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41 演劇の配役について


「それでは演劇の題目ついては“白雪姫”でよろしいでしょうか?」


 今日は学院際準備の初日。

 私は演劇係のミーティングに参加していた。

 今回は大枠を決めるとの事で乙葉(おとわ)さんが取り仕切ってくれていた。

 原作シナリオと変わらず題目は白雪姫で進めていく事になりそうだ。


「では、配役を決めていきたいと思います。立候補から募ろうと思いますが、まず白雪姫役をやりたい方はいらっしゃいますか?」


 誰からも手は挙がらない。

 これも原作シナリオ通りではある。

 そのままの流れであれば、王子様役に乙葉さんが立候補し、その後に白雪姫役に逢沢(あいざわ)さんが推薦されるのが一連の流れだった。

 このままであれば問題なく進みそうではあるんだけど……。


「それでは次に、王子役に立候補される方は――」


「はい」


 乙葉さんが言い切る前に、食い気味のタイミングで手が挙がる。

 しかも、聴き馴染みのある人の声だった。


「……ふ、双美(ふたみ)さんが立候補されるのですか?」


 想定外だったのだろう、乙葉さんが困惑している様子が見て取れた。

 それは私も同じ気持ちで、ここで冴姫(さき)が手を挙げるとは思っていなかった。


「何よ、立候補なんでしょ。ダメなの?」


「い、いえ……問題はありませんが、意外だったもので」


「やりたいんだからいいでしょ、他にやる人がいないのならあたしがやるけど」


「あ、あの、それは……」


 乙葉さんの声が消え入りそうになっている。

 それも無理もないのかもしれない。

 今の逢沢さんは中立の立場で、冴姫の存在もある。

 乙葉さんにとって強く主張出来る土台が出来上がっていないのだ。


「それと、白雪姫役にはあたしから柊子(とうこ)を推薦するわ。誰も立候補がいないのなら、柊子にやってもらうから」


「ちょっ、冴姫!?」


 しかも冴姫が暴走をし始める。

 白雪姫役にまさかの私を抜擢するなんて聞いてないよっ。


「あら、それは素敵な組み合わせですねぇ」


 近くにいた逢沢さんは呑気に相槌を打っている。

 あなたは本当にそれでいいんですか?


「さ、さすがに白雪姫役に白羽(しらはね)さんは……」


 流石に乙葉さんは否定的な態度を示す。

 彼女のシナリオであれば、逢沢さんを推薦する予定だったのだから当然の反応だった。


「何でよ、柊子でも問題ないでしょ」


「ですが、白羽さんは模擬店も兼任されています。主役級の配役は負担が大きすぎると思われますが」


「じゃあ、誰ならいいのよ」


「そ、そう言われると……」


 乙葉さんはちらりと視線を逢沢さんに向けるが、その名を上げる事は出来ない。

 私を“兼任”という理由で白雪姫から外すのなら、逢沢さんも同様に候補から外れているからだ。

 シナリオから大きく外れた弊害だろう、乙葉さんは痛い所を突かれてしまう。


「いやいや、そもそも私が白雪姫なんてやりたくないからねっ。もっと向いている人にお願いしようよっ」


 冴姫のパワープレイでそのまま意見が通りそうな所がまた怖い。

 まず私の意見を聞いてもらわないとっ。


「柊子が舞台は白雪姫がいいって言ってたんじゃない」


「見る側としてねっ、演じる側は希望してないよっ」


「演じている景色が一番いい眺めに決まってるじゃない」


 カッコいい……。

 じゃなくてっ、その冴姫の凛々しさを以てしても私が白雪姫は受け入れられないよっ。


「それに、あたしが王子をやるなら、白雪姫は柊子しかいないじゃない」


「い、いや、でもさすがに分不相応だって……」


「それは“白雪姫としてふさわしいか”で考えるからでしょ。そうじゃなくて、“あたしの隣にいるお姫様は誰がふわさしいか”で、考えなさいよ」


 そう聞くと私しかいないじゃんと思えてくる言葉の魔術……。

 冴姫の隣を譲るものかと私も意地を張りたくなってしまう。


 だが、しかし……ここで名乗りを上げてしまっていいのだろうか。

 このまま行けば、完全に主役の座を奪う形になってしまう。


「わたしは良いと思いますよ、やりたい方がやるべきですから」


「で、ですが逢沢さん……」


 あくまで私を推してくれる逢沢さんに対し、乙葉さんは難色を示す。

 だけど……。


「……とりあえず候補として認めます。他にも役はありますから、それを総じて決めてからでも遅くはないでしょう」


 やっぱり、乙葉さんは逢沢さんにはめっぽう弱いのだ。


「次に魔女を希望される方は?」


 これは本来であれば星奈(ほしな) さんが演じる事になるんだけど。

 今回は模擬店に回っているから不在だもんね……誰がやる事になるんだろ。


「魔女は乙葉がいいんじゃない?」


 さ、冴姫さん……?

 無自覚なのは分かっていますが、そこで乙葉さんに配役を任せるのは違うんじゃないかなぁ……?


「……ああ、それもいいかもしれませんね」


 かと思えば案外素直に了承した乙葉さんが、私をじっと見てくる……。

 その視線が異様に冷たく感じるのはなぜだろう。


「白雪姫に毒林檎を渡すのは魔女の役目でしたね」


 ……あの、役の話ですよね?

 私に恨みがあって毒林檎食べさせたいとか、そういう話じゃないですよね?

 乙葉さんの視線に思わず身の危険を感じてしまう。

 このままではまずいと思った私は、こっそりと逢沢さんに耳打ちする。


「あ、逢沢さん……ちょっといいかな?」


「どうされました白羽さん?」


「鏡役は逢沢さんがやるのはどうかな……? ほら、鏡はナレーションだから負担も少ないだろうし」


「ああ、いいですね。わたしもご一緒したかったんです」


 よ、良かった……。 

 乗り気な逢沢さんに私は安堵を覚える。


「それでは鏡役に立候補される方はいらっしゃいますか?」


「はい、わたしがやりたいです」


「あ、逢沢さん……?」


「はい、魔女の相談にはわたしが乗らせて頂きたいです」


 その言葉に乙葉さんの表情が緩む。

 勿論、白雪姫と王子とでは全然違うけど。

 魔女と鏡の掛け合いでも、距離感が縮まる可能性は十分にあり得るだろう。


 ……と、希望的観測を持ちたい私でした。


「あ、はい……他に立候補者がいなければ、是非」


「お手柔らかにお願いしますね、乙葉さん」


「は、はいっ、あの……出来れば一番美しい人は魔女だけにして頂けると嬉しいのですが……」


 乙葉さんははにかみながら、逢沢さんとの会話に華を咲かせる。

 若干、言ってる事は本当の魔女っぽいし、なんだか私を排除しようとする動きに微量の恐怖は感じたけど……。

 そんな事よりも、二人の距離がちゃんと縮まる機会を作れた事には安堵する。


「やったわね、柊子。これで一緒にいられるわね」


 そして、誇らしそうに胸を反らす冴姫。

 その姿は見目麗しいのだけど、私はハラハラドキドキでしかない……。


「冴姫、さすがに目立ちすぎだって」


「別にいいじゃない、生徒の為の学院際なんだから」


「私は陰でひっそりと生きていけたらいいんだけど……」


「そういうわけにはいかないわ」


 ふん、と鼻を鳴らす冴姫。

 何をそこまで息巻いているのかは私にはよく分からない。


「全校生徒に知らしめておかないとね、柊子の隣にいるべきなのは誰なのかって事を」


 理由は嬉しいんだけど、大舞台すぎてこの先の展開に不安しか感じない私なのであった……。




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