40 中立の立場
「それでは、改めて学園祭の出し物について意見をまとめていきたいと思います」
壇上に乙葉さんの声が響く。
演劇か模擬店。
どちらを選んでも冴姫か颯花を不幸に陥れてしまう二者択一。
そんな選択を私は強いられようとしていた。
「白羽さんは学園祭の出し物は、どちらか決まりましたか?」
「あ、いえ、それがまだ……」
隣の逢沢さんがいつもの朗らかな笑みを浮かべていた。
「昨日も申し上げましたが、わたしは皆さんのやりたいものをやるべきだと思うんですよね」
「……! そ、そうですよねっ」
そうだ、逢沢さんは出し物の両立を希望していた。
そのアイディアは私のこの悩みを解決するっ。
「私もそればベストだと思いますっ」
「あら、意見が合ったようで嬉しいですね」
「はい、さすが逢沢さん。ナイスアイディアだと思いますっ」
「そ、そこまで褒められるのは照れますね……」
あれ、逢沢さんが恥ずかしそうになってしまった……。
と、とにかく、今はそのアイディアに乗っかるしかないっ。
「はいっ、乙葉さんっ、はいっ」
「……どうぞ、白羽さん」
私が勢いよく手を上げると、乙葉さんは少しげんなりとした様子で私を当てる。
何か直感的に嫌な予感を感じているのかもしれない。
「私も逢沢さんと同じ意見で、出し物は両方やるべきだと思いますっ」
「……貴女も、そう来ましたか」
予想していたのか、乙葉さんはそこまで驚く事もなく眉間に皺を寄せるのみに留まっていた。
彼女にとっては逢沢さんとの関係性が確約されないため望んだ状況ではないはずだが、それでも模擬店になってしまう最悪の状況は免れる。
それは星奈さんにとっても同様な状況ではあるのだけど。
「貴女がそれだと、多数決も意味がありませんね」
乙葉派に冴姫、星奈派に颯花。
中立に逢沢さんと私という構図になる。
ちょうど半分に分かれてしまっているため、これでは多数決も成立し得なかった。
「いいんじゃーない? 別に一個に絞らなきゃいけないルールもないんだし、逆に全員で一つやるとヒマな人もでるしさー」
星奈さんも声を上げて賛同する。
元々は逢沢さんの意見という事もあり、乙葉さんと星奈さんは両立を否定するスタンスは取りにくいのだろう。
ヒロインの勝負は次のステージに持ち越されたというわけだ。
「分かりました、そうしましょう。……ですが、中立を希望された逢沢さんと白羽さんはどちらの出し物を担当されるつもりですか?」
「……あ」
そ、そうだ。
学院際の出し物は二つやっても、私の体は一つ。
つまり、どちらかを選んだらどちらかを選ばない事になるわけで……
「もちろん、どちらも担当させて頂きます。ね、白羽さん?」
「え、え?」
当たり前のように返答する逢沢さんだが、まさか担当まで両立するとは考えていなかった。
「これはクラスの輪を繋ぐチャンスです。無理に一つにしようとするより、二つに分かれながら、一つにまとまる糸口を見つけ出すのです」
ああ……なるほど、逢沢さんはそういう考えなんですね。
それだと乙葉さんと星奈さんとの関係性はどっちかつかずになりそうだけど……いいのかな。
いや、申し訳ないが今の私は人の心配をしている余裕はない。
冴姫と颯花を悲しませない為には、私にとってもそのアイディアが一番だった。
「そ、そうですねっ。私もどちらもやりますっ」
覚悟は決まり、改めてその意志を乙葉さんに告げる。
「どうしてお二人とも両方を希望するか分かりませんが……意向は分かりました。出し物を増やしてしまったので人手は少ないですから、両方手伝ってくれる方がいるのは望ましい事でしょう」
というわけで、学院際の出し物は演劇と模擬店。
そして私は両方を担当する事に落ち着いたのだった。
◇◇◇
「まーた、逢沢と仲良さそうにしてたわね柊子は」
「そーやって、逢沢さんと一緒に学院際の出し物やりたいたのかなぁ柊子ちゃんは」
「……え、いや、そうじゃなくてだね」
休み時間になると冴姫と颯花にまたもジト目を向けられていた。
結果的に逢沢さんと同調する事にはなってしまったが、根幹は双美姉妹のためという事はいつだって変わりないのに。
「私はちゃんと冴姫と颯花の事を考えてだね……」
「じゃあどうして逢沢と一緒に両立する事になるのかしらね」
「柊子ちゃんが担当を両立するって事は、わたしと冴姫ちゃんといる時間は半分こ。だけど逢沢さんとはずっと一緒って事だよねぇ……これって裏切りかなぁ?」
こ、怖い……。
二人とも目が座り始めている。
苦渋の決断ですらも、どこかに私の裏切りの兆候を見出してくるのだからこの姉妹は末恐ろしい。
私はこんなにも二人の事を考えているのに……!
「私は冴姫と颯花に好きな事をやってもらいたいだけなんだよ、だからどっちにも我慢はして欲しくないの。そのためには両方やるしかないでしょ?」
「……また、そうやって上手い事言う」
「……どっちも選ぶって柊子ちゃんは欲張りだよねぇ」
否定的な口調は残りつつも、双美姉妹はまんざらでもなさそうだった。
その反応に一安心して、胸を撫でおろす。
「まぁいいわ、演劇の時は柊子とあたしでずっと一緒に準備すればいいだけだもんね」
「そうだねぇ、模擬店の時はわたしとずっと一緒にいようねぇ柊子ちゃん」
「も、もちろんっ」
しかも、冷静に考えればこれはチャンスだ。
この学院際の準備は、乙葉派と星奈派に私と双美姉妹で乗り込むような構図になる。
もちろん波乱の危険性は含まれるけども、同時に仲を深める機会でもある。
三大派閥とか言う不本意なグループ分けをされそうな今、ここで双美姉妹の良さをクラスに伝えていくには絶交の機会と言えるだろう。
「あたしは学院際にはあんまり乗り気になれないけど、柊子とやれるならそれでいいわ」
「わたしも柊子ちゃんの為に美味しいクレープ作れればそれでいいからねぇ、後の事は二の次かなぁ」
「……いや、二人とも。私の事を考えてくれるのはとっても嬉しいんだけど、他の人もいる事も忘れずにね?」
私の事しか特に考えていなさそうな双美姉妹。
それはとても幸せな事なのだけど、そのマインドだと何か起きそうで怖すぎる。
「柊子、学院際の目的は学生同士の交流と創造性の発揮よ」
「え、あ、はい」
「つまり、わたし達にとっては柊子ちゃんと交流をして、柊子ちゃんの為の創造性を発揮すればいいって事だよねぇ」
「……ぐ、ぐぐっ」
そんな事を恥ずかしげもなく言ってくれる双美姉妹。
私は嬉しい悲鳴を上げつつ、双美姉妹との学院際を上手く乗り切って楽しんでみせると決意するのだった。




