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22 根底にあるもの


「それで、さっきのは何なの?」


「……はい」


 授業が終わり、 皆が更衣室へと戻っていく中。

 私は体育館の隅で正座を強いられていた。

 目の前には、瓜二つの美少女が仁王立ちで私の事を見下ろしている。

 降り注ぐ視線は、当事者の私にしか分からない途轍もないプレッシャーだ……。


「どーしてわたし達が目を離すと柊子(とうこ)ちゃんは二大派閥と仲良くしようとするのかなぁ?」


「……いえ、あの、声を掛けて来たのは向こうからなのですが」


 何回も同じ言い訳をしているように聞こえてしまうだろうけど、これが事実なのだから分かって欲しい。

 決して私から近づこうとなんてしてないんだよ。

 でも星奈(ほしな)さんの方から声を掛けられたら、無視するわけにもいかないよね?


「誰でも近づけるような雰囲気を柊子が出してるから寄って来るのよっ」


「結果、柊子ちゃんが悪いんだよねぇ」


「え、なんでっ」


 私は地味に目立たずステージの隅で座っていただけなのにっ。

 存在感はなかったはずだ。


「柊子だけ一人で体育座りしてたら目立って仕方ないわよっ」


「ええっ」


 そんな斬新なぼっち批判があるだろうか。

 もう私にはどうしようもない。


「一人で楽しそうにしてるし、変な人になってたよ」


「う、うそぉ……」


 一人でいる事に慣れすぎて、変な余裕が生まれてしまっていたのだろうか。

 そのせいで、変な人になってしまっていたなんて。

 ふ、不覚……。


「それで、星奈とは何を話してたのよ」


 “ハーレム疑惑をかけられていた”

 なんて言ったら双美(ふたみ)姉妹の機嫌は益々悪くなってしまうだろう。

 ここはオブラートに包みながら弁明を……。


「最近、私と双美姉妹が仲良いねっていう世間話だよ。冴姫(さき)颯花(そよか)が他の人と話すの珍しいから気になったんだろうね」


 嘘は言っていない。

 逢沢(あいざわ)さんと乙葉(おとわ)さんの話は抜けているけど。

 嘘は言っていない。


「……どう思う、颯花」


「……狙ってると思うよ、冴姫ちゃん」


 二人は神妙な面持ちで見つめ合うと、お互いに頷き合う。


「えっと、狙ってるとは?」


「柊子のことよ」「柊子ちゃんのことだよ」


 息ピッタリで返事が返って来る。

 その表情の硬さで、二人の真剣さが伺える。

 冗談ではない……みたいだ。


「わたしを狙う?」


「間違いないわね、そうでもない限り話しかける理由がないもの」


「すぐ違う人にちょっかいを掛けるんだから、星奈さんも節操がないよねぇ」


 なるほど。

 つまり二人は、私が星奈派閥に取り込まれると危惧しているわけだ。

 私にそんなオファーが来るわけないんだけど、少ない情報ではそう邪推してしまっても仕方ない。


「……分かってるわね、柊子?」


 ずいっと冴姫の顔が近づいてくる。

 冴姫が一切瞬きをしないので、目が乾かないのかなと心配になる。


「わたし達を無視して、他所(よそ)に行くのは許さないからねぇ?」


 合わせて颯花も私の瞳を覗いてくる。

 姉妹共々、瞳孔が開きっぱなしなのが怖い。

 

「そりゃもちろん、どこにも行かないよっ」


 そもそも、そんな誘いがあるわけもないのだけど。

 あったとしても、私が双美姉妹から離れる事は有り得ない。

 私の目的は二人がクラスと打ち解ける事であって、自分の居場所はここだと決めている。


「本当ね、その言葉に嘘はないわね?」


「誰かに奪われるなんて、そんなの認めたくないからねぇ」


 恐らくだけど、冴姫と颯花は共依存の関係にあったんだと思う。

 姉妹で分け合う価値観はきっとあまりにも似通っていて、脆さも孕んでいた。

 その中に、私が入る事で少しだけ補強出来たのかもしれないけど。

 今度は私が崩壊の因子にもなっているような気がする。

 人間関係って複雑だ。


「それくらいは信じてもらえるような事をしてきたつもりだけどな」


 少なくとも逢沢さんにも乙葉さんにも星奈さんにも、私は自分の身を投げ打った事はない。

 そんな瞬間がそもそもなかったと言われればその通りだけど。

 仮に同じ状況があったとしても、私が身を投げ出すのは双美姉妹だけだ。

 その事だけは、私は私に対して揺るぎない自信を持っていた。


「……そ、そうね。ごめん、疑って」


「……ちょっと不安になりすぎちゃったかなぁ」


 私の言葉に納得してくれたのか、二人は顔を上げて視線を反らし始める。

 冴姫はぱたぱたと顔を煽ぎ、颯花はくねくねと体を揺らしていた。


「もう足を崩してもいいのでしょうか」


 空気が和やかになってきた所で、許して下さいアピールをしてみる。

 体育館のコートで正座はちょっと厳しい。


「正座しろなんて、あたし言ってないわよ」


「急に柊子ちゃんが座り込んだのが先だと思うよぉ」


「あれ?」


 どうやら二人のプレッシャーから私が勝手に動き始めていたらしい。


「あたた」


 足は若干の痺れを伴っていた。

 慣れない所作をするものじゃないなと反省する。


「もう……、気付かないあたしも悪いけどムリしないでよね」


「何のために体育を見学していたのか分かんなくなっちゃうよぉ」


「ごめんよ」


 二人にぶつぶつ言われながらぺこぺこと頭を下げていると、冴姫と颯花との視線が揃う。

 姉妹一緒に私を挟んで腰を下ろしていた。


「足も労わってあげないと、またいつ悲鳴を上げても知らないわよ」


「あ、うん」


 すると、冴姫が私の足を擦る。

 まるで私の体を労わるように。


「柊子ちゃんは気付くとムリしてるよねぇ、今回はわたし達も悪いんだろうけどさぁ」


「そんな事ないんだけどね?」


 今度は颯花が反対の足を擦る。

 姉妹揃って私の足を触っている状況って、なんだか妙な雰囲気じゃないかな……。

 あと実は痺れてるので、ふくらはぎを擦られるとビリビリします……とも言えずに、されるがままに時間が過ぎる。


「ダメよ柊子、他の女の所になんか行ったら」


「柊子ちゃんだけなんだよ、わたし達が受け入れる人は」


 冴姫と颯花が私を必要としてくれるのは素直に嬉しい。

 その傷跡を、私で埋める事が出来ているのかなって思えるから。


「私は、冴姫と颯花の所以外には行かないよ」


 例えこの先、二人にとって受け入れ難い行動をとる事があったとしても。

 その根底には冴姫と颯花を想っての決断のはずだから、最後まで信じてくれたら嬉しいなと思う。




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