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あおいうた  作者: 赤砂多菜
第二章 白と黒
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第01話

 汗と体液の匂いが良縁をさらに興奮させていた。


「りょ……うえん、少し、やすませ、ろ」


 息もたえだえな様子で腕の中の恋人が懇願する。

 だが、見上げる青い目はねだるようにも見えて、逆に心を焦がす炎をあおった。


「お、い。このっ、体力バカ……」


 良縁の手が、つい先程果てたばかりの蒼一のものを強引に刺激する。諦めたのか蒼一が荒い息を吐きながら顔をこちらに向けてくる。半開きの唇に、良縁は貪るように舌を絡める。

 そして、何度も繰り返す反復運動の速度を速めていった。



*---*




 窓の外を白いものが舞っていた。


「あ、雪が降ってますね」

「振ってますね……じゃない」


 ベッドでうつぶせにぐったりとしていた蒼一はヨロヨロと立ち上がった。


「お前……日増しに容赦なくなってくるな」


 半眼で睨んでくる蒼一。もっともロフトの手すりに寄りかかってような状態では迫力がないが。


「だって、蒼一。多少強引なくらいが好きやろ」

「なっ」


 蒼一の顔が真っ赤になる。


「声が全然違うし。本当に嫌やったらもっと抵抗するやろ? 昨日なんか――」

「勝手に言ってろっ! 先にシャワー浴びるからな」


 良縁にそれ以上言わせず、手すりを頼りにゆっくりと階下のリビングに降りていく蒼一。

 バスルームはリビングのドアを抜けてすぐにある。

 蒼一が無事たどり着いたのを見届けてから、良縁は改めて窓の外を見た。


「積もりそうにないなぁ」


 歌声が微かに聞こえる。『オールグリーン・オールブルー』。

 蒼一がバスルームで歌っているのだ。

 ……少々、声が弱々しいが。


 やりすぎたかな?


 そう思ったが、それは今日が始めてではない。

 蒼一がこの部屋に泊まり始めてから何度も思ったが、いざ事に及ぶとブレーキがきかない。

 調子にのって出て行くと言われても困るのだが。どうしたものか。

 今は冬休み。

 寮生の多くは帰省しているが、蒼一には帰るべき家がなかった。

 名ばかりの保護者達は金を出しこそするが、それは関わりを持たないという暗黙の了解の下での事だ。

 夏休みや冬休みの場合、寮の管理者達も数日休みを取り、その間寮がしめられてしまう為、蒼一はその度にホテルに泊まっていたのだが。

 彼からその話を聞いた良縁は、自分の部屋に泊まればいいと提案したのだ。

 蒼一もあっさりのって、期末テスト明けからこの部屋に泊まっている。

 良縁に下心がなかったといえば嘘になるが、それは蒼一も承知していたはずだ。

 ……少々、彼の予想を上回っていたかもしれないが。

 どうやればセーブできるのか、考えながらバスルームからの歌声にあわせて歌っていると、携帯の呼び出し音が割って入る。

 蒼一の携帯は『オールグリーン・オールブルー』の着メロなので、この単純な呼び出し音は良縁のものだ。基本、機械ものが得意でないので余計な設定をしないのだ。

 無視をしても良かったのだが、シャワーを浴びている蒼一に不審がられても困るので、バスローブを羽織ってロフトから降りる。

 充電器に置いてある携帯を手にとりディスプレイの表示を見て眉を潜める。


 美澄先輩?


 彼女とは最後にちょっとしたいざこざこそあれ、正式に別れたはずだ。

 それ以来連絡を取り合っていない。冬休みに入る前、学校ですれちがってもそのまま挨拶も交わさず素通りしていたくらいだ。

 それがなぜ?

 しかし、考えても分かるはずもないし、やましい事はなにもないので通話ボタンを押した。


「はい、良縁です」

「俺は金石っていう者だが、海姫に連絡を取れるか?」


 なぜか、電話の相手は男の声だった。



*---*



 街はクリスマスの風景一色だった。

 まだその日までは遠いというのに。

 ただ、それに合わせたかのように淡い粉雪が降っている。


「ああ、風景はこんなにロマンチックなのに――」


 美澄はわざとらしく首を振る。


「恋人はいないわ、あんたと一緒だわ。本当にもったいない」

「人を呼び出して、連れまわしておいて随分だな、おい」


 憮然と力也は言った。

 恋人と別れたばかりで傷心の美澄を気遣ったのも確かだが、復縁を多少なりとも期待したが望みは薄そうだ。

 両手には紙袋。どちらも美澄の買い物だ。


 どう考えても荷物もち扱いだよな……。


 一応、不良のカテゴリーに入っている力也だが、ナイーブな一面くらいある。

 それでも。


 まぁ、これでこいつの気持ちが治まるならいいか。


 そう考えてしまうあたりが惚れた弱みだ。

 大通りに面したショッピングモールでウィンドウショッピングを楽しむ美澄をみて口角が微かに上がる。


 我ながら単純だよ。まったく。


 そして、ふと彼女から視線をそらした。

 特に何かを意図した訳ではない。何かを感じた訳ではない。

 それはまったくの偶然だった。

『彼』は力也の脇を通りすぎて、地下街に続く階段を下っていった。

 一瞬、それが何を意味するのか、力也は理解出来なかった。

 人違い? だが、『彼』の頬からアゴにかけて傷跡があった。

 知っている。その傷から血を流した姿をこの目で見たのだから。

 そのゴタゴタで空手部から追い出され、これ以上巻き込まれるのを恐れて寮から逃げ出したのだから。


「美澄! 海姫の相手の番号、携帯に入ってるだろ。すぐかけろっ!」

「ちょ、いきなりなに――」


 振り返って、まだ癒えていない傷に触られた事を怒鳴り返そうとした美澄だが、力也の表情を見て言葉を止める。


「どうしたのよ。そんな、真剣な顔して」

「ヤバイんだよ。『あいつ』が帰ってきてやがる」


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