をしかめた。
そんな彼の様子には気づかずに、弓月がのんびりと呟く。
「またやられちゃった…。消すの大変だなぁ」
「…君には、母親がいないのか?」
エレミアが問うと、弓月は変わらずのんびりとした調子でうん、と頷く。
「母親…っていうか、両親がね。僕を産んでしばらくして、強盗に殺されたんだって」
「そうか…」
しばらく、部屋が気まずい空気になる。
そんな空気を払拭したいのか、弓月が口を開いた。
「傷の手当てするから、傷見せて」「ああ………」
そう言って、エレミアが傷を見せる。その傷口からは血が溢れ出し、まだ出血が続いているが、そんな傷に顔をしかめることもなく、流れるように処置を施していく。
やがて処置が終わり、傷口に包帯を巻いて弓月が、終わったよ、と告げる。
「…ありがとう。…弓月、君にお礼がしたい」
「お礼なんて良いよ…天使様を助けたかっただけだから」
「良いから。受け取ってほしい」
そう言って、エレミアが弓月に近付き、掌を弓月の胸の前に翳すと、エレミアの掌から光が溢れ出し、弓月の身体に吸収されていく。
弓月はそれをただ驚いた表情で見つめていた。
「弓月、君に植物を成長させる能力をあげる。きっと役に立つ筈だよ」
そう言い残し、エレミアは空の彼方へと飛び去っていく。
弓月はエレミアが去っていった空をじっと見つめていた。
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感想をいただければ幸いです。
それでは、次回の更新をお待ちくださいませ。