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あおいうた  作者: 赤砂多菜
第一章 緑と青
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第02話

「おっはよー。良縁クンッ」


 校庭で真治と立ち止まっていたら、背中に柔らかい感触が張り付いた。


「ちょ、美澄先輩っ くっつきすぎ!」


 ベリッと音がしそうな感じで、良縁は力づくで女生徒を引き剥がす。


「こらー、感じ悪いぞっ。せっかく付き合ってるっていうのに」

「だから、毎回言ってるでしょ。学校ではやめて下さいってば」


 良縁は引き剥がした女生徒を見下ろす。

 身長が190オーバーある為、ほとんどの女性を見下ろす事になるが、引き剥がした女生徒はそれを差し引いても背が低い。さっき抱きついた時も下手をすると腰に胸があたりかねなかった。

 だが、身長では良縁を大幅に下回っている彼女――美澄だが、学年は良縁より上だった。

 色彩付属では男子はネクタイ、女子はリボンの色で学年の違いを分けている。

 良縁と真治は一年生を示す薄い緑ネクタイ。美澄は2年生を示すクリアブルーのリボンだった。


「そろそろ、諦めろよ、良縁。高校入学早々彼女持ちって、他の生徒からみたらうらやましい身分なんだぜ。贅沢言うなよ」

「だ、か、ら。そのせいでみんなの視線めっちゃ痛いんやけど? 美澄先輩がところかまわずくっついてくるから、俺ハブられる寸前までいってたやん」

「まぁまぁ、それは俺がとりなしたろ」


 良縁はため息をついた。


「本当、頼みますわ美澄先輩。あの時の皆の白い目がすっごいトラウマなんやけど」

「身体がでかいわりに肝が小さいわねー」

「鶴沢先輩もその辺で勘弁してあげて下さい。そろそろイジケモード入りそうなので」


 大きな身体を小さくしている良縁を見かねてか、真治がフォローに入る。


「ところで斉藤君もだけど、こんなところで立ち止まって何してたの?」

「あ、良縁が『姫』に見られてるって言ってて」

「『姫』? なんで?」


 どうやら、美澄も『姫』の事を知っているらしい。


「理由は分からんのやけど。最近、よく視線を感じるというか。美澄先輩も知ってるんですか? その『姫』って人の事」

「まぁ、中学の時に何度もやらかしてたからね」

「やらかす?」


 意味が分からず首を傾げる良縁に、彼女は『姫』が有名な理由を口にした。



*---*



「あちゃー、ほんとミスったわ」


 気付いたのは教室に戻った時だった。机とカバンに音楽の教科書と筆箱をなおそうとした時、そもそも自分が何も持っていないという事を。

 すでに昼休み、学食派の良縁は真治に食堂に誘われたが、満腹になって午後の授業が開始するまで忘れ物を忘れるという事態を恐れて、誘いを断り取りに戻る事にした。

 教科書はともかくとして、さすがに筆記用具を誰かに借りる展開は痛い。

 さっさと忘れ物を回収したいが、音楽室を含め特別教室は全て、上から見ると六角形の専用校舎にあるのでいささか遠い。

 渡り廊下を歩いて3階建ての六角校舎に入る。


「閉まってへんかったらええけど」


 先に職員室に音楽室の鍵の確認すべきだったかと思ったが後の祭り。

 音楽室は六角校舎の一階にある。

 校舎内の二階以上は吹き抜けになっており、一階は入り口を覗いた、他5面の5教室、二階以上は6教室になっている。

 さっそく、音楽室のドアが開いているかどうか確認しようと、ドアの引手に指が触れると歌が聞こえて来た。


 中で誰か歌ってはる?


 歌っているのは男子の声で、こんな印象を持つのもどうかと思ったが。


 キレイな声やな……。


 歌詞は恐らく英語。恐らくというのは内容が良く分からないからだ。

 良縁は英語の成績は悪くないが、あくまでテスト用と徹底している為、実際に洋書などは意味が頭に入ってこない。

 さらに実際の聞き取り、会話となるとまるでダメだった。

 ただ、一つのフレーズだけは受け取れた。


 大地は緑に。海は蒼に。


 一瞬、緑に覆われた島とそれを取り囲む海が見えた気がした。

 そして、ドアの引手に指をかけたままだったを忘れていた。聞く事に熱中しすぎて戸を少し開けてしまった。


 しもうたっ?!


 別に悪い事をしていた訳ではないが、良縁は自分のうかつさを呪った。

 歌は止み、代わりに。


「……そこに誰かいるのか?」


 ここで逃げるのもおかしな話だったので、観念して戸を開く。そもそも音楽室に入らねば忘れ物は回収できない。

 そこにいたのはクリアブルーのネクタイをした男子生徒が一人いるだけだった。


 二年生……、というかどこかであった?


 初めて会うはずだったが、何か既視感があった。


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