表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/39

先輩、ボクを選んでください  二人の告白

 大きなリュックと弓袋と矢筒、多分お土産の入った紙袋。両手に荷物を抱えて小太郎先輩は改札を抜けて来た。

 走り出したいような気持ちを抑えて、真正面に立って、

「お帰りなさい。お疲れ様でした。大活躍でしたね」

「うん。ありがとう。ごめんね、こんな遅くに」

「全然! あの、会いたかったです」


 ボクたちは駅のロータリーのバス停の椅子に腰掛けた。こんな時間にはもうバスは来ない。

 周りは街灯が少し離れた場所にあるだけで、誰もいなかった。次の電車が来るくらいまではお迎えの車も一台もいない。


 なんとなく二人とも話に詰まってしまって、変な間が空いた。

 先輩が、紙袋をゴソゴソして、中身を出した。

「呼び出しておいて大したお土産じゃないんだ。全然時間なくて、観光も出来なくて、宿と駅で買ったものなんだけど」

 南部せんべいとホタテのヒモの乾いたやつ。

「うちの祖母が故郷がそっちなので、南部せんべい喜びます」

「あとね、これ」

 それは赤いリンゴの帽子を被った黒柴のキーホルダーだった。


「初日宿に着いてすぐ宿のお土産売り場で目について」

 先輩は矢筒のケースに同じものを付けていた。

「可愛いよね。この大会を頑張れるようにずっと見守ってもらったんだ」

 そうか、お前が先輩を応援してくれたのか。だから先輩は頑張れたのか。

「僕も出来たらずっと先輩と一緒にいて、応援したかったです……」


「優生くん、去年の秋に流鏑馬の鏑矢をわざわざ届けてくれたでしょ」

「?」

「あの時の優生くんのキラキラした目が、ずっと僕を支えてくれているんだ」

「!」

「一人で頑張るのは無理な時、もうこれ以上気持ちが続かない時、あの時の優生くんを思い出すだけで頑張れる」

「……」

「優生くんの純粋な気持ちが僕をずっと応援してくれる。僕が今回、ずっと皆中出せたのも、優生くんがいたからなんだ」

「……金曜も今日も授業があってボクはちゃんとずっと見ていられなくて。ボク、ちゃんと応援したかったです」

「大丈夫だよ。気持ちが伝わって来ていたから。このキーホルダーだって、優生くんに似てると思って。優生くんに応援してもらってるつもりだったよ」

「これ、ボクですか⁉︎ 」

「可愛いよね」

「……」

 それはボクが可愛いと言うことですか?

「優生くん、この大会で納得のいく成績を残せたら、僕は優生くんに伝えたいことがあったんだ」

「はい……」


 小太郎先輩は少し息を大きく吸って、覚悟したように言った。

「優生くんが好きです。これからの人生をずっと一緒に生きていきたいです」

「……」

「昨夜フライングでチャットしちゃったけどね。こぼれちゃった、気持ちが」

「……」

 ボクは言葉をなんとか絞り出そうとしていた。

 出てくるのは涙だった。

「あ、重かったよね。僕の気持ちの話だから。優生くんが嫌だったらそう言っていいし、嫌になったらそう言っていいんだよ」

 完璧な小太郎先輩でもこんなオロオロすることあるんだ。

 

「ボク、小太郎先輩が好きです」

「ボク、小太郎先輩が大好きです」

「どうしよう、ボク、小太郎先輩が好きなんです」

 ボクの混乱はいつものことだ。ずっと言えなかった秘密をやっと口に出せた。

 小太郎先輩はあははと笑った。


「じゃあ、僕たちは『恋人同士』だね」

「え?」

「違うの?」

「そうなんですか?」

「そうだよ。覚えておいて」


 それから、小太郎先輩はボクの両肩に手を掛けて、少し顔を傾けて軽いキスをした。

 ボクはといえば、びっくりして目を見開いたままだった。小太郎先輩も目を開けていたから、ものすごく近距離で睨み合う人たち、みたいなことになった。近すぎて、ぼんやりしか見えなかったけど。


「覚えておいて、約束のキス」

 ボクは恥ずかしくなって、俯いていた。

「次回は軽く目を閉じてね」

 次回もあるのか〜。


 大きなエンジン音がして、赤いスポーツカーが現れた。

「悠人、スポーツカーで来ちゃった。送っていけないや」

「大丈夫です。すぐそこなんで」


「おやすみ、来てくれてありがとう。遅くにごめんね」

「おやすみなさい」

 と言い合って、駅で別れた。悠人さんにもおやすみを言った。

 ボクはダッシュで帰った。もう、ウッヒャァアア〜って感じで。


 小太郎先輩がボクの恋人。


 さくら先輩と紬さんにはボクから報告したい。もう夜中なんだけど……ちょっと考えて、とりあえず三人のグループチャット作った。

「報告があります。でも、遅い時間なので詳しくは明日」


 間髪を入れず、返事が来る。

「何?」「興味津々」

 どっちもスタンプだ。

「え? 寝てないですか? 大丈夫?」

 深夜一時を回ってる。さくら先輩に至っては入院中のはず。

「寝れないでしょ、そんなこと言ったら」

「こちとら病院で退屈してるんだから、早く楽しませて」


「小太郎先輩と『恋人同士』になりました」

「え? 今日の今日で? 試合終わったばっかりでしょ」

「さっき、嶺南駅で会ってきたんです」

「こんな遅い時間に?」

「やだ、優生くん、『都合のいい女』まっしぐら。あ、女じゃなかった」

 ワロタ、ウケるのスタンプ。

「我慢というものを知らないヤツだな、加賀美小太郎」

「まぁ、前から言ってたもんね。国スポ終わったらって」

「家に着くより前に、呼び出すとか」


「さくら先輩、紬さん」

 浮かれてる。ボクは。

「幸せだから、いいです」

 All OKのスタンプ

「詳しくは、また今度。小太郎先輩がお二人に伝えるより先にお伝えしたかったので」

 おやすみなさい、のスタンプ。


 小太郎先輩にも、おやすみなさいのスタンプを。

 リンゴ黒柴のストラップを握りしめて眠った。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ