表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気高き人  作者: ささみ
2/2

前のとほとんど流れは変わらないんですが、

細々変えてます!




「慣れないおめかしに、熱でも出したんじゃないですか?」


 

 思い出から意識が戻ったとき、すぐ後ろに男は立っていた。

 皮肉めいた言葉だが、言葉の端から心配が伝わってくる。

 


 男はいつもそうだ。

 冷たいのかと思えば、優しくして。

 決してシェリルを突き放したりはしない。


 シェリルがソファで寝てしまったときや、日傘も差さず庭で走り回り、熱射病になりかけて倒れたときもこの男がベッドまで運んでくれた。

 一見細そうに見えるその服の下は、実は鍛え上げられた筋肉がついていることをシェリルはそのときおぼろげに知った。

 

 もちろんそんなこの男を放っておかないのは侯爵夫人だけじゃない。

 男が侍女達や貴族の娘達までアプローチをかけられていることをシェリルは見聞きしていた。彼女たちに対してとても紳士的であることも。

 その中にはもちろんとても美しい者もたくさんいて、恋人などは仕事を理由に断ってきたらしいが、一夜の相手なら何人もいたらしいとも聞く。

 


 シェリルが結婚したあとは仕事も減るだろう。その中の誰かを、そのうちこの男は選ぶのだろうか。

 貴族の娘と結婚は無理かもしれないが、愛人ならば彼なら引く手あまただろう。




 じわりと目元が熱くなり、それを見て目に見えるほど心配そうな顔をするこの男に、なにもかも受け止めて欲しいと、はき出してしまいそうになる。 



 貴族という肩書きを背負ったシェリルには、一生口に出せない自分の気持ちを。





















 男が大きな骨張った手で熱を測ろうと額に手を伸ばしたそのとき――――――パンッという大きな音が部屋に響いた。



 

 シェリルは一瞬、何が起こったか分かっていなかった。

 



 だが、ほとんど表情を変えないグレーの瞳が大きく見開かれているのを見て、シェリルは自分が何をしたのかを自覚した。



 

 男の手を、彼女は払いのけたのだ。

 

 

 初めて会ったときから無条件に男を慕っていたシェリルにとって、それは初めての拒絶だった。




 シェリルは男以上に目を見開き、愕然として自分の手に視線を落とした。

 そして、自分の行動の意味を悟った。

 

 

 それは、抑えられない自分の気持ちの表れだったのだ。 

 本能と言ってもいいのかもしれない。

 

 




「・・・大丈夫です。あなたは仕事に戻りなさい。」

 





 そう男に告げたシェリルの顔つきは気品あふれる立派な伯爵令嬢であった。

 


 男はしばらく黙ったまま彼女を見つめていた。

 彼の目にももう驚きは見られず、むしろ穏やかでいて、それでいて激しい感情を隠しているようにも見えた。 

 だが男は急に何かを振り切るように頭を振ると目を伏せて一礼し、そのまま扉を出て行った。

 



 

 それを見届けたシェリルの頬に、一筋のしずくが伝った。

 



 

 彼女の手は、花嫁としてシルクの手袋をはめている。

 それをはずすのは、神の前であり、夫であり、リングをはめるとき。

 

 シェリルがそれをはずすわけにはいかず、手袋でぬぐうわけにもいかず、それ以上あふれだそうとするものをおさえるために彼女は天使の描かれた天井を見上げた。

 





 もし何だかんだ甘いあの男に泣きついていたら、遠い国に連れ去ってくれただろうか。

 

 

 だが結婚相手はこの国に3つしかない公爵家の御当主。

 一度お会いしたが、穏やかそうな顔立ちで鋭い目つきの方だった。

 彼はこんな小娘に振り回されるのを良しとは決してしないだろう。

 

 

 今日が結婚式なのだ。

 今更結婚式をとりやめるなど、ひどい醜聞だ。

 たとえ国を治める陛下であっても、そんな横暴なまねは許されない。

 すべてを捨てて伯爵家を出たところで、間違いなく伯爵家はお取りつぶしだろう。

 

 

 

 そんなこと、できるはずがなかった。

 



 

 だが、自分は本能からあの男が好きだったようだ。

 あの手を払いのけたことにより、シェリルは自覚してしまった。



 他人の花嫁になるために纏った装束で彼に触れられることはできなかったのだ。

 

 シェリルは誇り高いピエン伯爵家の娘だ。

 それは生きている限り変わらない。 



 その彼女が、あの男に想いを告げることは一生叶わない。 



 だが、一人の女として、あの人に対しては、他の誰の者でもない、ずっと彼を思い続けていた一人の娘のままでいたかった。

 

 

 あの手を払いのけることで、この感情を、一生持ち続ける覚悟を決めた。



 そして同時に他の人のもとに嫁ぐ覚悟を決めたのだ。

 





 それを彼は気づいただろうか。

 

 あの最後の視線は何を意味していたのだろう。

 



 





 そこまで考えて彼女はめをつぶった。


 どちらでもいいことだ。

 シェリルがあの男にこれからできるのは、ただ祈ること。

 

 もう目元の熱は冷めていた。






 



 唯一一人恋した人よ。


 側にいることは叶わないけれど



 願わくば、幸せに――――――――




 



 美しく強き少女は今度こそ自分に向かってしっかりと微笑み、白いヴェールでその顔を隠した。



  










   



 シェリル=ミンゼ=ピエン

 

 もうすぐ神の前で公爵と永遠の愛を誓う伯爵令嬢 

 

 彼女は一生で一度の恋をしている




  相手は  伯爵家の美しすぎる侍従長





 

嘘つきました。

だいぶかわってますねー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ