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31 お風呂


「ちょ、ちょっと冷静になろうか、二人とも……!?」


 双美(ふたみ)姉妹に連行されている中でも私は断固として抗議する。

 だってこのままだと“私は二人にお風呂に入れられる”という辱めを受ける事になる。

 さすがに仲が良くなったと言っても耐えられるものではない。


「あたし達は冷静だし、冷静だからこその判断よ」


「わたし達は柊子(とうこ)ちゃんの事を思ってこそなんだから、止める理由はないよねぇ」


 あるよ、止める理由は大いにあるよっ。


「いや、恥ずかしいよっ。裸を見られるのはさすがに恥ずかしいよっ」


 もう細かい理由はなしに、純粋な羞恥心が何よりも先立っていた。


「いや、女同士で何言ってるのよ?」


「これで恥ずかしがってたら誰とも入れないよぉ?」


 首を傾げる双美姉妹。

 分かってない、全然分かってないぞこの二人……!

 元々、この世界は百合ゲーを舞台にした世界。

 そして私は双美姉妹推しの百合好き。


 これが意味する事は何か?


 そう、女の子同士でのお風呂なんて異性よりも異性な組み合わせになってるんだよっ(?)

 とにかくとってもエッチだからダメだよねっ。

 対象年齢が上がっちゃうよねっ。


「とにかく私は裸を見られるとか絶対にダメだから、一緒に入るとかもなしだからっ」


「えー……とか言ってるけど、颯花(そよか)どうする?」


「んー……でもお風呂に入れないと困るのは柊子ちゃんだよね、冴姫(さき)ちゃん?」


 ちょ、ちょっと……やめてよ。

 二人で困ったねぇ、みたいな雰囲気を出さないでよ。

 私が二人に悪い事をしちゃってるみたいじゃないっ。


「ち、ちなみにお風呂は私の家でってこと……?」


「そうよ、洗ってあげるのよ」


「全身くまなくだねぇ」


 ……。


 おっと、いかんいかん。

 何を想像しているんだ私は。


「それって私だけ裸になるって事?」


「入るのは柊子だけなんだから当然じゃない」


「大丈夫、大事な部分は優しくするからねぇ」


 ……ちょっとさっきから颯花が微妙にエッチな気がするのは置いといてだね。

 そこが問題なんだよね。


「一人だけ見られるのはムリっ、それは誰だって恥ずかしいでしょ」


 何が悲しくてこの貧相な体を二人にお見せしなければならないのか。

 いくら仲良くなったと言っても死守しなければならないデリケートな部分というものがあるよねっ。


「じゃあ、あたし達も脱ぐ颯花?」


「柊子ちゃんがそう言うなら仕方ないよねぇ冴姫ちゃん?」


 え……。

 これで諦めると思っていたのに、話はまさかのプランBへ。

 いやいやいや、困りますって。

 いよいよ大人の世界になっちゃいますって。


「ふ、二人は抵抗感とかないの……?」


「まぁ、たまにだけど颯花と一緒に入る事もあるし」


「冴姫ちゃんと柊子ちゃんとなら平気だよねぇ」


 ぐはっ……!

 この二人が一緒にお風呂に入る事があるの……?

 ちょ、ちょっとレベル高すぎない……?

 まさか日常でそんな百合の花を咲かせているなんて。

 見たい感情がないかと言えば嘘になるが、それを私の裸という天秤に掛ける。

 双美姉妹推しとして、どっちの選択をとるべきか。


「い、いや、でもやっぱり一人で入れるから……大丈夫」


 私は血の涙を流しながら何とか耐えきる。

 自らの恥部を晒す事はさすがに出来なかった。


「じゃあ、わたし達が見なければいいのね?」


「目隠しとかで入る事にするぅ?」


 なんか代案を提示してくる。

 だけどしかし待って欲しい……。


「な、なんでそこまでお風呂を入れる事に執着するのかな?」


「柊子を労ってあげたいからよ」「柊子ちゃんを労ってあげたいからだよねぇ」


 ……優しい。

 双美姉妹から両頬にキスをしてもらっただけで飽き足らず、そこまでしてくれるなんて。

 その心遣いに思わず無意識で首を縦に振ってしまった私はつくづく自分に甘かった。




        ◇◇◇




 ……どうして、こんな事になってしまったんだ。

 私はお風呂場で頭を抱えていた。

 もちろん頭を洗おうとしているわけではない、思い悩んでいるのだ。


「それじゃ行くわよ柊子」


「まずは頭からだよねぇ柊子ちゃん」


「あ、うん……」


 決して広くはないお風呂場で、女の子とは言え三人同時に入るのはぎゅうぎゅう詰めだ。

 よって必然的に高まってしまう双美姉妹の濃度に昇天しそうになるけども、それは空気のせいだけではない。

 そのビジュアルも問題だった。


 まず、二人にはタオル巻いて目を覆ってもらっている。

 二人に私の裸を見られたくないので、そこを最大限考慮してもらう為にはこうするしかなかった。


 しかし、それで私が双美姉妹の裸を一方的に見るのはフェアではない。

 というわけで二人には体にバスタオルを巻いてもらっていた。


 ……いたのだけど。


「お、おねがいしまふっ」


「語尾が変になってるわよ柊子」


「お風呂場だから反響してるのかなぁ?」


 いくら何でもタオルを巻いているとは言え、エッちが過ぎるっ。

 二人とも髪をまとめていて、首筋やうなじが見えている。

 そして、そんな布きれ一枚では細く伸びやかな肢体に、透けるような白い肌を隠すことは出来ない。

 デコルテ部分は露わになって二人とも健康的な鎖骨が露出しているし、その太腿からふくらはぎにかけては理想的な曲線美を描いていた。

 それでいながら起伏に飛んだ豊かな膨らみ。

 そんな双美姉妹の煽情的な姿に目が……目が奪われてしまう私は何てやましい女なのか……!

 二人は好意で私を労おうとしてくれているだけなのに……!


「えっと、頭はこの辺……?」


「ひゃっ……そこは首筋だねっ」


「あ、ごめんごめん」


 しかも、それでいて目隠しながら手探りで私を洗ってくれてるという何とも背徳的なビジュアル。

 理性が……私の理性がぶっ壊れてしまいそうになっていた。


「まずはシャンプーで頭を洗うわよ」


「お、お願いします……」


 冴姫の手が頭に届き、私の髪を丁寧に洗ってくれる。

 その指先で髪を()き、頭皮を揉むような動きはまるでマッサージのようだった。

 き、気持ち良すぎる……。

 あの双美冴姫(ふたみさき)に自分の体を洗ってもらえているなんて……な、なんだこの状況。


「はい、じゃあ流すわよ」


「はい……」


 シャワーで髪をすすぐ。

 シャンプーの泡がとれて、目をぱちりと開ける。

 鏡越しで冴姫の立ち姿が目に入った。

 跳ね返った水しぶきによってバスタオルは更に体に張り付いて、体のラインを浮き彫りにしていた。

 

「ぐはっ……」


「え、ちょっ、どうしたの柊子っ。何かあった?」


 あ、あったね……冴姫という存在の美しさに悶絶してしまう。

 しなやかに伸びる四肢は適度な筋肉の張りを感じさせながら、肩や胸元と太腿にかけてはしっかりと女の子らしい曲線と膨らみがある。

 健康的な肉体美、その理想的なスタイルに脱帽だった。


「だ、大丈夫……ちょっと、女神が見えただけ……」


「それは大丈夫じゃないわよね?」


 いや、もうやめよう。

 こんな真摯な思いを邪な気持ちで受け取るなんて失礼だ。

 心頭滅却すれば火もまた涼し、だ。

 私は静かに目を閉じる。


 なんとか心の安寧を取り戻し、コンディショナーを終える。


「はい、それじゃあ今度はわたしの番だねぇ」


「お、お願いしますっ」


 今度は颯花の番のようだった。

 

「ちゃんと洗ってあげるからねぇ」


 背中にボディタオルが当たる。

 上下に擦られ、非常に心地よい。

 人に洗ってもらうのってこんなに気持ちいいんだなぁ、なんて思っている内に状況にも慣れて来たのか心は凪のように穏やかになっていた。


「はい、じゃあ今度は前だねぇ」


「……前?」


「ん? 全身洗うって言ったよねぇ?」


 すると、人の気配が目の前に移動していくのを感じとる。

 状況の変化に反射的に目を開けると、そこには私の前に膝を着いて屈んでいる颯花の姿があった。 


「ぶふっ……」


「え、わっ、どうしたの柊子ちゃん。何かあったの?」


 あ、あったね……颯花という存在の妖艶さに悶絶してしまう。

 その体は膨らみと丸みを描き、どこをとっても滑らかな曲線が柔らかさを連想させる。

 肉感的な体つき、バスタオルがその胸元をひと際強く抑え込んでいた。

 しかし、それでも零れそうになっている膨らみは抱擁力に満ちていて、私はパニックである。


「だ、大丈夫……ちょっと、聖母様が見えただけ……」


「それは大丈夫じゃないよねぇ?」


 し、知らなかった……。

 二人とも制服の上からでは双子ゆえに似た体つきに見えていたのだけど、ここまで露わになると差異があった。

 どちらも素晴らしいスタイルである事には変わりなく、私はその神々しい姿を拝見出来ただけで胸が高鳴って仕方ない。


「というわけで、後は私がやりますので……」


「ダメだよぉ? 全部洗うって言ったよね?」


「え、や……」


 や、やばい。

 何がどうとは言わないけど、このまま前を洗われるのは色々ヤバいッ。


「ほら、柊子。大人しく洗ってもらいなさいよ」


「あ、ちょっ」


 動き出そうとした私の雰囲気を感じ取ったのか、冴姫に両手を後ろから抑えられる。

 抵抗出来なくなってしまった私に、颯花の手がこちらへ伸びてくる。


「しっかり擦ってあげるからねぇ」


「あ、あわわわっ……!」


 首筋から上下運動を繰り返しながら、徐々に下へと降りていく。

 ま、まずい……このままではちょ、ちょっとアレがこうしてしまう。

 徐々に颯花の手はわたしの慎ましい膨らみに近づいてい……って……。


「ひゅー」


 そこで突然意識がシャットアウトした。


「え、あ、ちょっと、柊子?」


「あれ? 柊子ちゃんの体がなくなった?」


「あたしの方へ倒れて来たのよっ、ちょ、ちょっと柊子どうしたのよっ!」


「え、うそ、柊子ちゃん、しっかりしてっ!?」


 遠のいていく二人の声。

 のぼせた……完全にのぼせた……。

 体育祭の疲労、お風呂の熱、双美姉妹の煽情的な姿と振る舞い。

 全てが私の体に熱を灯す作用しかなく、処理しきれなくなった私の体はシャットダウンを選んだようだった……。




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