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天っ才探偵 奏音の事件簿  作者: ユーキ
1/1

FileNo.0 探偵モノはしょぼい事件から始まるものさ

広めの部屋で、女性と青年が2つの向かい合ったソファに座っている。女性の方はかなり思い詰めた様子で、もう1人の青年は落ち着いた声で話を始めた。

「では、詳しいお話を聞かせてもらえますか?」

「はい...」

更にソファの奥のデスクにはもう1人、セーラー服を着た少女の姿があった。

「なるほど、3日ほど前から姿が見えないと」

「はい、あの子1人で外に出たこともないのに…」

女性は話しながら今にも泣き出してしまいそうで、青年は女性にいくつか質問をしながら手元のノートにメモをとっている。それを尻目にデスクの少女は退屈そうに足を組み、艶やかな長い黒髪の毛先をいじっている。そうこうしている間に青年の質問が終わったようだ。

「お任せ下さい。必ず探し出します」

「ありがとうございます」

女性はそうお礼を言いながら何度も頭を下げ、部屋から出ていった。

「という訳です。探しましょう」

先程まで女性の話を聞いていた青年が奥のデスクにいる少女に言う。

「お前なぁ…」

デスクで退屈そうにしていた少女はため息混じりにそう言うと、足を組んだままピッと垂直に床を指差す。

「ここはどこだ?」

「貴方の探偵事務所です」

それを聞くと少女は「そうだ」と言い、続けて青年を指差す。

「今の依頼の内容は?」

「迷子のネコ探しです」

そう青年が返すと、再び少女は深いため息をついて、言った。

「そう、ネコ探しだ!別に()達じゃなくても出来るだろ!」

少女(?)はいきなり怒鳴りだした。どうやら舞い込んだ依頼に納得いかないらしい。

「そうは言っても折角の依頼なので…家賃もありますし」

「ぐっ、家賃…」

家賃、と聞くと散々悪態をついていた少女(?)は黙った。少女(?)はしばらく唸ったあと、観念したように言った。

「はぁ〜、じゃ、さっさと終わらせるぞ」

青年は分かっていた、とでも言うように返事をする。

「えぇ」

やや不満げな顔のままの少女(?)と青年は依頼人から得た手がかりを手に外へと出発した。


……………………………………………………………


さて、ここからは説明もかねて私から。ん?私が誰かって?んな事は後でいいのさ。

「ったく、俺んとこにももう少し探偵っぽい依頼が来ないもんかね〜」

「まぁまぁ、ドラマやアニメでは大体こういう小さな依頼から始まるものですよ」

「3ヶ月にも聞いたわそのセリフ」

そう文句を言いながらも依頼人から聞いた場所に向かう彼女。八譜器(やふき)奏音(かなでね)は探偵である。容姿端麗、成績優秀、運動も出来る。一見すれば何の変哲もない美少女だが、彼女には美少女が美少女である為の要素がたった一つかけていた。

「おーい神楽、こっちであってるか?」

そう。彼、八譜器奏音はれっきとした男だ。まぁなんで女の格好してるかとかは複雑は事情があったりするんだが、そういうのはこれまた後でだ。

「えぇ、突き当たりを右です」

そして奏音の助手、矢野崎(やのさき)神楽(かぐら)。奏音とは高校の同級生で、仲もいい。クラスも同じだ。こちらも成績優秀な青年で、学校という範囲で測るのであれば奏音よりも優秀。そんな彼がなぜ奏音みたいな奴と絡んでるのか、うん。ご想像通り、これも後だ。

「ここです」

神楽は先程のメモに記された、最後の目撃地点で立ち止まる。辺りには木々が生えている程度であまり物もない。奏音も立ち止まるとスマホのカレンダーで日付を確認する。

(7月5日ね。オーケーオーケー)

日付を確認した後、奏音は地面にサッと何かを描き、準備運動を始めた。

「よーしじゃ、始めますか」

おっと、そうだそうだこの世界についても説明しなくちゃならない。


この世界には〈ヴァイズ〉と言われる超能力、異能力が存在する。これはもはやほぼ全ての人類が有する能力で、その種類は様々だ。ヴァイズには4つのカテゴリーが存在し、己の肉体を直接変化させる〈肉体系(フィジカリア)〉。肉体変化でも視力の増強など主に身体能力に影響する〈影響系(インフルエンサ)〉、これは自己だけでなく他人でも影響することが多い。炎や水など自然的な要素を操る〈元素系(エレメンタ)〉。そして、時間や空間、彼方から存在する概念にすら干渉する〈根源系(アーキタイプ)〉がある。まぁこれには特に分類できないやつも雑に入れられてたりする。

さらにどのヴァイズもH(ハザード)C(クラス)というもので3段階の危険度に分類される。最近になって新たな位も出来た。


あぁ説明が長くなってしまった。すまないすまない。引き続き彼らを観るとしよう。

「いきますよ」

神楽の瞳が淡く輝きを放つ。すると辺り一帯に何かの()()の様なものが浮び上がる。

「よしきた」

奏音もその瞳を輝かせ、出現した()()の内1本を掴む。

―ったく。ネコぐらい一瞬で見つけてやる。

「行くぞ、神楽」

「はい」

神楽は奏音の手をしっかりと掴んだ。これで準備万端だ。奏音はそっと目を閉じ、ヴァイズを安定させる。

―えーと3日前だったな。3日前3日前…。

そう心の中で唱える。体が水の中を流れていくような、ゆらゆらとした感覚の中で、奏音は目的の()()にたどり着く。

「よし成功!」

奏音は目を開くとガッツポーズをしながらそう言った。一見すると先程となんら変わらない光景、何も起きていないように思える。

「相変わらず慣れませんね、成功してますか?」

「あったりまえよ!よく見ろ」

奏音はそう言って先程何かを描いていたあたりの地面を指差す。そこには確かに奏音が落書きをしていたはずだが、地面には何も描かれていない。スマホのカレンダーも7月2日になっている。

「目印が無いからな、無事に3()()()に来た」

「なら良かった。早速探しましょう」

神楽はそう言って辺りを見回す。辺りの景色は変わらず、特に何の手がかりもない。

「ネコの特徴は?」

そう聞きながら奏音は神楽の持つノートを覗き込む。神楽は奏音が見やすいように手に持ったノートを少し下げた。

「ふむふむ、スコティッシュフォールド、グリーンの瞳、赤い首輪ね…」

そう奏音が言った瞬間、2人の横を1匹のネコが通り過ぎた。

「「あ」」

赤い首輪をつけた、グリーンの瞳のスコティッシュフォールド。まさしく今探しているネコである。

「追うぞ!」

「はい!」

奏音達はそのネコを追って走り出す。ネコはブロック塀や家の屋根を登ってずんずん進んでいく。奏音達もその後ろをなんとかついて行く。気が付けば最初にいた広場からだいぶ離れたところまで来た。

「どこまで行くんだ」

「奏音、ヴァイズで飛ばした方が早いんじゃ」

「あ確かに」

神楽の瞳が再び淡く輝く。と同時に周囲にまた流れの様なものが浮かびぶ。その中の1本は前方のネコから伸びていた。それを奏音が掴み、こちらも瞳を淡く輝かせる。

「一気に行くぞ」

奏音がそう言うと、ネコの歩行速度が上がった。それに釣られて奏音達の速度も上がっていく。


さてここでまた私から。この2人のヴァイズについて語っておこう。

まず神楽のヴァイズ、〈万物万象干渉〉。H(ハザード)C(クラス)は上から2番目のメガル。カテゴリーは影響系(インフルエンサ)。この世に存在するありとあらゆる物、更には概念、現象に干渉出来るようにする。平たく言えば時間とか空気とか、普通には触れないものに触れるってことだ。

そして奏音のヴァイズ、〈早送りと巻戻し(ハイアンドロー)〉。H(ハザード)C(クラス)は1番下のキロト。カテゴリーは影響系(インフルエンサ)。自身が触れられるものの状態を早送りしたり、巻き戻したり出来る。奏音はこれにより今回のようにタイムトラベルをしてるって訳だ。

ん?時間には触れないって?そう、そこで神楽のヴァイズだ。神楽のヴァイズによって()()()()()()()()()()()奏音のヴァイズの発動条件に無理矢理適応させる。それで初めてタイムトラベルなんていう荒技が出来る。ただ、半ばバグの様なものだからなのか、タイムトラベル先でのこちらからの干渉は不可能。言うなれば、2人はテレビなんかの映像に入り込んでいるようなものだ。


「あと1日分か」

ネコに紐づけられた時間を早送りして、ネコの動向を追う奏音達。グネグネと曲がりながら進んでいるが、かなりの距離を移動している。既に早送りではあるが2日分の時間を移動した。

「ん?」

散々移動したあと、小高い鉄塔に登ったところで、ネコはそこから降りて来なくなった。どうやら高い所に登って降りられなくなったようだ。更に1日時間を早送り―つまり元の時間に戻ってきても、居場所は変わらない。

「これじゃ飼い主さんは見つけられねぇな」

「予想を超える移動距離でしたね」

最初の広場から、直線距離でも1.5kmは離れているだろう。しかも高い塔の上だ。普通に探していればまず見つからないだろう。

「ほーら、降りておいでー」

奏音が両手を伸ばしてネコを下ろそうとする(そもそも両手を伸ばしたところで高さが全然足りていない)が、ネコは降りてくる気配がない。

(そもそもネコって高いところ苦手だった気がする。あ違うか、高いところが好きだけど降りてこれねーんだっけ?)

「神楽、これ登れるか?」

「うーん。あの高さまで登るのはちょっと辛いですね」

ネコまで目視15m程、結構高い。

「まぁ、登らなければいいんですよ」

神楽はヴァイズを発動させる。周囲に発生した流れの中から空気の流れを掴んで上に登る。ヒョイヒョイと上に上がる神楽を奏音は下から見ていた。

(最初からこうすりゃ良かった)

「奏音ー、捕まえましたよー」

鉄塔の上から神楽が叫ぶ。奏音も両手を口の横に当てて叫び返す。

「よーし、そのまま降りてこーい」

神楽は両手でネコをしっかりと抱え、ジャンプしながら何も無い空間をまるで階段でもあるかのように降りていく。

「サンキュ」

「いえいえ」

「てか神楽、お前いつまで敬語なんだよ」

「あぁつい癖で」

「ったく、応対した後は決まってこうだよな」

「んっん!じゃあ奏音が応対するか?」

神楽は咳払いをするといつもの口調に戻り、奏音に言った。

「はっ、俺が応対したら依頼人がいなくなるぞ?」

「それ、エラそうに言えることじゃないからな」

神楽は依頼人に「ネコを無事保護しましたので事務所に来てください」と連絡をし、奏音達は事務所に戻っていった。


……………………………………………………………


「いやーそれは大変でしたね〜」

事務所に入ろうとすると、中から話し声が聞こえる。時間的に、依頼人の方が到着していてもおかしくないが、話し声がするのは不思議だ。誰か連れ合いがいるのだろうか。

「すみません、遅くなりました」

神楽が玄関を開けるとまず左のソファに座っている依頼人の姿が見えた。話し相手の方は右のソファに座っていた、背丈からして学生のように見え、顔が髪で隠れてよく見えない。が、2人には察しがついている様だ。奏音が露骨に嫌な顔をする。

「ニャーン」

「あ」

神楽が抱えていたネコが腕から抜け出し、依頼人の元へ一直線にかけていく。

「ありがとうございます」

ネコを抱きかかえた依頼人は頭を下げてそう言いながら事務所から出ていった。

「お手柄だな〜奏音〜」

「っるっせーな、だいだいなんでいるんだよ」

先程依頼人と話していた人物が奏音にそう話しかけると、奏音はウザったそうに返した。

「なんでって、大家だからに決まってるだろ」

大家と名乗ったその人は「当然だろ?」みたいな顔で奏音に言う。

「あ、依頼料は受け取っといたぞ」

封筒をヒラヒラさせながら大家は言う。

「これで家賃は払えるでしょう?梨葉さん」

「おうよ、安心して探偵してくれ」

神楽がホッと息をつく。これで来月も安心だ。

「ぼったくりー」

「平均に比べりゃ安いだろ」

「神楽がそんなんだから足元見られんだよ」

「奏音がそんなんだからこの人に借りてるんだろー」

奏音と神楽がいつものように言い争いをはじめる。うん、今日も仲良しで何より。

「さて…」

大家はくるっと振り返り、部屋の誰もいない方を見る。


久しぶりの方は久しぶり。初めましての方は初めまして。

私は音伽(おととぎ)梨葉(なしは)。この2人の探偵事務所の大家でありアドバイザーであり保護者だ。あとストーリテラーでもある。そ、ご明察の通り、途中で奏音達の動向を語っていたのは私だ。ヴァイズは御伽の守人(フィクショントリガー)。おとぎ話のような事象の具現、行使が可能だ。簡単に言うとおとぎ話っぽいことがなんでも出来る。ちなみにH(ハザード)C(クラス)は1番上のギガンデ。カテゴリーは影響系(インフルエンサ)。しかも(カムロ)だ。

あぁ、(カムロ)っていうのは最近になってつくられた新たな位だ。詳しくは言わないが。


「おい、いつまでいんだよ」

「いや大家だし」

「奏音はなんでそんなに梨葉さんに突っかかるんだよ」

「うるせー」

へっ、とそっぽを向いて奏音は自分の椅子に戻った。神楽もソファに座り、報告書を書きはじめる。

というわけでこれがこの『八譜器探偵事務所』の日常だ。ここまでどうもありがとう。気になったらまた見に来てくれたまえ。

八譜器奏音

17歳。男。172cm。A型

セーラー服に身を包む高校生。れっきとした男であるが、艶やかな黒髪、端麗な顔立ちと、黙っていれば美少女である。訳あって梨葉から事務所を借り、探偵事務所をやっている。


矢野崎神楽

17歳。男。178cm。B型

奏音と共に探偵事務所をやっている高校生。パーフェクト八方美人。話す相手に応じて話し方が変わる。たまに戻らなくなる。

感受性が高く、アニメや漫画のキャラに影響を受けがち。


音伽梨葉

??歳。女。167?cm。?型

ストーリーテラー。

奏音達に事務所を貸し出している大家。一際強力なヴァイズの持ち主に与えられる称号、(カムロ)を有している。

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