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……………… 涙

「じゃあ、弓道着の着方のコツの説明します」

 一年生が揃ったところで小太郎先輩が説明してくれる。初めてだ。新入部員のボクたちも一度まとめて指導はあったけど、実際に着てみるとまたわからなかったりする。

「今日はそのつもりで、袴の下にハーパン(ハーフパンツ)履いてるから」

 そう言うと、弓道着を一度脱いで、Tシャツとハーパンになった。

「まず上衣。これは甚平とか作務衣みたいに紐が付いてるから、両方の紐を結ぶ。右が下、左が上で、両方結べれば、間違っていない。紐が余るとか、足りないなら重ね方を間違っているとか、裏返しかもね」

 

 全員の目が先輩を見ている。

「帯は前で締めて回すから、よく見て。」

 小太郎先輩は少し張りのある柄の入った帯を、巻き始めを下に折り出して、くるくる胴に巻いた。それから、小さなリボンみたいにして、最初に折り出した部分を巻きつけた。

「ここで、帯を少し浮かせて右に回します。帯の結び目を背中にして、一度、上着の皺を確認。変に弛んだりしていたら、帯の下から少し引いて」


 次に袴を手にして、足を通した。

「男子の袴は馬乗り袴。ズボンの様になってます。女子のは多分スカートみたいになった行燈袴」

 少し手を止めて、小さめに付け加えた。

「行燈袴は強風でカーテンみたいになっちゃうんで、下になんだっけ? 短めのスパッツ? 見せパン? 正式名わからないけど、そういうの履く人多いらしいです。ハーパンはごろつくのでオススメしないです。トイレや袴の取り回しのコツとかは同性の先輩に聞いてください。ちなみに、階段は登りはもちろん、下りも気をつけて」


 それから、袴の前後の紐結びのお手本を見せてくれた。

 ボクを含めて一年生十人のうち八人が弓道着に慣れていない。皆、真剣に紐の縛り方とかを見ていた。

 小太郎先輩は着方を教えながら、皆の疑問に笑顔で答えたりしていた。


 小太郎先輩を囲む一年生の輪に、なぜか外れてしまったボクは少し離れてみていた。


 ……何故かわからない。


 すごく寂しくなって、その場を離れた。

 他の部員に意地悪されたんでもない、なんでもないんだから、一緒にわいわい質問したらよかったのに。なんだよ。子供か?

 特別待遇が欲しくて、我儘を言う子供?


 知らないうちに泣いていた。本当に子供だった。


 怖い。ボクがおかしい。本当にキモい、自分が。なんでこんなことになったんだろう?


 そのまま、校舎の陰でうずくまっていると、

「優生くん、大丈夫?」

 と声を掛けられた。

「ショーゲン先輩?」

「具合悪い? 大丈夫?」

 少し気恥ずかしくなって、目を擦りながら顔を上げた。

「……大丈夫です。ショーゲン先輩、なんかありましたか?」

「いや、廊下の方から、優生くんが見えたから」

「?」

「あれ? 優生くん、目が赤いね」

「擦っちゃったから……」

「アレルギー? なんだろ? この時期は」

「……わかんないです」


 気まずい空気が流れた。

「優生くんに話があったから、ちょうどよかった」

「?」

「ずっと気になっちゃって、ハッキリしないと俺、受験勉強どころじゃなくって」

「?」

「付き合ってくれないかな? まずは友達として。でも、友達以上の特別な関係として」

「え?」

「俺もさ、男同士だしよくわからなくって。でも優生くんの事、好きなんだ」

 特別……友達以上……。

「だから、まずは友達から。今俺受験生だからそんなに派手に動けないけど、二人で一緒に遊園地に行ったり、二人で一緒にご飯食べたり、話をしたりするそんな関係から……どうかな?」


 そうか、それが好きって事なのか……。友達以上の特別な……。


「……ボク、好きな人います。ごめんなさい。ごめんなさい。そんな風に言ってもらったのに……」

「いや、ちょっと、泣かないで、優生くん……。優生くんを泣かせたくはないんだよ」

 ボクは自分の気持ちに気が付いて、それで泣いてしまったんだけど、ショーゲン先輩はボクをびっくりさせたと思ってしばらく付き合ってくれた。

「俺がいると余計辛いのかな? ごめんね」

 そう言って帰って行った。悪い人ではないんだけど、ごめんなさい。


 ボクは小太郎先輩の事が好きらしい。友達以上の特別になりたいらしい。部活でも、先輩を独り占めしたいらしい。

 どうしよう……。小太郎先輩はそんな風に思われたら気持ち悪かったりしないかな? 何か間違ってるんじゃないかな? ボクはおかしいんじゃないかな……。


 この日が金曜だった。土曜日は部活が午前中だけあったけど、ボクは熱を出して休んだ。土曜日朝に休むことを伝えると、部活動のグループチャットに部活の皆から次々と「大丈夫?」「お大事に」「早く治りますように」って書き込まれた。スタンプ一個でまとめて返信させてもらった。

 午前中ずっとベットにいた。黒豆柴の黒影号(クー)が何度か様子を見に来た。

「クー、ごめん、夕方になったら散歩に行こう」

 熱は少し下がり、夕方くらいにはなんとかなりそうな気がしてきた。お昼ご飯もお粥を食べて、風邪薬を飲んだ。もう一度寝たら、もう治ってそうな気がする。


 もう一度寝て、夕方近くに起きたら、グループチャットに大変な事が起きていた。


 

 

 

 

 

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