その弾に込められた意味は
001
彼女と知り合ってから約三年半
かなりの酸いも甘いも彼女と一緒に経験してきた
彼女の家に行くのも普通だし、僕が彼女の家に行くのも当たり前になっていた
そんな当たり前のような彼女と、今日居たのは安いことで有名なイタリアンのファミリーレストランだった
彼女と向かい合うように座り、僕はコーラを、彼女は紅茶をそれぞれドリンクバーから持ってきて口を湿らせていた
「で、まぁ。噂の話なんだけど、知ってる?」
彼女は僕に聞いてきた。彼女は僕の知らない話をたびたびしてくれるのでありがたい
僕は彼女の問いに静かに首を横に振った
と言うか何の話かわからないのに知ってるも何もあったもんじゃない
「自由に人が殺せる権利があったら、貴方はどうする?」
どうする、と唐突に聞かれても
「そういう権利が流通しているらしいんだよ。まぁ正確に言えば許可を得た武器があるらしいんだ」
・・・・・・理解不能だ。僕は頭をひねった
「まぁつまり、ある日唐突に誰かから拳銃が送られてくるらしいの。たった一発しか弾の入ってない拳銃が。それで誰かを撃っても一切の罪に問われない。それで人を殺したとしても、警察にこれこれこーゆーのですって話せば、逮捕されるどころか送検されることもないんだって」
「どんなシステムなのかは知らないけどね、まぁシステム的にはろくな物じゃないでしょうね。人が殺せるシステムなんて大概そんなもんだから」
「だけどこの拳銃のおもしろいところは取扱説明書が着いてくるところでね、その説明書にはこんなことが書いてあるの」
「『貴方が殺したところで何も代わりはしない』って」
「これだけ聞くと人殺し推奨みたいな感じがするじゃない? でもいざ人間って、選択を迫られると大きな決断より小さな安全策をとるらしいの、これは統計学でわかってること」
彼女は博識だ
先ほども述べたが、知らないことを当たり前のように知っている
僕よりも聡明で
僕よりも賢明で
「ちなみに今まで殺したことのある人というのは居ないという噂。噂の噂ってのもまた可笑しな話だけどね」
そう言って彼女はなくなった紅茶を注ぎにいった
僕は静かにその話を反芻する
人を殺す
それは相当な覚悟がないとできないことだ
当たり前の話だが
人を殺す覚悟というのは
人に殺される覚悟だというのはよくある話で
実際それぐらいの覚悟がないと駄目という例えだろうが
つまりは殺すと言うことは殺されるということだ
殺したい人、というのは
殺されたい人ということになるのだろう
愛と憎悪は裏表であり一心同体と言うが
本当に一緒なのは愛と殺人じゃないんだろうか
愛と殺人
何か小説のタイトルのようだ
しかし、僕の前にその拳銃が出されたらどうするのだろうか
僕は
僕という人間は
僕という他人事は
誰を殺そうとするのだろうか
あるいは――誰を殺さないのだろうか
誰を、殺したくはないのか
そんな物騒な調べを嘲笑うごとく、コーラの炭酸がパチンと弾けた
まぁ、目の当たりにしてから考えよう
そう思い僕は席を立った
002
彼女が部屋に遊びに来ている。これはまぁ普通の光景だ
何も驚くことはない
そして驚かせることもない
ない――はずだった
僕は時々あの人殺し合法化拳銃について考える
そして最終的にはある一つの結論にたどり着くのだ
ああ、くだらない。と
人が人を殺すなどと、そんなことは考えるまでもなく、くだらないことなのだと
そう結論が着いたのだ
だから、僕の目の前にあるこの小包も――正確に言えばこの小包の中の拳銃も、くだらないことなのだ
彼女はと言うと、僕の横から取扱説明書だけ引っこ抜いて熱心に読みふけっている
僕と彼女の差はそこなのだろうか
説明書を読めば、簡単なアドバイスぐらいにはなるだろう
そんな合理主義的なところが、僕は大好きだ
だから
だからこそ
だけど
だけどこそ
だとも
だとしても
意味のある行動を取らなければならないのだろうか
「ねぇ、これほんとにこういう事書いて」
カチリ
「るんだ」
バァン!
「ね」
拳銃からは煙が上がり、彼女からは血が吹いた。
ああ
ああだって
ああだってこんなにも
「僕のケーキを食べたのは君だからな」
ああだってこんなにも
人殺しは――くだらない
どうも、衣乃城太でございます。
今作は思いつきから書き始め、書き終わりまでがとても短く、待たないようもとても短い超スピーディ小説となっております。
忙しい人の為のってやつですかね。
お気軽にご意見ご感想を。貴方の言葉が私を動かす!
政治家気取りの衣乃城太でした。