谷間にて(その5)
「ふむ。刀への付加魔法に関しては鍛冶師のユキヒラ殿の方が上手と見える」グレゴリーは顎をさすりながらニヤリと笑う。
次の瞬間ユキヒラはギューズに素早く駆け寄り、大きく振りかぶって上から切り付けた。ギューズは自分の刀を横に向けて、頭上でそれを受ける。今度は金属がぶつかり合う音に加えて、電気がショートするような音も一緒に響き渡った。詠唱無詠唱の差はあっても、付加魔法自体の効果はどうやら互角だったようだ。しかし…
「付加魔法ではなく、自動回復魔法にしておくべきだったな」
ユキヒラはギューズの耳元でささやいた。ギューズは自分の腹部を見下ろす。ユキヒラの膝から飛び出た仕込み刀『膝反丸』は、ギューズの腹を貫いていた。
ギューズはたまらず回復魔法を詠唱しようとするが、その前に1歩下がったユキヒラの刀がギューズの口を真横に切り裂いた。
「それはさせないよ」
ユキヒラが横に振りぬいた刀身からは鮮血が流れ落ちる。
「お見事!」
そう叫ぶグレゴリーに、もう一人の首領が言葉を発する。
「卑怯な手を使うじゃねーか。まぁ盗賊相手に卑怯もくそもないか……。俺の名はマーズ。お前もなかなかの身体強化を持っているようだが、俺の身体強化魔法とどちらが上かな?」
そう言ってマーズは呪文を詠唱して自分の拳に強化魔法をかけた。拳はたちまち光に包まれた。その光る拳でグレゴリーに殴りかかってきた。グレゴリーはその拳に向かって自分の拳で応じる素振りを見せたが、途中でやめて体を横に動かして避けた。
「いい判断だな。あのまま拳同士がぶつかれば、お前の拳は砕け散っていただろう」
マーズは得意気に語っている。
「ふうむ。確かに大したものですな。ジョブクラスAというのもあながち嘘では無さそうだ」
グレゴリーは顎をさすりながらニヤニヤしている。
「しかし身体強化というのはこうやるもんだ」
そう言ってグレゴリーは両腕の肘を曲げて、拳を前にして構えた。拳は輝き始める。しかしマーズとは違い、その光はどんどん増していく。そうグレゴリーは先ほどの若者たちとの戦いでは、スキルによる強化しかしていなかった。今また無詠唱で魔法による身体強化をかけていた。
「お前一体……」
そう言って、マーズは一瞬たじろぐが、次の瞬間構えを取り直して言った。
「しかし俺のジョブは格闘家だ。いくら身体を強化しようとも、俺の技が受けられるかな?」
「ほう、どのような技か楽しみですな」
そう言うと、グレゴリーの拳は更に輝きを増す。もう直視できないぐらいの輝きだ。




