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38 双美姉妹への好感度


「そ、それでは意見も乱立して参りましたので一度日を改めたいと思います。意見がまとまらなければ多数決を取りたいと思いますので、皆さんよろしくお願いします」


 乙葉(おとわ)さんがそう締めくくる。


「さ、さんせーい」


 ライバルである星奈(ほしな)さんですら同調している。

 本来ならこのタイミングで学園祭の出し物が決まるはずなのだけど、逢沢(あいざわ)さんの一声により方針を変えたのだろう。

 体育祭の時とデジャブになっていた。


「うふふ、どうなる事やらドキドキですねぇ?」


 隣でニコニコの逢沢さん。

 皆はあなたの選択にドキドキしているんですよ、と伝えたい気持ちは我慢する。

 不用意に干渉しない方がいいと思うので。




        ◇◇◇




「あたしは学園際の出し物は演劇がいいと思うのよね」


「わたしは模擬店の方がいいと思うなぁ」


「ほうほう……」


 昼休み。

 いつものように私の席で囲ってご飯を食べていると、話題は学園際の出し物についてだった。

 学校行事に乗り気な二人を見れるだけでも私にとっては大変喜ばしい光景だ。


「というか消去法ね、模擬店はあたしには出来ないもの」


「あ、納得……」


「その深い相槌、なんか気になるんだけど」


 冴姫(さき)にジト目を向けられる。

 いや、だって料理苦手なんだから仕方ないじゃない……納得の理由だよ……。


「わたしは、人前に出るのちょっと苦手だから。裏でひっそり料理作ってる方が性に合うんだよねぇ」


「なるほどね。でも颯花(そよか)なら人前に出ても映えるのに勿体ない」


「や、やだなぁ柊子(とうこ)ちゃん。からかわないでよぉ」


 照れて手をパタパタと振る颯花が可愛い……。


「ねぇ、度々あたしと颯花で反応が変わるの納得いかないんだけど」


 気付いて欲しい。

 反応が変わるタイミングは、冴姫の“料理”が話題に上がってる時だと。

 いや、気付いているのかもしれないけど認めたくないのかな?


「大丈夫、そんなお茶目な冴姫も可愛いよ」


「へ、変なからかい方しないでよっ、もうっ」


 そう言ってそっぽを向く冴姫が可愛らしい……。

 私は今日も幸せです。


「それで柊子ちゃんはどっちの出し物がいいのかなぁ?」


「そうね、柊子の意見を聞かせなさいよ」


「私……?」


 正直展開の事ばかり考えていて、私自身の意見は考えていなかった。

 でもなぁ、私はどっちをやるにせよ裏方になるだろうから、正直変わらないような気がしている。


「どっちでもいいかな」


「へぇ……そうやって試すのね、柊子」


「さすが……小悪魔だね、柊子ちゃん」


 前に座る双美(ふたみ)姉妹が唇を引き結んでいる。

 なんだろう、そんなにおかしな事は言ってないはずなんだけどな。

 その反応の差に、何か解釈違いを生んでいるような気がして私は確認しようと――


「少し、いいかしら?」


 ――した所で、横から割って入って来る声。

 そこに立っていたのは乙葉(おとわ)さんだった。


「ダメ」


「食事中だから私語は慎もうねぇ」


 問答無用で門前払いしようとする双美姉妹……この二人の反応を見ると、いかに私が彼女達にとって特殊な存在かを感じる。

 でも、もうちょっと仲良くしようね、二人とも?


「さっきまで貴女達も話していたんだから別にいいでしょうっ」


 至極真っ当な乙葉さんの訴えに、双美姉妹は肩を落とす。

 しかし、乙葉さんの方から私達に声を掛けてくるのはとても珍しい。


「それで何の用よ」


「ご用件は手短に伝えてくれると助かるよねぇ」


 双美姉妹は相変わらずの塩対応だった。


「ただ質問をしに来ただけよ、貴女達は学園祭の出し物のどちらを希望する気なの?」


 その乙葉さんの質問に、双美姉妹は訝し気な表情を浮かべる。


「何でそんな事聞くのよ」「何でそんな事聞くのかなぁ」


「このまま意見が平行線なら多数決を取る事になる。だから、貴女達の意見を聞いておきたいと思っただけよ」


 ……はっ。そ、そうか。

 原作では乙葉派と星奈派に分かれ、そこに逢沢さんの投票で選択肢は決まる筈だった。

 だけど、今は双美姉妹と私の三票がある。

 二大派閥の戦力が拮抗している今、私達がその勢力図を変える力を持っているという事だ。


「へぇ……やけに必死じゃない、冷静沈着な乙葉ともあろう人が」


「お望みはわたし達の票ってところかなぁ?」


 その事実にすぐ気付いた冴姫と颯花はほくそ笑んでいた。


「そこまで私は卑怯じゃないわ、あくまで意見を把握しておきたいだけ」


 だけど、そこは流石の乙葉美月(おとわみつき)

 喉から手が出る程欲しいであろう票を懇願はせず、凛々しくその場に立っていた。


「なんだつまんない……って言っても良かったわね、あたしは演劇よ」


「そして残念でした、わたしは模擬店だよぉ」


「なるほど……珍しく姉妹で分かれたのね」


 その指摘に双美姉妹がぴくりと肩を揺らす。

 双美姉妹はお互いを見合って不思議そうに首を傾げていた。


「そういえば……自然と分かれてたわね」


「そうだね……それに違和感を感じてないのも珍しいよねぇ」


 お互いに珍しい事であるはずなのに、それに違和感すら持っていなかった事に驚いているらしい。

 双美姉妹にとってはあまり遭遇しない出来事のようだった。


「それで、貴女はどうなの?」


 そんな双美姉妹をよそに、乙葉さんが私に尋ねてくる。

 この状況だと、私の意見はかなり重要になってくるんだろうけど……。


「私はどっちも有りかなと思っていて、まだ決めれてないんだよね」


「……そう、分かったわ。明日までに決めてくれればそれでいいから」


 そうして、乙葉さんは去って行った。

 すると、すかさず双美姉妹の視線が私に集中する。

 

「それで、柊子はどっちを選ぶのよ」


「そうだよ、柊子ちゃんの意見を聞かせて欲しいなぁ」


 双美姉妹がグイグイとにじり寄って来る。

 二人に迫られるのは嬉しいんだけど、今日は一段と圧が強い。


「や、やけに二人とも気にするね……?」


 乙葉さんならいざ知らず、双美姉妹がそこまで学園祭に前のめりになるとは思っていなかったんだけど……。


「だって、あたしは演劇をやりたいわけで……」


「だけど、わたしは模擬店をやりたいわけでぇ……」


「……はっ!?」


 恐ろしい事実に気付いてしまった。

 双美姉妹の選択肢が異なるという違和感。

 そして、どちらかを選択する私。

 それは()()()()()()()()()()()()()()()という構図になってしまうのだ。


「聞かせてほしいわ、柊子があたし……じゃなくて演劇を選んでくれるのか」


「聞かせて欲しいなぁ、柊子ちゃんがわたし……じゃなくて模擬店を選んでくれるのか」


 ふ、二人とも本音を隠すのが下手すぎるぞっ。

 とりあえず照れながら言うのはやめてもらおうか、可愛いけども。


「え……いや……その……」


 ぐああああっ。

 で、出来るわけないっ。

 私が双美姉妹に優劣をつけるなんて事が出来るわけがないっ。

 私は二人が好きなのであって、どちらかを選んでしまう事は双美姉妹そのものを否定する事になってしまうっ。


「柊子の純粋な気持ちでいいのよ、やりたい方を選んでくれればいいんだから」


「そうそう、柊子ちゃんの意志を聞きたいだけだから」


 嘘だっ。

 これは学園祭の出し物を選ぶだけの簡単なイベントじゃないっ。

 私と双美姉妹の関係性を揺るがしてしまうような、そんな危険なイベントだったんだ……!




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