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28 二人三脚


「で、どうすんのよ」


「答えを聞かせて欲しいなぁ」


 場所はグラウンドにて。

 体育祭の練習として、クラスメイトはペアになって二人三脚の練習を始めていた。

 しかし、私達はまだその輪の中には入れない。

 ペアが決まっていないからだ。

 おかげさまで、双美(ふたみ)姉妹は揃って腕を組んで仁王立ちをしている。


「……だ、そうですが」


 私はそのプレッシャーから逃れるように視線を反らして、話題を振る。

 この問題には、まだ登場人物がいるからだ。


「一つは簡単です、私と逢沢(あいざわ)さんがペアを組みます」


「あ、ちょっと乙葉(おとわ)ふざけんなし。(つむぎ)はあたしと組むんだけど」


 乙葉さんと星奈(ほしな)さんはやはり譲る気はなさそうだ。

 まぁ、譲れるわけもないのも分かってるんだけど。


「うふふ、困りましたね」


 逢沢さんが優雅に頬に手を当てる。

 結局、この六人の組み合わせが決まらなさ過ぎて練習日当日も相談に当てるという事態に陥っている。

 学級委員長の乙葉さんは、さぞかし頭を悩ませている事だろう。


「と、言いますか……双美さん、お二人はペアになっているんですから練習してもらって構いませんが?」


 乙葉さんが苛立ちを隠しながら双美姉妹に練習を進める。

 確かに、冴姫(さき)颯花(そよか)がここにいる理由はよく分からない。


「いや、こっちも困ってんのよ」


柊子(とうこ)ちゃんを他の人に組ませたくないんだよねぇ」


 そして双美姉妹は無茶苦茶な事を言っていた……。

 これには乙葉さんも眉間に皺を寄せる。


「……お二人のどちらかが白羽(しらはね)さんと組めばいいのでは?」


「いや、それだとあたしか颯花が二大派閥(あんた達)と組む事になるのよ?」


「そうなると問題起こりそうだから、色々と察して欲しいよねぇ」


 二大派閥と双美姉妹が組んでしまうと、クラスメイトのヘイトを買ってしまうのは確かに目に見えていた。

 とは言え、これに関しては双美姉妹は相当な無茶を言っている事には変わりない。

 私としては二人に求められてムフフな状況ではあるのですが。


「ですから【わたしと白羽さん】、【乙葉さんと星奈さん】、【双美さん姉妹】がベストだと思うのですが、如何でしょうか?」


 逢沢さんも自分の意見を曲げる気はなさそうだった。

 おかげさまで乙葉さんと星奈さんが私を睨んでくる。

 同時に冴姫と颯花もだ。


 ……あれ、この状況って私が一番損してない?


「困ったわ……全く決まりそうにないのだけど」


 とうとう乙葉さんが音を上げてしまった。

 この個性的なメンバーが全員明後日を向いてしまえば、それをまとめるのは不可能に近いのかもしれない


「お、乙葉さん……た、大変ですっ」


 すると、他のクラスメイトが血相を変えて乙葉さんに声を掛ける。


「どうしたの」


「あの私のペアが足を挫いてしまって……しばらくは安静で、体育祭も控えるように言われてしまったんです」


 なんと、二人三脚のメンバーが一人減ってしまったようだ。

 全体の人数が奇数となって、ペアが一組消えてしまう状況。

 二人三脚はクラス対抗リレーにもなっているので、ペアの総数は既定の人数を満たさないといけない。


「……あ」


 そこで、ふと私は思い付いたアイディアがあった。




        ◇◇◇




 体育祭当日。

 天気は晴天。

 陽ざしが強くて暑いし、日焼けも気になって仕方ないけれど。

 絶好の体育祭日和に、私は気持ちを改める。

 種目は二人三脚が始まる所だった。


「何で私が貴女と……」


「仕方ないじゃん……紬のお願いなんだから……」


 結局、乙葉さんと星奈さんがペアを組むことに。

 あれだけ渋っていたのに、結局はそれを承諾したのだ。

 理由は至極単純。


『わたしは仲睦まじく手を取るお二人の姿が見たいのです』


 なんて、逢沢さんに懇願されて二人は断る事が出来なくなってしまっていた。

 惚れた弱みというやつだろう。

 そして当の本人はと言えば……。


「あの、すいません、急遽変わってもらって……」

  

「うふふ、何を仰いますか。ご一緒できて嬉しいですよ」


「でも、逢沢さんとしては乙葉さんか星奈さんが良かったんじゃ……」


「あのお二人が手を取り合う方がずっと素敵に決まっています。それに私は貴女と走る事に夢中ですし」


「そ、そうなんですかっ」


 逢沢さんはペアが怪我でいなくなってしまった子とペアを組んでいた。

 困っている人を助ける、という意味ではこれも逢沢さんにとってはベストな選択だったのだろう。

 なぜかクラスメイトの子が目がハートになりつつあるのだが……あの人は天性の女たらしなのかもしれない。


「それでは位置について、用意――」


 ――バンッ


 二人三脚が始まった。

 少しずつ応援と活気がその熱量を増していく。


「よし、それじゃやるわよ柊子」


 隣には冴姫がいて、準備を運動を始めていた。

 私のペアはやはり彼女しかいない。


「でも私、運動苦手だからなぁ」


「何よ、やる前から負けた時の言い訳?」


「冴姫の足手まといになるのが心配なだけだよ」


 私は冴姫と肩を組む。


「あたしと柊子で力を合わせるの、そして勝つ」


「頼もしいね」


「当たり前よ、そうでもしないと周りが理解できないでしょ?」


「周り?」


 私は何の事か分からず首を傾げる。


「柊子の隣は誰がふさわしいかってこと」


 なんて事を目線を外しながら、少しを照れたように言うのだから。

 いよいよ私も反応に困る。

 走る前なのに、既に息が上がりそうだ。


「ほら来たわよっ」


「う、うんっ、頑張るよ」


 紐で結ばれた足で同時に走り出す。

 リードしていく冴姫に合わせながら、一緒に駆けていく。







「はぁはぁはぁ……」


 本番と練習はちがうのか。

 思っていた以上の疲労に息切れしてしまう。

 

「良かったわね柊子、あたし達のおかげで順位が少し上がったわよ」


「そう……だね」


「これで少しは周りも分かったでしょ」


 皆までは言わないけど。

 その言葉の意味を理解しているから、私は静かに頷いた。


「はーい、柊子ちゃんに冴姫ちゃん。お疲れさまぁ」


 そこに颯花が現れる。

 するすると、足を結んでいた紐を解いて、今度は颯花と私にその紐を結んでいく。


「それじゃわたし達も頑張ろうねぇ?」


「が、がんばる……」


 人数が一人減った事でペアが一組消えてしまった。

 であれば補充する為に、誰か一人が二回走ればいい。

 これで私が二回走り双美姉妹とペアを組む事が可能になった。

 お陰様でペアは無事(?)に決まったのだ。

 私の体力が犠牲になるけども、それくらいはお安い御用だ。


「大変だったでしょう、冴姫ちゃんに着いて行くの」


「ま、まぁね……速いからね冴姫」


 それでも冴姫なりに合わせてくれていたんだとは思う。

 私は最大速で挑んでようやく追いつくレベルだったけど。


「今度はわたしがちゃんと支えてあげるから任せてねぇ」


「颯花も本気出したら速そうだけど……」


 双子の姉妹、瞬発力だけで見ればそこまで差はないようだった。


「わたしは合わせる方が得意なんだよねぇ、昔から冴姫ちゃんとそうしてきたから癖になってるんだろうね」


「なるほどね」


 妹の颯花らしかった。


「でもね、合わせられるってだけで誰にでも出来るわけじゃないんだよ? だってその人の事をずっと見てなきゃ出来ない事だから、やりたくない人には出来ないでしょ?」


「だ、だよね……分かる気はする」


 人に気を遣うのも一苦労だしね。

 合わせるなんて言ったら、それこそたくさんの労力が掛かるだろう。


「だけど、柊子ちゃんには合わせられるんだ。そんな人、冴姫ちゃん以外にはいなかったのに」


 そうして、颯花は優しく微笑む。

 全く毒づいて来ないのも時に困るもので。

 足が繋がっているから、逃げ場もなかった。


「さあ、行こう柊子ちゃん」


「うん、行くよ颯花」


 颯花とも一緒にグラウンドを駆ける。


 冴姫と颯花が他の誰かとペアを組む。

 その意味を一番感じているのは、きっと私だから。




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