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37 イベントはいつも混乱中


 ……ううん、困った事になってきたな。


「どうしたの柊子(とうこ)、浮かない顔してるわよ?」


「ほんとだねぇ柊子ちゃん、何か嫌な事でもあったの?」


 教室の休み時間、冴姫(さき)颯花(そよか)に心配される。

 さっそく私は表情に出てしまっていたらしい。

 相変わらず感情を隠すのが下手すぎる自分が情けなくなってしまう。


 ……とは言え、今起きている出来事をそのまま双美(ふたみ)姉妹に伝えるわけにはいかない。

 オブラートに包みつつ、この状況を改善できないかを考えよう。


「あ、あのさ、仮になんだけどさ? 私達って乙葉(おとわ)さんか星奈(ほしな)さんと仲良くなる未来って考えられるかな?」


 そう、“三大派閥”とか言われ始めているのは私達三人がどこにも属さない事から始まっている。

 どちらかのグループに属する事が出来れば“二大派閥”には戻るのだ。

 そうすれば逢沢(あいざわ)さんとヒロイン達の物語は綺麗に紡がれるだろう。

 それによって私達とクラスメイトとの間でも余計な軋轢は生まなくなり、皆がハッピーな展開が待っているはずだ。


「遠い遠い彼方の世界線の向こう側なら有り得るんじゃない?」


「深い眠りの夢に見た世界なら有り得るかもねぇ?」


「うん、二人とも全然仲良くする気はないんだね」


 よく分かった。

 二人とも優しくなったと言っても、やっぱり不特定多数とコミュニケーションをとるのは嫌みたいだ。

 別に私も積極的に絡みたいわけではないんだけど……。

 状況が状況だからさっ。


「そんな事より、どうしてそんな事を言い出すのよ柊子」


「それって、わたし達以外と仲良くしたいって意味だよねぇ柊子ちゃん」


「い、いや……そういうわけじゃないんだけど。たらればの話で……」


 二人がぐいぐいとこちらににじり寄って来る。

 ダメだ、やっぱり二大派閥の話を持ち出すとこの展開になってしまう。

 

「許さないわよ柊子、いまさら他の所に行こうとするなんて」


「前までだったら柊子ちゃんの意志を尊重したけど、ここまで来たら許してあげないんだからね」


「……い、行かないんだけどさ」


 ああ……二人の独占欲を感じる。

 嬉しい……嬉しいけど、状況に改善の兆しが一切見られない……。

 この二律背反な状況が私の情緒を狂わせていく……。


「それにどうだっていいじゃない他の子の事なんて」


「わたし達がいれば、それで十分だよねぇ」


「そ、それはそうなんだけど……」


 分かっている。

 私だって元々ぼっちの人間だし、多くの人との交流なんて望んでいない。

 だけど、私は冴姫と颯花が誤解をされたままの状況が嫌だった。

 別に皆と仲良しになって欲しいとまでは思わない。

 思わないけど、せめて彼女達が優しい人間である事を理解して欲しいと願うのは間違っている事だろうか。


「私は皆に、冴姫と颯花の魅力を知って欲しい気持ちもあるんだけどね」


 嘘偽りのない気持ちだった。

 彼女達が好きだからこそ、私はその不当な評価を許容する事が出来なかった。

 ゲームプレイ時からストレスはあったのだけど、こうして現実になるとその思いは日増しに大きくなっている。


「……柊子の気持ちは嬉しい、だけどそれは必要ないのよあたし達には」


「……柊子ちゃんにだけ知ってもらえていたら、他には何も要らないんだよわたし達は」


「……冴姫、颯花」


 うん、私達は三人で一つ。

 三大派閥が何だ、そんなの知ったこっちゃないねっ。




        ◇◇◇




「いやいや、そうじゃないだろ私……」


 冷静になった私は頭を抱えていた。

 どうしてすぐ流されてしまうんだ、私はっ。

 簡単すぎる自分の脳みそを叩いてやりたくなる。


白羽(しらはね)さん、どうされましたか?」


 すると、ヒソヒソと声を掛けてくれたのは隣の逢沢(あいざわ)さんだった。

 隣の地の利を生かし、私にだけ届く声で話してくる。


「あ、いえ、ちょっと考え事を……」


「悩まれているようですが、何か相談に乗りましょうか?」


 悩みはある……あるのだけど。

 貴女もその悩みの中心人物なんですよ。

 何をどう相談すればいいのか、すぐに判断するのは難しい。


「――それでは、学院祭の出し物について決めたいと思います」


 なんて、迷っている内に教壇に立っている乙葉さんの声が響く。

 体育祭の次は、学院際の準備が始まる……。

 大忙しの時期だった。

 そして当然、これもエンディングの分岐に影響する重要なイベントでもある。

 

「私からは“演劇”を提案したいと思います。他に意見のある方はいらっしゃいますか?」


 二大派閥である乙葉さんが意見を出せば、当然クラスの半数はそちらに同意する事になる。

 必然的に手を上げるのはもう一人しかいないわけで。


「はいはーい」


「どうぞ、星奈さん」


「あたしは“模擬店”がいいと思いまーす」


 そう、星奈さんが意見する事になる。

 ここで【乙葉派は演劇】・【星奈派は模擬店】という対立構造が生まれる。

 原作ではここで逢沢さんがどちらかを選択する事で、好感度の変動とエンディング分岐に影響していく。

 体育祭ではどちらも選ばなかった彼女が次はどちらを選ぶのか……。

 今回は彼女の選択を阻害する因子はない。


「どうやら意見が二つに分かれてしまっているようですよ、困りましたね?」


「あ、はぁ……」


 隣で逢沢さんが頬に手を当てて、首を傾げている。

 本来であれば、貴女がどちらかを選ぶ事で話は進むんですけどね

 逢沢さんはどちらを選択するのだろう?


「はい、私も意見してよろしいでしょうか?」


 あ、あれ……?

 逢沢さんが意気揚々と挙手をしている。

 まだ多数決にはなってないはずなんだけど……?


「どうぞ、逢沢さん」


 乙葉さんの促しに、逢沢さんは朗らかな笑みを浮かべる。


「はい、意見が割れているようですから。それなら、どちらもやってみるのは如何でしょうか?」


「「……!?」」


 そこに辛辣な表情を浮かべる乙葉さんと星奈さん。

 私も苦笑いを浮かべるしかない。

 どうしてこの世界の逢沢さんは想定外の動きをするのかな?

 いや、私が言えた台詞じゃないのは百も承知なんですけど……。


「あ、あの、逢沢さん……どうしてそんな両立を取る意見をしたんですか?」


 その真相を彼女に問う。

 隣の席の地の利を生かし、彼女にだけ聞こえる声で。


「体育祭で皆さんの輪を繋いだ白羽さんの手腕に感銘を受けたのです。どちらか一方の意見を聞くのではなく、皆の意見を取り入れようとする……そんな柔軟な姿勢に。それが今回の学院祭では、この方法が最も適しているのではないかと考えたのです」


「……へ、へぇ」


 乙葉さんと星奈さん。

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 やっぱり私の影響で逢沢さんは変わってしまったみたいです。




【補足】


 ※読み飛ばして頂いても大丈夫です。


 あの、そこまで深く気にしてる人はいないと思うのですが一応多数決に関しての説明をしておきたいと思います。

 

 原作シナリオ:クラス総勢40➡38名(双美姉妹の退場により)

 内訳:乙葉派が18、星奈派が18、逢沢紬が1、白羽柊子が1➡計38名


 多数決では逢沢紬の一票に、白羽柊子も自動的に逢沢票になる設定になっています。

 つまり、逢沢票が入った方が20対18という構図になります。

 白羽柊子は本来モブなので、選択肢によって都合よく動いてくれるNPC的な存在です。

 なので正確には二大派閥に属さない人は、逢沢紬と双美姉妹以外にもう一人いたんですね。(でも誰も柊子の事は気にしていないというご都合主義……本来は、ですが)




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