谷間にて(その2)
グレゴリーは盗賊の集団の前まで歩み寄る。首領らしき人物は二人いた。というかこの二人以外は、人数は多いものの妙に若い。もしかすると殆どは10代後半ぐらいじゃないかと思うくらいだった。
「拙僧は旅の冒険者でグレゴリーと申す。此度は何用で我々の前に立ちはだかるのか理由をお聞かせ願いたい」
首領らしき二人は顔を見合わせて何か話している。そうして背の高い方がグレゴリーの方に向けて言葉を発した。
「このなりを見れば分かるだろう。通行料に持っている金品全てを置いて行ってもらおうか」
「ここが貴殿らの私有地とも思えない。理由もなくお金を置いていくことはできぬが、そなたらは盗賊という事でよろしいか?盗賊という事になれば、冒険者が命を奪っても構わないというのは、万国共通かと思うが本当にそれでいいのだな」分かり切ったことを聞くなという、二人の首領とは違い、後ろの若者たちには若干の動揺が広がっている様にも見える。
「おい、このお二人はな。元々は冒険者でジョブクラスはAだぞ。黙っていう事に従った方が身のためだぞ」
後ろから一人の若者が前に進み出て叫んだ。脅している様にも聞こえるが、怪我をしないように、黙って言うとおりにしておいた方がいいという気遣いの様にも感じられる。グレゴリーは後ろを振り返りユキヒラに
「殺生はしないでおきましょうぞ」と言った。ユキヒラはニヤリと笑った。
首領二人が手を挙げると、数十人の若者がまずはグレゴリーに襲い掛かった。全員手には刀を持っている。グレゴリーは再びそちらの方を向くと、息を深く吸ってから咆哮をとどろかせた。それは辺り一面に響きわたり、少し距離を保ったコウやクニオにもビリビリと伝わった。
「今日はひときわうるさいなー」
コウは両耳を塞いでいる。
突然の咆哮に若者たちの動きが一瞬止まった。彼らに向かってグレゴリーは語り掛ける。
「一人に向かってその人数で一斉に切りかかるのは難しいでしょうな。2、3人ぐらいずつにしたほうがいい」
その言葉に従うかのように、我に返った若者から順にグレゴリーに切りかかった。グレゴリーに避ける様子はない。切りかかる刀に向かって拳を放つ。若者たちが振り下ろした刀は、次々と粉々に砕け散っていった。数人の刀が砕けたそのあと、グレゴリーは腕を伸ばし、拳を前に突き出した。
「うむ、やはりスキルの身体硬化と強化だけで、刀というものも粉砕できますな。ユキヒラ殿の打った刀は格が違うという事ですか」
グレゴリーのその言葉を聞いたユキヒラは照れくさそうに答える。
「いや、側面ならともかく正面から素手で刀を粉砕するなど、魔法も使わずにできる方はそういらっしゃらないでしょう」
若者たちは今度はユキヒラにも襲い掛かる。刀と刀がぶつかり合う音が鳴り響く。ただ若者たちの刀はユキヒラの刀と一太刀合わせただけで、次々と折れて行った。
「普通の刀であれば、私の魔切丸とぶつかればこうなるはずなんですよ。クニオ殿の刀は名刀という事です」
ユキヒラはグレゴリーに向かってそう言った。しばらく盗賊の若者たちとの間で攻防が続いた。いや、攻防と言えるほど拮抗はしていない。しばらくすると刀の無事な若者は1人もいなくなっていた。




