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先輩、ボクを選んでください 加賀美弓道場

「学校の弓道場が使えないので、うちの弓道場を開放します」


 日曜日、顧問抜きのグループチャットに小太郎先輩からチャットが入った。

「最初だけ、使用に際しての説明があるので明日の放課後、昇降口の前で集合。明日来れないけど使いたい人は、説明を聞いた人に教えてもらって」

 え? なにそれ、スゴッ、などの驚いたスタンプ。

「人数把握したいので、明日来れる人は申し出てください。行きは学校から、病院のバスで。帰りは学校か嶺南駅で降りられます」

 病院のバスで行く人が七名。家が病院のある鴇丘市なので直接行く人が二名。ボクはまだ本調子では無く、明日、登校出来るかすらまだ分からなかった。


 そして、ボクは心に決めた事があった。

 絶対に小太郎先輩を好きな事は隠し通す。

 もうこれ以上、迷惑をかけないこと。


 小太郎先輩の、矢を射る動き。足を開いて姿勢を整えた時の左足の指の形、背を伸ばして弓を構えた時の背中の動き、弓を持ち上げて弓と矢を引き分けた時の両腕の筋肉、矢を放った瞬間両手を開いて止まる時の指の形……全部幻覚でも再現できる。

 顔を覗き込んで優しく話しかける時に少し微笑んでいたり、言葉を選んで話すような間があったり。

 優生くん、っていう時にほわっとする感じ。全部、ボクの心の中に封印する。

 ボクが女の子だったら。可愛い女の子だったら良かった。

 女の子だったら、負ぶっても軽いでしょ、いい匂いがするでしょ……ふわふわつるつるするでしょ、きっと。


 キモいって思われないように、絶対ボクの気持ちを誰にも分からないようにしよう……。

 女の子だったらよかったなぁって、ちょっとウルッとなった瞬間、個人チャットの着信音がした。


「具合どう?」

 小太郎先輩からだった。

「まだ少し熱があります。でも大分いいです」

「優生くん、無茶しないでよ。本当に」

「昨日は、お世話になりました。本当にすいませんでした。重かったですよね? 」

「重くはなかったけど、負ぶってる間背中が熱くてさ、大丈夫なのか心配した」

「移って無いですか? 風邪」

「大丈夫だよ。あ、お母様にお礼を伝えて。昨日いただいた和菓子、美味しかったです。祖父も喜んでおりましたって」

「え? 和菓子?」

「いただいたんだよ。優生くんを寝かせてから、お店を閉めて、家まで送っていただいた。その時にね」

「うちの母……うるさかったですよね?」

「楽しいお母様だったよ」

 うるさいって言えるわけないよね……後で聞いておこう、母に。

「それでね、部の皆は明日からうちの弓道場に来るんだけど、優生くんはまだ休みでしょ? 水曜日までに具合良くなったら、木曜日にうちの弓道場に来ない? 病院が木曜日はお休みだから、普段は弓道場も開けないんだけど、斎藤桃子さんと日下紬さんも来るから」

「それは、四人で会おうって事ですか?」

「そう。弓道の道具持ってきて」

「さくら先輩に会いたかったです」

「退院して、明日から登校するから。じゃあ、もし、水曜までに治らなかったら連絡して。昇降口で待ち合わせね」

「はい。治します。行きます」

「うん。待ってるね。お大事に」

 お大事にはスタンプだった。


 もともと学校は木曜日の放課後は先生方の研修とかで、部活はない。どの部活も。弓道部は一ヶ月間活動自粛だから、木曜日以外もだけど。


 夕食の時に母に話を聞いた。

「そりゃあ、お礼するわよ。大変お世話になったもの。ゆうちゃんをおんぶしてクーも連れて来てくれたのよ」

 そうだね。ボクが悪い。

「加賀美君、本当にカッコいいわよね。別にどうって事ありません、って感じで余裕だった」

 別にどうって事ありません、の部分を本人は似せてる積りなんだろうけど、似てなくてムカつく。

「和菓子おいしかったって。お祖父様も」

「よかった。急だったから、お渡しできる物がうちの和菓子しか無かったんだけど」

「うん。あ、木曜日、学校帰りに加賀美病院の弓道場に行くから、その時も持って行っていい?」

「いいよ。なんか見繕っておくね。木曜日までに風邪治しなさいよ」


 木曜日。二年生の昇降口で四人が集まった。さくら先輩は少しほっそりしたような気がする。手術大変だったのかな。

「優生くん、風邪だったんだって? なんか少し痩せたんじゃない? 元から細いのに、この子はもう……」

「さくら先輩の方がなんかスッキリしたんじゃないですか? 元から綺麗なのに、本当にもう」

 紬さんが吹き出した。

「何この子ら……、久しぶりなのに息あってんね」


 病院が休みなので、バスじゃなかった。

「木村さん、ありがとう。車出してもらって」

 いつもの病院のバスの運転手さんだった。

 ミニバンタイプの車なので、助手席と二列目を使って弓を積んだ。弓道の弓って本当に大きいって思う。


「そういえば、ショーゲン先輩、やめちゃったらしいね、学校」

 さくら先輩が言った。ドキッとした。

「一年の美少女に振られてやけになったってやつでしょ?」

「え? え? 美少女?」

 そんな話になってんの?

「そんな子いる? 知ってる? 一年生」

 ボクに話を振られた。

「ソレハボクモアッテミタイデスネー」

 四人とも笑った。


「優生くん、僕ね国民スポーツ大会(国体)の少年の部に出るよ」

「選ばれたんですか?」

 小太郎先輩はとても優しい笑顔を見せた。

「うん。だから、高校総体(インターハイ)は残念だったけど、大丈夫。来年もチャンスはあるしね」

「わぁ……よかったぁ。先輩、おめでとうございます」

「ありがとう。もう死にたいとか言わないでよ」

「言わないです。生きて、小太郎先輩の活躍見るんですから」


 


 


 

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