白文姫
とある国にお姫様が一人生まれました。
白紙の原稿用紙のように白い肌を持つその子は白文姫と名付けられ、
すくすくと育っていきました。
白文姫には継母にあたるお妃さまがおりました。
お妃さまは王妃としてのつとめを果たす一方、小説家として数々の名作を世に出しており、自分こそは最高の小説家だと自負していました。
お妃さまは夜に魔法の原稿用紙を広げて問います。
「この国で一番優れた小説家は誰?」
その言葉を受けて魔法の原稿用紙は自らに文字を浮かび上がらせて答えます。
『それはお妃さまです。』
お妃さまはその答えに満足して眠りにつきます。
そんな事を毎日欠かさず続ける日々を送っていました。
白文姫が七歳になった頃、
お妃さまはいつものように魔法の原稿用紙に問いかけます。
「この国で一番優れた小説家は誰?」
その問いに魔法の原稿用紙は
『それは白文姫です。』
いつもと違う答えを返しました。
驚いたお妃さまは白文姫について調べると白文姫がまだ幼いとは思えないほどの文才を発揮し、
人々を魅了する名作小説を生み出した事を知ったのでした。
お妃さまは嫉妬に怒り狂い、白文姫を森の奥深くにある七人の小人の住む家に追放し、白文姫が森から出る事を固く禁じました。
優れた小説家になるためには何が必要か?
世の小説家にそれを聞く時、返ってくる答えは様々であるがそれでもその中から最もよく言われる答えに正解を求めるなら、多くの人と話した経験こそが優れた小説家が育つのに必要なものであると言う事になるであろう。
それを踏まえて、住人といえば獣ばかりで人のいない森の中で育った人間が名作小説を書く事が出来るであろうか?
いや、出来るはずがない。
お妃さまはそのように考え、自身の勝利を夢想するのだった。
それから数年後、お妃さまは七歳の時の白文姫が書いた小説を超えたと確信する小説を書き上げていました。
自信をつけたお妃さまは白文姫を追放した時からやめていた魔法の原稿用紙への問いかけを行いました。
「この国で一番優れた小説家は誰?」
『それは白文姫です。』
またもや驚いたお妃さまはどういう事か調べるといつの間にか白文姫の新しく書いた小説が流行している事がわかりました。
森から出られない白文姫は書き上げた小説を小人たちに頼んで町の出版社に持ち込んで貰ったのです。
その小説は白文姫が森で得た知識を元に書かれたものでした。
森の獣たちを観察した実体験を元に書かれた真に迫った怪物の描写。
森の毒草や薬草の知識によって書かれた傷薬や狩猟に使う毒の作り方の分かりやすい説明。
小人たちから教わったサバイバル術の知恵を生かした森に潜伏した主人公の描写。
それら全てを優れた文章力で表現したファンタジー小説でした。
その小説を読んだお妃さまは白文姫の文才は森に追放したくらいでは封じるができない事を悟り、もっと過激な手段にでる事を決意しました。
お妃さまは魔法で老婆に化けるとりんごが入った籠を持って、白文姫のいる森の中の家に向かいました。
お妃さまは家の前までやってくるドアをノックし、それを聞いてドアを開けた白文姫に籠を突き付け、
「りんごはいらんかね?
安くしとくよ。」
りんごの押し売りを始めたのでした。
「まあ、美味しそうなりんご。
八個くださいな。」
こんな森の奥まで押し売りに来るりんご売りは絶対に怪しいのに白文姫は疑いません。
そうして白文姫はりんごを買ってしまいました。
白文姫はお妃さまが去った後、自分の分のりんごを美味しそうに食べました。
実はそのりんごは強力な呪いが込められた呪物[筆呪いのりんご]だったのです。
筆呪いのりんごを食べた白文姫は呪われ、小説のアイディアが全く浮かばなくなり、小説が書けなくなってしまいました。
それこそが筆呪いのりんごの恐ろしい呪いの効果なのです。
すなわち小説家がスランプになるというそんなとんでもなく残酷な事態を現実にしてしまうのです。
スランプになった白文姫はどんどんやつれていきました。
心配した小人たちが気晴らしに執筆以外の事をしてみたらどうだと言って散歩やカードゲームに誘いますが、何をやっても白文姫の気が晴れる事はありませんでした。
そんな時、隣国の王子が森にやって来ました。
王子は小人たちから白文姫がスランプになってしまった事を聞くと白文姫の目の前に来て言いました。
「幼い頃に貴方の小説を初めて読んだ時、そこに描かれた愛や勇気に感動して私も小説の主人公たちのように強く生きる大人になりたいと思うようになりました。
だからこそ言えます。
貴方は最高の小説家だ。
だから、必ず乗り越えられます。
貴方の書く主人公たちがどんな困難も乗り越えて最後に勝利を手にするように。」
それを聞いた白文姫は顔を真っ赤にして言いました。
「失礼でなければもっと私を褒めてくれませんか。」
王子は二つ返事で了承すると白文姫が今まで書いた小説を一つ一つ褒め始めました。
よくそこまで褒め続けられるものだと小人たちが感心するほどそれは長く続き、最後の小説を褒め終えた時には空の真ん中にあった太陽が山の向こうに沈んだ後でした。
「褒めて貰ったおかげでやる気がこれ以上無いほど湧いてきました。
さっそく執筆にとりかかります。」
これまでやつれていたのが嘘のように元気になった白文姫は書斎に入っていきました。
こうして、王子の愛?でスランプを解消した白文姫は次々に名作小説を執筆しました。
そして王子はお妃さまと交渉し、白文姫を森から王子の国に連れ帰り、
盛大な結婚式を挙げ、幸せに暮らしました。
その一方でお妃さまは一生白文姫に勝つ事はできなかったそうです。
めでたしめでたし。




