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プラモ大戦争

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 うわー、懐かしいなこのプラモたち。昔のアニメだか、特撮のやつだったっけ?

 こういう子供向けってさ、大人になった今だからこそ、かえって魅力が分かるところがあったりしない? いかに大人の世界で得難いもの、あってほしいもの、でも実際はそうもいかないところが見え隠れしてさ……うまい作品ほど「ああ、大人が子供に向けて作ったんだ」と分かる。

 それが子供自身にどれだけ伝わっているか、も大事だけどね。こーちゃんも、ものを作っている人間なら、経験があるんじゃないか? 自分が「ウケる」と意図して作った部分よりも、意図していない部分のほうがウケてしまって、ちょっと頭を抱えてしまうというのは。

 何が相手の気を惹くのか、たとえリサーチしていても読めないことがある。

 見えていない好みや気性のためか、あるいは偶然のことであったのか。はたまた一過性の「熱」によるものであったのか……原因の分からぬ身としては、想像するよりないな。

 ……そうそう、プラモデルといえば昔にちょっと不思議な出来事があったのを思い出したよ。こーちゃん好みの話だと思うし、聞いてみないかい?


 僕たちの地元では、小さいころにこのようなプラモたちが格安で売られている場所があった。

 以前、駄菓子屋をしていた老夫婦の家があったのだけど、それをまるまる買い取った人がいてね。お菓子を売るコーナーはそこそこに残し、プラモデルを売り始めたんだ。

 一から組みたてる箱もののほか、すでに出来上がったものをフィギュア感覚で置いているところもある。当時、人気のあった番組のロボということもあって、売れ行きは上々だった。

 僕個人は、プラモに関してさほど興味がなかった勢。昔に母親がそれらのおもちゃを買ってきてくれたこともあったけれど、それよりも本やテレビを見ていることのほうが多かった。

 母親なりに、これくらいの歳の子はロボ系に興味を示すだろうと、先んじての作戦だったのだろう。自分の好みとはいえ、相手が骨を折ってまで期待してくれたものにこたえられないというのは、振り返るとちょっと申し訳ない気もする。

 しかし、親から与えられるもの以上に、周囲の同調圧力というのはバカにならず。くだんのプラモ屋さんができてから、ほどなく教室で巻き起こる「プラモ大戦争」に巻き込まれて、僕もまた財布の口を緩めざるを得ない状況に陥ってしまったんだ。


 プラモ大戦争。

 それは学校の休み時間を使って行われる、プラモとプラモの力の競い合いである。

 そう聞けば、みんなが手に手にプラモをもって、原作の必殺技みたいなものがあればそれを再現して、ぶつけ合うくらいのイメージをするところだろうか。

 しかし、こちらの場合はもうちょっと過激だ。投擲し合って、空中でぶつけ合うというものだ。

 僕はくだんのロボに詳しくないが、そういう体当たり系を主体にするものだとはかろうじて知っていた。けれども、それを手で持って行うならまだしも、コントロール定まりづらい投げ合いに託すというのは、いささか異常な事態だった。

 キャッチボールみたいに、互いの投げたものを受け取ってしまうこともあるが、ぶつけ合うことのほうがメイン。彼らは派手に激突し、部品をまき散らせることもしばしばだ。

 組み立てた苦労を、一瞬で粉々にしてしまう所業。それがなぜかクラスのみんなで男女ともに大流行りして、掃除のときなどは回収しきれないプラモ部品たちが、ほこりに混じって散っていることもあった。

 休み時間中は、ほぼみんながこれに参加し、手持ちがなくなったという理由以外で参戦しないのは、なんとも肩身が狭いものだったんだよ。


 例のプラモ屋さんのお兄さんの価格破壊ぶりは、これを見越していたのかとも思った。

 ほんとう、お菓子さながらの値段でプラモが販売され、在庫もたんまりある様子。少なくとも友達と押しかけて、三つ四つ買ったくらいじゃビクともしなかった。

 そうして僕はプラモ大戦争に参加し、日々を過ごすようになったんだ。やると決めちゃった以上は覚悟を決める。

 みんなが求めるのは非常にシンプルで、絶対無敗の最強プラモの座だ。いかなるプラモを破壊しても屈することのない、強きプラモを持つこと。育成ゲームの派生的なものと思ってもらうといいかもしれない。

 しかし、ぶつけるたびにダメージ重なるプラモで、そんなことは難しすぎると僕は思っていた。数回ぶつかっただけで、無傷であったころのパフォーマンスなど発揮できようはずがない、と。そこから次々新手を持ち出されては、土をつけられるのも時間の問題だと。

 ましてや、興味の薄い僕がたまたま小銭入れから取り出す、有象無象レベルのプラモが立てる戦場なわけない……と思っていた。


 その予想に反し、僕の買ったプラモは連勝を重ねた。

 ぶつけ合えば、必ず相手を四散させる圧倒的な破壊力。それでいてこちらは、わずかに外装に傷がつくか? といった頑健ぶり。

 そのときの昼休みだけで、僕のプラモはクラス全員の。それも複数持ちの子たちがいくらも混じっていたのをすべて打ち破り、一日にして頂点に立ったんだ。


「あの兄さんに、伝えに行こう」


 誰かがそういい、放課後に例のプラモ店へ行くことに。

 絶対の強者が現れたなら、お兄さんへしらせにいかねばならないのだとか。ただ流れで参加していた僕は、あずかり知らないことだったよ。

 お兄さんは強いプラモを探しているようで、もし最強のものが見つかったら教えてほしい、とのことだった。

 で、いざ店について、僕のプラモを吟味し出した兄さんは出し抜けに、店頭へ並んでいるプラモたちと「大戦争」して性能を確かめる。

 そのことごとくを打ち破った僕のプラモを調べたところ、腕の関節の一部からどろどろに溶けた金属片が見つかったんだ。


 それは飴のようにねじ曲がった1円玉だったんだ。

 僕がプラモを小銭入れに入れていたから、関節に挟まることはなくもないだろうが……こうも熱したように溶けて、もぐってしまうことなどあるだろうか?


「なるほど……そういうことか! 気づかなかったよ」


 お兄さんは満面の笑みを浮かべ、得心が言ったようだったけれど、僕たちには何のことだか分からない。

 お兄さんは大サービスとばかりに、僕たちに好きなプラモを選ぶようにいい、そのままタダで譲ってくれたが、それがこのプラモ店の最後の営業日となった。

 翌日以降はシャッターを閉めてしまい、そこが開くことはもうなかったんだよ。お店も、じきに取り壊されてしまった。


 お兄さんはいまどこにいるのか。もし生きているなら、今回で得た大戦争の知識をもとにどこかで戦っているのだろうかね。

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