火中の娘への返却
ココハ ドコナノ?
ワタシハ イマ ドコニイルノ?
ミンナ…ミンナ ドコニ イッタノ?
ワタシニハ…モウ ナニモナイノ?
カエシテヨ…
ワタシカラ ミンナヲ…
ソシテ ワタシヲ ウバッタ アナタナラ
カエセル ヨネ? モッテルンダカラ…
ウバッタンダカラ モッテイル…
ハヤク… スベテ ヲ ワタシニ―――――
―――――返して!!!
「うわぁぁぁっ!」
俺は目を覚ました。どうやら悪夢にうなされていたようだ。マッチを持ち、自身も燃えている少女が、俺を焼き殺そうとする夢…
その炎に包まれた身体からは強い殺気を感じるのだ。
「ハァ…ハァ…またこの夢だ…」
つい1週間前ほど前から俺はこの夢にうなされ始めた。
「あの」事件の直後から…
1週間前まで…俺は莫大な借金を抱えていた。
あちこちのサラ金から金を借りすぎたせいで、その総額を覚えていられないほどに…
「金…金さえあれば…」
そんなことばかり考え続けていた。
そればかりではない。毎日毎日サラ金からの催促電話が来るのだ。日々それは増していく。
俺はすっかりノイローゼになっていた。
そんな時…
「今日未明、東京都渋谷区の銀行に強盗が押し入りました―――」
何気につけたテレビでこんなニュースをやっていた。
その時だった。俺に魔が差したのは―――――
(強盗…そうか、強盗だ!何よりも金を手っ取り早く稼げる方法は!)
近所にはとある大会社の社長の大豪邸があった。
そこに忍び込み、金を奪えばいい―――――
そんなことが頭に浮かび頭から離れなくなってしまった。
なんとか俺は耐えようとした。その悪魔の思想に…
でも…でも駄目だった。
借金生活からおさらばできること。それどころか圧倒的な大金が俺の手の中に入れられること。
びた一文持っていない俺からすれば、夢どころじゃ済まない夢…
結局…俺は負けた。人の心を喰らう悪魔に―――――
そして…遂にその日はやってきてしまった。「あの」事件の日が。
忍びこむことは、恐ろしくなるほどに簡単だった。
なにせ警備員がいなかった。当然、その分見つかりにくい。
「手薄な警備だな…」
そんなことを考えていたが、真実は全く違っていた。
実は担当の警備員が、偶然その場を離れた後だったらしい。
これが…すべてを台無しにした最初の一歩だったのだろう。
建物に潜入した俺は迷いなく金庫へと向かった。
あらかじめ調べておいたので迷うことがなかったのだ。
金庫に到着した俺は、まず金庫を開けることに専念しようとした。
しかしどうだろう。なんと金庫に鍵が付いていなかったのだ。
道端に落ちている金を拾うように簡単なことだった。
「これで…これで俺は…!」
ありったけの万札を持って、俺は金庫を出た。
その時だった。
「おじちゃん…誰?」
この屋敷の娘に見つかった。たまたまトイレに起きてしまっていたらしい。
この娘こそ、俺の夢に出てくる少女なのだ…
(まずい!)
とっさに俺は、持ってきていた大量のマッチに火をつけ、その娘に…
この屋敷はほとんどが木造だった。
あっという間に炎は燃え広がる。
俺は逃げ出した。せっかく盗んだ万札を置き忘れてだ。
「ウ゛…ウ゛ワァァァ…イ゛ギャァァ…!」
逃げ出した俺に遠くから聞こえてきたのは、娘の悲痛な叫び声だけだった…
結局、火事で使用人を含み、警備員1人以外が全員死亡。
俺は、行きにたまたま防犯カメラに映っておらず、帰りも煙でカメラに映っていなかったため、逮捕はされなかった。
俺は金は失いはしたのだが、命だけは助かったのだ。
しかし…「あの」事件…その夜から毎日夢を見るたびに、俺の親族が1人ずつ死んでいっている…
事件の次の日に叔父が… 二日目に母が… 三日目に祖父が…
四日目に祖母が… 五日目に叔母が… 六日目に従兄弟が… 七日目に最後の肉親、父が…
奇怪なことに、全員原因不明の火事による焼死なのだ。
俺の親族はもういない。なのに、またこの夢を見たってことは…
フッ、とあたりが暗くなった。
(え?今は朝…しかも快晴だぞ…?)
その時、何か嫌な気配が後ろからした。
ハッ、と振り返ると…そこには…
「今日の朝、東京都大東区の住宅で原因不明の火事が発生しました。」
「この火事で、中谷譲司さん(23)が死亡、その他死傷者は出なかった模様です。」
「警察によりますと、中谷さんの遺体の横にはカタカナで、『コレデ ゼンブ カエシテ モラッタ』という文字が血で書かれていたそうです。」
「警察は、中谷さんの親族は一週間前からの連続火事事件で全員が死亡していること、および今回の血のメッセージの内容から、何者かが恨みを持って故意に放火したと見て、事件の関連性を調べています―――――」
即席で思いついた小説です。
なんかもっといいタイトルなかったのかなぁ…