56 冴姫の様子を覗いてみる
ま、まずいぞ……。
冴姫と颯花の姉妹喧嘩が起きてしまった。
それもこれも元はと言えば、私の不出来な脳みそが悪いんだ。
私が最初から勉強ばっちりの秀才だったなら、姉妹喧嘩の要因を作る事なんてなかったのに。
「こ、こうなったら私から仲直りしてもらうよう動き出さないと……」
些細な喧嘩も、時間が経てば水に流せてしまう事も往々にしてあるとは思うけど。
今回の件に関しては私のテストが中心にあるから、私の問題が解決しない限り泥沼化する可能性もある。
善は急げ、私は休み時間が訪れると同時に双美姉妹の席へと足を運ぶ……が。
「あれ、颯花はいないの?」
双美姉妹は前後で席を共にしている。
しかし、そこに颯花の姿がなかったのだ。
当然ながら二人はいつも一緒のはずなのに。
「知らないわよ、いないんだからいないんでしょ」
「……そ、そうなんだ」
ツンツンとした返事を返してくる冴姫。
机に頬杖をついて、分かりやすくご機嫌ななめといった様子だった。
今は冴姫の様子を伺う事にしよう。
「それで柊子は何の用?」
「ふ、二人とも仲良くして欲しいなー……なんて思ったりして」
「別に、あたしと颯花の仲は変わらないわよ。ちょっと言い合うくらい姉妹でもあるでしょ」
この状況で“はい、そうですか”と答えられるほど私は楽観的じゃないんだよねぇ……。
「ほ、ほら、元々は私のお勉強が原因なのであって、冴姫も颯花の思いやりは痛いほど感じてるからさ? だから責められるべきは私の方で、お二人には仲良くして欲しいなとか思ったりするんだけど……」
「柊子の勉強をあたしに任せてくれるなら、颯花とだっていつも通りにになると思うけど」
そ、そう来ますか……。
その選択肢は果たして選んでもいいのだろうか。
余計な争いを生む火種にしかならないように思えて仕方ない。
「そ、そう言わずにさ……」
「そう言わずにって、選ぶのは柊子なのよ」
「あ、そ、そうなんだけど……」
でも私に選ぶ気はなくて、“どうにかして双美姉妹を仲直りさせて勉強も二人から教わるつもりですよ”。
とか今言ったら絶対に怒られるんだろうな……。
「でもさ、今まで二人で一緒にやって来たのにどうして今回は一人なの? どっちかを絶対選ばなきゃいけないの珍しいよね」
そう、今までも冴姫と颯花が自己主張をする事はあっても、二人同時を拒まれる事はなかった。
それは双美姉妹が共にいる在り方を当然としていたからだと思う。
それなのに、今回ばかりはそれを良しとしてくれない。
その差が何なのか、不思議だった。
「何って……それは……えっと」
冴姫の視線がこちらを向いたかと思えば右往左往をして、最終的にはそっぽを向く。
「そんなの柊子が一番分かるべきだと思うんだけどっ」
「な、なんですと……」
私の疑問がそのまま返ってきてしまっていた。
しかし、その理由が考えてもさっぱり分からないのですが……。
「なんで、“分かりません”みたいな顔してるのよ」
「いや、すみません。分からなくて……」
「全くもう」
憤慨した冴姫は腕を組んで溜め息を吐く。
私の察しの悪さに呆れちゃっている様子。
これ以上、私が原因で機嫌を損ねてどうするんだ……。
「とにかくあたしは譲る気ないから、柊子は自分の答えをはっきりとさせる事ね」
冴姫は意見を曲げる気はないようだけど……。
だけど、冴姫の気持ちを分からないままにして答えを出せるはずもない。
そもそも、この環境もあまり良くないのかもしれない。
学院という大人数で過ごす空間で、プライベートな気持ちを聞き出すのは難しい。
雰囲気というのはとても大事なはずだ。
そうなったら……。
「そ、そうしたらさ。テスト勉強の前にちょっと遊びに行くのなんてどうかな?」
「……遊び?」
「そうそう、遊び。少しだけ休んで、そこから頑張りたいなって」
という理由をこじ付けにして、そこから冴姫の本心を聞き出そう。
そこから颯花との仲を繋げれば万々歳。
そんな計画を企てる。
「ま、まぁ……確かにメリハリは大事よね。ここ最近、忙しかったのも事実だし……」
なんてブツブツとつぶやく冴姫。
どうやらこれは好感触の気配。
「たまにはいいよね。何か冴姫がやりたい事はある?」
「……そ、そうね。柊子と休日に遊んだ事とかないし、考えておくわ」
よ、よし……。
こういう時はとにかくコミュニケーションが大事だ。
冴姫とプライベートな時間を過ごす事で、分かる事はきっとたくさんあるはずだ。
「もちろん、柊子とあたしとでよ。二人だからね二人っ」
「あ、うん……」
明確な言葉にはしていないけど“颯花は誘わないで”という意味の釘を差される。
あくまで今回は“二人で”というのがキーワードらしい。
そこに至る理由を見つけられるといいのだけど……。
「じゃ、じゃあさっそく次の土曜日にという事でいいかな?」
「ええ、それでいいわ」
こうして冴姫と二人で遊びに行く事になった。