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08 放課後の出来事


「ねぇー柊子(とうこ)……ごめんってばぁ」


「もぉー柊子ちゃんを黙らせるとかぁ、冴姫(さき)ちゃんやりすぎなんだけどぉ」


「はぁ? なに、あたしだけ? 颯花(そよか)だって同調してたじゃない」


「言い出したのは冴姫ちゃんの方からで、妹は合わせちゃうよねぇ」


「うわ、こういう時だけ妹を利用するのズルいんだけど」


 放課後。

 教室で考え込んでいると、気付けば冴姫と颯花が私の席に集まっていた。


「どうしたの、二人とも」


「あ、柊子。なんか昼の時のこと考えてそうだったから気になって」


「気を悪くさせたらごめんねぇ、柊子ちゃんを否定したかったわけじゃないんだけど。でも分かって欲しくて言っただけなんだよぉ」


 どうやらお昼の件で私が考え込んでいるのを察してしまったらしい。

 “双美(ふたみ)姉妹は白羽柊子(しらはねとうこ)以外と仲良くするつもりはない”という件についてだ。

 身に余る光栄に全身が震えそう……というのは一旦置いといて、だね。


「いや、私は嬉しいんだよ。二人にそこまで言ってもらえて」


「柊子……」「柊子ちゃん……」


 安堵したような表情を浮かべる双美姉妹。

 うん、だってこの姉妹に求めてもらえてるのに、文句とかありえないよねっ。

 そんな贅沢は言わないんだけどさっ。


「ただ、私は冴姫と颯花の心配をしてるだけ」


 彼女達の考えを尊重していく姿勢は大事だ。

 ずっと二人でその考えで生きてきて、この学院ではそれを大勢から否定され、壊れてしまいそうになったのだから。

 今はかろうじて繋ぎ止めているその傷を、私の手で壊すわけにはいかない。


「何でよ、柊子がいれば問題ないじゃない」


「そうだよ、柊子ちゃんがいれば心配なしだよ」


 全幅の信頼がすごいじゃん……。

 こんなにも私を受け入れてくれている事実に興奮すら覚えそう……という危険思想も置いといて、だね。


「でもクラスと上手く馴染めた方が、もっと楽しい学院生活を送れると思うしさ」


 双美姉妹の考えを尊重した上で、新しい価値観も提示していかないといけない。

 二人には健やかな学院生活を送ってもらう事が私の望みだ。


「柊子といれば楽しいんだけど」


「柊子ちゃんがいればこれ以上はないよねぇ」


「……」


 うん、じゃあ、いっか!


 ……いやいやいや。

 落ち着け落ち着け。

 浮かれるな浮かれるな浮かれるな。

 私といる事の楽しさと、皆との調和は別問題だ。


「はい、それじゃこれね」


 そうこうしている内に、冴姫に松葉杖を手渡される。


「はい、こっちはわたしが持つねぇ」


 颯花が私のカバンを持ってくれた。


「……えっと、帰りも一緒?」


 この一連の流れを見て、一応だが確認させてもらった。


「「当然 でしょ・だよねぇ」」


 何をいまさらと言わんばかりの剣幕。

 うーん、もしかして百合ゲーの主人公って私ではないか?

 と勘違いしてしまいそうになった。




        ◇◇◇




 帰り道は、繁華街を通り越していくのだけど。


「……ふぅ」


 ちょうど中心部に着いた当たりで、私は大きく息を吐いていた。

 いくら足の骨がくっついても、傷はすぐには癒えないもので。

 歩く時間が長ければ長いほど、じわじわと痛みが襲ってくる。

 別にそれ自体では泣き叫ぶほどのものではないし、我慢できる範囲なのだけれど。

 病院やリハビリ室のような安全で平坦な道だけを歩いて行くのと、傾斜の多い屋外を歩くのでは足への負担が全く違う。

 久々の学校の疲れも相まって、帰り道は思っていたよりも一苦労だった。


「大丈夫、柊子?」


「汗、すごいよ?」


 すると冴姫と颯花が不安そうに私の顔色を覗き込んでくる。

 

「あはは、大丈夫大丈夫、これもリハビリだって」


 まぁそもそも、病み上がりでいきなりこんな屋外をずっと歩く必要もなかった。

 いくら先生の許可が下りているからと言っても、物事には段階というものがある。

 早く治そうと思って、いきなり元通りの生活と同じレベルの運動量をこなそうとするのが間違っていた。


「本当、それ。遠慮はしないでよ」


「してないしてない」


「でも、さすがにちょっと休んだ方がいいと思うよ? このままだと家に着く前に倒れちゃいそうだよぉ」


「……あー、そうだね」


 倒れる事はさすがにないと思うんだけど。

 とは言え放課後だし、私は一人暮らしなので門限もない。

 登校と違って急ぐ理由もないのだし、休憩くらいならしてもいいかな。


「あ、ほら、あそこ。カフェがあるわよ」


「あ、いいねぇ。そこで休もー」


「……」


 少し奥に大手チェーン店のカフェが見えた。

 双美姉妹とカフェ。

 今更だがモブの私には分不相応なイベント。

 こんなの原作でも見れないイベントなだけに、ちょっと心が弾んでしまう。


「なにぼーっとしてるのよ柊子」


「もしかしてぇ、嫌だった?」


 すると、私の沈黙を否定的に受け取ったのか、冴姫と颯花が私の顔を心配そうに覗いてくる。

 額に汗を浮かばせている私に、端正な顔立ちが急接近してくるのは非常に心苦しいのでやめて欲しいのだけど。

 彼女達はそんな事を気にする素振りは一切ない。

 天使かよ。


「いや、逆だよ。こういうお店に冴姫と颯花と行けるの嬉しいなって」


「「……」」


 今度は姉妹が顔を見合わせる。

 端正な顔立ち同士、眼福な事だろう。

 どうせ見るのなら、そうやって綺麗なものを見といた方がずっと健全だ。

 それを見ている私も目の保養になるし。


「もう柊子の正直者っ」


「そういう事言われちゃうと嬉しくなっちゃうよねぇ」


「わ、わわっ」


 なぜか冴姫と颯花に一本ずつ松葉杖を奪われると、その両肩を双美姉妹が貸してくれる。

 両手に花状態になってしまった。


「ちょ、ちょっと二人とも、私汗かいてるんだから、くっつくのはやめた方がいいとと思うよっ」


「そんな事、どーでもいいのよ」


「そうそう、それよりも柊子ちゃんと一緒にチルする方が大事だよねぇ」


 体が浮遊していく。

 いや、比喩とかじゃないからねっ。

 双美姉妹との放課後カフェに舞い上がりすぎてるとかじゃなくて。(舞い上がってはいるんだけど)

 二人が本当に私の体を押し上げて進んで行ってくれているのだ。

 これ以上負担を掛けないようにと、気遣ってくれていた。


「あ、歩けるから、私歩けるって」


「そーいう事は松葉杖が取れてから聞く事にするわ」


「そーそー、大変そうな柊子ちゃんを見過ごすなんて出来るわけないからねぇ」


 放課後まで充実してしまうモブの生活……。

 いいのだろうか、私、だいぶハッピーだぞ。


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