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双子姉妹の悪役令嬢を闇落ちから救うためにモブが奮闘した結果、二人から溺愛されてしまいました。  作者: 白藍まこと
第2章 -三大派閥-

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54 姉妹の価値観


「あ、おかえりー柊子(とうこ)ちゃん、冴姫(さき)ちゃん」


 颯花(そよか)がいたのは私達の教室。

 学院祭の全日程を終えて、日が暮れようとしているこの場所に人影はなかった。


「いいわね、ここだと人の事を気にしなくて済みそうで」


「そうだねぇ、人がたくさんいる所にずっといたからちょっと疲れちゃったよねぇ」


 そうして冴姫と颯花は窓際の席に座る。

 私はその姿を少し遠巻きで見ながら、思う。


「えっと、二人とも後夜祭は?」


 一応、学院祭の後には校庭に集まって花火を眺めるというイベントがある。

 原作的にはそこで逢沢(あいざわ)さんとヒロインの仲が深まるわけですが……。

 果たして今回のお三方はどうなったのかも少しばかり気になる所ではあったのだけど。


「ここでいいでしょ」「ここでいいよねぇ」


「……なるほど」


 先程の会話でも分かる通り、双美(ふたみ)姉妹は皆さんの輪の中にいるのを極力避けたいようだ。


「何よ、柊子はあの集団の中に入りたいわけ?」


「わたし達より、集団がお望みってことかなぁ?」


「ああ……いや、そういうわけじゃないんだけどね。ただ、私が思っていた学院祭とは違ったなぁと思ってさ」


 クラスメイトとの仲を深める学院祭というより、こちらの立場を強固にした学院祭という形になった。

 結果として乙葉(おとわ)さんや星奈(ほしな)さんも認めてくれたから、ある意味でこれも平和な解決案である事も間違いないのだけれど。


「柊子の思う学院祭って何よ」


「柊子ちゃんは模擬店も演劇も頑張って、十分楽しんだと思うけどねぇ?」


「その……私の事よりも、冴姫と颯花がさ。もうちょっと皆と仲良しになるのかなぁとか思ってたり」


 いや、それでも以前に比べれば険悪な関係性が改善されたのは間違いなくて。

 こうして同じ目標に向かって取り組む事が出来たんだから、溝が埋まりつつあるのは事実だとは思うんだけど。

 その目標がなくなれば、また離れてしまう距離感というのも何だか絶妙だななんて思っていたりする。


「皆と仲良しこよしがしたいわけ?」


「それも私じゃなくて、冴姫と颯花がそうなるのかなと思ってたんだけど」


「わたしは、わたし達で仲良しであればそれでいいと思うけどなぁ?」


「……そ、そうなんだよね」


 元々、この二人はそういった考えの持ち主なんだ。 

 こうして学院生活を楽しめるようになっただけで十分で、それ以上の物を望むのは私の勝手なエゴだったのかもしれない。


「柊子があたし達の事を考えてくれるのは嬉しいけど、これ以上は必要ないのよ」


「そう……なの?」


「柊子ちゃんがいてくれたらわたし達は満足だからねぇ。後の事はお任せって感じ」


「それで……本当にいいんだ」


 それは何度か言ってくれていた事だけど。

 私はそれでも“険悪な関係性に辟易していて、仲直りを諦めている”と捉えていた。

 けれど、そうじゃなくて。

 冴姫と颯花にとっては、本当に私がいればそれで満足なんだ。

 周囲の人をないがしろにしているわけでもなく、それで満ち足りるのだからこれ以上を求める必要はない。

 それが彼女達の価値観だった。


「まぁ、ってわけだから座りなさいよ」


「ああ……はい」


 冴姫が椅子を寄せる。

 いつもの二人の真ん中のポジションだった。


「冴姫ちゃんの午後の演劇は脚本通りだったのかなぁ?」


「そういう颯花の模擬店はどうだったのよ、また何か変な事してたんじゃないでしょうね?」


 話題は午後の出し物について。

 お互いに権勢しあう会話に私はハラハラ感を覚える。


「ど、どっちも何もなかったよ。平和、平和そのもの」


 私はすかさずフォローする。


「学院祭の柊子は、自分から変な事してたから怪しいのよね」


「柊子ちゃん、いつになく積極的だったよねぇ?」


 ううっ……二人に挟まれながら視線の集中砲火を浴びる。

 私としては不可抗力のつもりだったのだけど。

 冴姫と颯花の間でバランスを保つのが段々と難しくなっているのを感じた。


「でもほら、今はこうして三人でいるんだから不平等は起こりえないよねっ」


「まぁ、それはそうなんだけど……」


「かと言って、このまま何もしないってのも違うと思うんだよねぇ」


 あ、あれ……?

 この回答では不十分なのか、双美姉妹は言葉を濁しながらも視線の集中砲火が止む気配はない。

 何かするのをダメと言われたはずなのに、何もしないというのも違うと言う。

 む、難しい……。


「後夜祭だし、黙って三人で見るのも何か物足りないわよね」


「色々あった学院祭が、このまま終わっちゃうのも寂しいよねぇ」


「ええ……?」


 試されている。

 なぜかは分からないけど、私は試されている。

 とは言え、今回の学院祭をリードしてくれたのはこの二人だ。

 振り返ってみれば、模擬店も演劇も双美姉妹が敷いてくれたレールの上を私はがむしゃらに走っていた。

 それをに報いるのは当然なのかもしれない。

 けれど、この場この瞬間に出来る事って何かあるかな……?

 

「それじゃ……二人とも、お手を借りても?」


「いいけど」


「どうぞぉ」


 私から見て左手に冴姫、右手に颯花の手が伸びる。

 私はおずおずと、その手を重ねて、握った。


「三人仲良しという事で、どうでしょう?」


「……まぁ、合格かしら」


「……うふふ、こういうのもドキドキするねぇ」


 二人の視線は私から逸れる。

 その反応から察するに、及第点と言った所なんだろう。

 ほっと胸を撫でおろしつつも、双美姉妹の手を自ら握るという大胆行動に結局は鼓動を早めてしまう。


 ――パーン


「……あ、花火」


「……後夜祭も始まったみたいだねぇ」


 夜空に大輪の花が咲く。

 窓から映るその打ち上げ花火を三人で眺めていた。




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