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あおいうた  作者: 赤砂多菜
第一章 緑と青
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第11話

 真治は空き教室に良縁を残して廊下に出た。

 これ以上、聞く事はなかったし、その意味もない。

 もう1限目の授業開始のチャイムは鳴っている。

 遅刻になるが、まぁ、良いだろう。真治はいままで遅刻欠席はなかったが、特に皆勤を目指していた訳ではない。

 重い気持ちのまま昇降口を通りぬけようとし足を止めた。


 あれは、鶴沢先輩?


 校舎裏に消えてしまったが、見間違いではない。だが、それより問題なのは彼女一人ではなかった事だ。

 色彩付属には不良の類は珍しい存在だが、それでも学校というある程度人数があつまる場所においては大なり小なりいるものらしい。

 美澄と一緒に歩いていたのは、やたらと暴力的なオーラを醸し出して男子生徒だった。


 確か、そういった人とも付き合ってたって噂だったけど。


 真治の胸に新たな不安がひろがっていった。



*---*



 昼休み、いつものように良縁がやって来たが、何か様子が変だった。

 彼らしくないというか、いつものように『オールグリーン・オールブルー』を歌っているとなにやら、安らいだような表情を見せた。

 安らいだ? そう、彼は何か思いつめているように見えた。

 2曲目を歌い終わった後、思い切って聞いてみる事にした。

 思えば、蒼一から良縁に対し踏み込んだ事を聞くのは初めてだ。


「何か、悩み事でもあるのか?」

「………………」


 良縁はしばらく押し黙ったままだったが、蒼一が聞かなかった事してくれ、そういう前に重い口を開いた。


「悩みはあります。でもそれは蒼一先輩にいえんことですわ」

「僕には言えない事?」

「はい」

「そうか」


 真面目な表情で良縁が頷く。

 元々、誰かの相談とかに乗った事のない身だ。拒絶されれば、それ以上踏み込めなかった。


「蒼一先輩」

「ん?」

「歌ってもらえませんか? 聞いてたら気持ちの整理がつきやすいんですわ」

「なんだい、それ」


 苦笑しつつ、蒼一は歌いはじめた。



*---*



 悩みなんて言える訳ないやろ。本人の相手に。


 蒼一の歌を聞きながら、心の中で呟く。

 真治に問い詰められて気持ちを自覚した。

 でも、何も前へ進められない。


 だって、そうやろ。あのリストバンドの下。傷の跡だけ蒼一先輩は苦しんだんや。


 言えるはずもない。

 そしてリストバンドで思い出した。

 歌が終わったタイミングで話しかける。


「あ、蒼一先輩。リストバンド買いにいく件ですけど」

「そういえば明日だったね」

「念の為にジムの地図かいときますわ。先についてたら適当に見学でもしてて下さい。俺の知り合い言うたら、ジムの人も邪険にせんですから」


 そう言って、以前食事をしたファミレスからジムまでの簡単な地図を書く。


「……君の書いてるのは生徒手帳のメモ欄じゃ」

「メモするためのページって事ですやん」


 書き終わって躊躇なく生徒手帳のメモ欄を破る。

 それを受け取りながら、蒼一は良縁のあまりに躊躇のない行動が可笑しかったのか、笑っていた。つられて、良縁も笑った。


「そうやく、笑ったね」

「え?」

「今日、僕は初めて見たよ」


 そういう蒼一の目は優しげで、かつ切なげであった。



*---*



 夜10時を少し回った携帯の呼び出し音が鳴った。


 誰や、こんな時間に?


 良縁はベンチプレスの手を止めて、パワーラックのホルダーバーにバーベルをかけ、タオルを手にとりながら、リビングの充電器がおいてある場所まで歩く。


 拡張性がもうちょい欲しいというか、懸垂したらあちこち当たりおる。


 律儀に感想を頭にまとめつつ、汗で滑らないよう手をタオルで拭いて携帯を手に取る。

 ディスプレイに出ている名前は真治だった。

 かかって来るのが滅多にない上、今朝に蒼一の事を聞かれたばかりだ。

 気まずいものがあったが、無視するわけにもいかず通話ボタンを押す。


「もしもし」

「ああ、俺。真治」

「ああ、わかっとる。何かあったんか」

「あったというか、あるかも知れないというか」

「?」


 真治の言いように首を傾げる。


「なんなんやいったい?」


 汗を拭きながら問う。


「鶴沢先輩の事だけどな」

「美澄先輩?」


 今朝の真治とのやりとりが思い起こされる。

 それを向こうも感じとったのか、慌てて訂正する。


「ああ、今朝の事を蒸し返すつもりはない。……結局、お前の事だしな。ただ、丁度あの後の事だけど。俺、鶴沢先輩見たんだ」

「あの後って、もう授業始まってたやろ?」

「ああ、そうなんだ。なのに、鶴沢先輩が校舎裏の方へ、男と一緒に居てたから気になってな」

「男? 誰やそれ?」

「さぁ。二年生だけど、なんかヤバイ空気纏ってた。一年だったらその類の奴なんて知れてるから分かるけど、さすがに二年生までは把握してない」

「……俺を見限って新しい彼氏って訳じゃないんか?」

「かもしれない。ただ、鶴沢先輩って新しい男作る時は必ず、きっぱり今の付き合ってる男を振る事で知られてる。お前、まだはっきり振られたわけじゃないよな?」

「あ、ああ。……蒼一先輩の事で怒らせてもうてるけど、そのへんうやむやや」

「……鶴沢先輩って結構ヤバイ相手でも平気で付き合う人だから、昔の彼氏かも知れないけど、なんでそんな男と会ってたか分からん。

 お前の事だから、滅多な事はないと思うけど、黙っとくのはよくないと思ったから」

「心配かけて済まんな。ありがと真治。気をつけるわ」

「……今朝は悪かったな。あんな言い方して」

「気にすんな。あれでかえって自分の気持ちを自覚できたわ」

「そうか。俺からは何も言えないけど。がんばれよ」

「ああ、じゃぁな」


 携帯の通話をオフにして充電器に戻す。

 美澄の事が気にならないと言えば嘘になるが、ではどうすれば良いかと聞かれれば分からない。

 結局、何も思いつかず筋トレ用品のモニターに戻る事になった。


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