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60 冴姫と語る


「それじゃ、この辺で休みましょうか」


 中心街を少し離れた公園のベンチを見つけて、冴姫(さき)と私は小休止をする事にした。

 私にとっては普段慣れない環境での買い物ではあったので、気疲れ的な要素も大きかったのかもしれない。

 それを見抜かれていたのか、冴姫の方から声を掛けてくれたのだった。

 冴姫の小脇には先程の店舗で購入したショッパーが置かれている。


「いやぁ、気温も高くなってきたし暑さに参っちゃうね」


 公園には木々が据えられ、ちょうど木陰になっていたから幾分かは涼しくなったけども、道中の日差しの強さは中々に強かった。

 パタパタと手で自身を煽いでみるけど、あまり涼しくはなりそうもない。


「確かに今日は暑いわね……それなら柊子(とうこ)、何か飲み物はいる?」


 すると冴姫は公園の奥に設置されている自動販売機を発見する。

 ちょうどいいタイミングではあったんだけど。


「あ、飲み物は欲しいけど自分で買うからいいよ」


「いいわよ、疲れてるんだったらあたしが買ってきてあげるから」


「いやいや、それじゃ一緒に行こうよ」


「まぁ……いいけど」


 このままだと本当に冴姫のお世話になっちゃいそうだったので、一緒に買いに行く事に。

 結局すぐに立ってしまう事に少しだけベンチに名残惜しさを覚えつつも、冴姫におんぶに抱っこになってしまう状況を天秤に掛けて自分を奮い立たせる。

 はい、自動販売機でジュース買うだけなのに大袈裟ですよね、ごめんなさい。


 自動販売機に冴姫が小銭を投入する。


「柊子は何飲むの?」


「え……私はサイダーにしようかな」


「分かったわ」


「え」


 点灯しているボタンはサイダーを示していた。

 ガタンッと缶ジュースが取り出し口に落ちてくると、冴姫がそのまま拾い上げる。


「はい」


「じ、自分で買うからいいのに」


「いいわよ、買い物に付き合ってもらったお礼」


「……今日は私が誘ったはずなんですが」


 それで奢ってもらうなんて、どういう状況なんでしょうかこれは。


「もう買っちゃったから遅いわよ」


「あ、じゃあ私が冴姫の分を買えば……」


 ――ガタンッ


 と、そんな事を言っている間に冴姫は自分の分も購入してしまっているのだった。

 私がこういう反応をする事を見透かしていたのか、動きに無駄がなかった。


「はい、あたしのも買ったからもういいわ」


「……申し訳ないなぁ。ありがとね」


 きっとこのままお金を渡そうとしても受け取ろうとはしてくれないのは分かっていたので、私はそのまま頭を下げた。

 冴姫の手にはミネラルウォーターのペットボトルが握られている。

 ……何だか、色々な意味で敗北感を勝手に感じていた。


「ふぅ」


 再びベンチに座り、サイダーで喉を潤すと炭酸の刺激と清涼感、そして甘みが体に浸透していくようだった。

 大変美味しいです。


 さて、そろそろタイミングとしては頃合いなんかじゃないかとも思う。

 こうして冴姫と二人でまったりするのも心地よいけれども、やはり目的である颯花(そよか)との関係性の事は避けては通れない。

 私の服の好みは教える事は出来たので、冴姫の話も聞かせて欲しい所だ。


「あたしは颯花に譲るつもりはないわよ」


「……え」


 と思っていたら、先に口を開いたのは冴姫の方だった。

 さっきから先手を打たれ過ぎてしまっていて、ずっと後追いなんだけど大丈夫なんでしょうか私……。


「柊子はその理由を知りたいみたいだけど、それもすっごい単純で前々から言ってるでしょ? あたしは柊子の隣にいるからって、それは颯花であっても例外じゃないっってこと」


「……そ、そこまでの覚悟は要らないんじゃないのかな?」


 何も颯花との関係性を壊してまで、私の隣にいる必要はないというか。

 というかそこまでしなくても私の隣になんてすぐ並べますよと言いたい所なんだけど……。


「そもそも今まで通りの三人なら一緒に横並びになれると思うんだけど……」


 そう、何も颯花を出し抜く必要はない。

 今まで通りに三人で一緒にいれば円満解決だと思うんだけど、それじゃ何か問題でもあるのだろうか?


「逆に聞きたいんだけど柊子って、あたしと颯花だと、どっちの方が好きなの?」


「……なんですと」


 恐ろしすぎる問いが投げかけられた。

 そんな二択は有り得ないと言いますのに。


「柊子初めて会った時に言ったわよね、“冴姫と颯花が好きだからに決まってるじゃん”って」


「あ、はい、言いましたけども……」


 勢い任せでそんな事も言いましたね。

 本心ではあるからいいんだけど、改めて本人から言われると照れくさいもので……。


「あたしにとって“好き”って優劣がつくものだって思うのよ。だから、柊子の好きはどっちの方に傾いてるのかなって」


「も、もちろん、お二人とも同じ比重ですとも……」


「そうなの? だとすると不思議なのよね、あたしの好きと柊子の好きって意味が違うんじゃないかなって」


「え……いや……ど、どうなんだろうね」


 そこまで深堀りされると、確かに言葉のニュアンスの違いというのあるのかもしれないけど……。


「そのサイダー、もらってもいい?」


「え、あ、はい、どうぞ」


 私が持っていたサイダーを指され、すかさず冴姫に手渡す。

 さっきから会話の主導権を握られ、その展開も急すぎて追いかけるのがやっとの状態になってしまっていた。


「ありがとう」


「……ど、どういたしまして」


 そうして、冴姫は私のサイダーに口をつけて喉を潤すと、そのまま返してくれた。

 何となく飲み口を見てしまう私は変態でしょうか。

 ……普通、だよね?


「あたしね、他人の事に興味もないし、興味もないから同じ物をシェアしたりとかするのも嫌なのよ」


「……え、そ、そうなんですね」


 その言葉に引っかかり覚えてしまう私の反応はきっと自然だと思う。

 冴姫はそのままこちらを見据えた後、サイダーをもう一度指差した。


「でも、柊子の事は知りたいと思うし、同じ物を飲んでも気にならないわ。それを、あたしだけが知っていく事に意味があるの。これがあたしの好きの形って事なんでしょうね」


 だから譲る気はないと、言外にそう語る冴姫の思い。

 それを知って尚、颯花との関係性を望むのは私の一方的な押し付けなんじゃないかと思ってしまって……。

 というか、思った以上に熱いメッセージにのぼせそうになってしまうと言うか、反応出来なくなってしまったと言うか……。


 そこからの私はしどろもどろになって、その場をやり過ごす事しか出来なかった。




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